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夜桜一献

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陰陽庁怪異対策課京都支部

第十二話

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 奈良にある市の病院では、奇妙な事が連日起こっていた。原因不明の昏睡状態の患者と原因不明の衰弱症状が急増している。しかも、全国的に広がっていてメディアも薄々気づきはじめ、パンデミックが起こる可能性もあった。医師達は新型のウィルスや細菌のせいではないかと調べているが健康的な身体にまるで魂が吸いとられているかのような奇妙さを覚えるばかりで困惑しているのである。それから、衰弱していく奇異な症状を訴える者は発症してから一週間で死んでいく。その者達は皆口を揃えて同じ事を言う。

「ゲームに呪われた」と。

人は何もされていなくとも、思い込みだけで傷を作る事例がある。ある聖職者は神を身近に感じる事で、聖痕(スティグマ)と呼ばれる釘が打ち込まれたかのような傷跡を手足に残したという。また夢の中で体に傷を負った際、起きてから痛みを訴える等錯覚を起こす事で人は痛みを感じる事もあるのである。それならば、思い込みで解決を図る事も可能ではないかという院長の考えにより、地元の神社の関係者にお祓いをお願いしてはどうかという現代医学の敗北ともとれる提案に、病院に10年勤める医師の一人は呆れていた。政府関係者との密談もあったという噂もありきな臭さを感じつつ後学の為に是非そのお祓いを拝見したいと申し出て部屋の隅で煙草を吸って見守っているのである。帯刀した若い巫女の女性が五枚の札を貼り付けた床に置き光り輝くサークルを出すと、携帯から黒いもやが発生してそこから大きな一つ目のけむくじゃらが現れる。

「そこから動かないで下さいね」

抜刀による一閃の筋が見えたかと思うと、直ぐ様化け物が霧散する。すると、患者の体に生気が戻り病状が消えたように見える。いつの間にか刀を鞘に納めいつ抜いたのか視認出来なかった。

「なんだ、俺疲れてんのかな」

目をゴシゴシ擦ると、全て終えたかのように巫女の女性は笑顔でこういった。

「これで、お祓いは終わりです。何か見えましたか?」

「いや、何も見なかった事にするよ。失礼ですがお名前は?」

「五鬼真義(ごきしんぎ)と申します。次の患者へ案内出来ますか」

奈良県の陰陽庁本部は奈良市にある。最強の式神を生んだ役小角の眠る地であり、前鬼、後鬼の生んだ5人の子供達は師の最後の遺言である修現者と山を越える者の為の宿の運営を1300年が経過した今でも続けている。宿を末弟に任せて残りの4人は陰陽庁に属し、うち一人は幹部にまで上り詰めた。真義は患者4人を見たが、2人助ける事が出来なかった。残りの2人は携帯を持つ者と違って“呪われた者”達。

(相手が悪いわね、妖怪の所在を掴まねば被害は増える一方だわ)

仕事を終えて病院を去ろうとすると、廊下で一人の少年が立っている。夕暮れ時の陽光が窓から差しており、顔は見えにくいが色白で赤いフード付きのパーカーを着ている。

「やあ、ようやく一人見つけたよ。最強の式神が生んだ守護鬼」

「それを知って尚挑むとは、余程のお馬鹿さんね」

真義は刀を構えたが、急に動けなくなり驚愕する。少年が手を掲げると周囲に式の呪法が浮かび上がった。

「そんな馬鹿な!?我らを式に出来るのは・・・・・・」

真義の肌に赤い紋様が加わり、髪が青から赤へと変色した。額には角が浮かび上がり、目は金色に輝いている。

「これで準備は整った。さぁ、攻め入ろうじゃないか京都へ」

少年がそう言うと、真義と共に姿を消した。


街の喫茶店に、二人の女生徒がスイーツ半額を聞きつけてパフェを注文した。一人はボーイッシュで凛とした顔だちの女の子。もう一人は赤い髪の癖のある長髪の少女だった。それぞれチョコレートパフェとマンゴーパフェの味に満面の笑みを浮かべている。

「これ美味しいわ。つか食べてる最中に携帯止めなさいよ」

「ごめんごめん、今ネットでちょっと騒いでいるから気になって。呪いのアプリが本物だって皆ネットで書き込みしてんの。すごいと思わない?」

「全然、ていうかまた妙な事に首突っ込まないでよ?」

「分かってるって。ちょっと、気になっただけだから」

赤い髪の少女は携帯を鞄にしまって、スイーツを頬張る。甘い生クリームの味が口一杯に広がって、2人はスイーツを満喫した。
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