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The black cat rage about
第ニ話
しおりを挟む陰陽庁 の幹部会にて、重苦しい雰囲気が漂っている。先の件で本部が襲撃され死者、重傷者多数。幹部も数人の穴が空き急いで穴埋めに入らねばならない。
「提案を出したい所であるが、まずは尋ねたい。隠居された貴方が議長の座に座る理由をお聞かせ頂こう」
議長でありながら、先手を打たれた責任を果たすべくその座を孫に譲ったご隠居さんが何故その場に居るのかと誰しも疑問である。
「ふむ、清治は言っておったじゃろう、自分が不在の時はわしが代理を果たす時もあると。今は東京に前の件で説明に国会に行っておる」
それ故の代理をしていると水蓮は告げた。何が隠居かと玄武は小声で悪態を吐く。
「それで、提案とは何かの」
「決まっておろう、幹部の補充をせねばなるまい?組織を円滑にせねばならんしな」
一部の幹部はうんうんと頷いた。多数決で決まる事の多い組織故に派閥の拡大は重要事項。いかに晴明の一族が決定権が強くとも組織を牛耳られては組織は動かせない。それほど陰陽師の資質があるとは言えない清治と京子の叔母が幹部に就いたのもそう言った側面も強い。
「なれば、某に1人推したい者がおるでおじゃる。前回そこなアホに殺されかけた身を考慮し優先頂きたいでおじゃる。当然であろう?」
彦麿呂に何も言えない紅葉の父が顔を反らした。
「わしも一人二人居るの。どうであろう、ここで幹部昇格を行い幹部を増やそうぞ」
議長の水蓮は美味しそうにお茶をゆっくり啜って一息ついた。
「いや、清治から今回は一先ず問題を出しておいて一切何も決めないようにと言われとる。なんで、幹部昇格と補充の他に提案があれば聞こうかの」
星蘭、羽津流が吹き出し、他にも笑いが生じる。梯子を外された2名の心の背景に驚きと衝撃の雷が落ちていた。
私は生前の主の家を見守ってきた。現代は取り壊され全く別の建物に変わってしまっているものの、今でも周辺の懐かしさは感じている。建物の中に住む人が出て行って居なくなった時もあれば物件の業者がやってきて、住む家を募集している人間にここはどうかと案内している光景もちらほら見られた。新しい家族が家の前に現れた。私は挨拶代わりに、縁側から3人に挨拶をする。眼鏡を掛けた優男、和服の白い肌の女性、そしてその女性によく似た幼子。
「猫さん!!可愛い!!」
「そうだね、前の飼い猫かなぁ」
一人、凛とした女性は物珍しそうに私を見るなり言い切った。
「ああ、聞いた事あるわ。この辺に二又の土地神様が居るって」
どこから聞いたのかと、一瞬警戒する。
心配ありませんよと、彼女は笑顔を返して来た。
「ほんとだ、尾が二本ある」
「猫さん!!猫さん!!」
娘がはしゃいでいる。私は女性の前で顔を見上げた。
「大丈夫なのかい?妖怪なんだろう?」
「心配はいりませんよ。聡明な方だと聞いてますので」
まぁ、伊達に長生きはしてない。
「名も存じませんが、どうぞ私たちを守って下さい。これから宜しくお願いしますね」
そう言って、私はこくりと頷くと3人家族との生活が始まりを告げた。夫はどうやら、営業マンらしく毎日忙しそうに朝出かけるのを見送る。幼子は学校があるので、日中は自然と女性と居る事が多くなる。縁側で、せっせと布団を干し部屋を掃除して洗濯する。不慣れな手つきで、テキパキとは言い難いがこなせた事に本人も満足気な表情を浮かべている。昼過ぎになって、お昼ご飯を頂く。その日は焼いた鮭だったので美味であった。子供が帰ってきて、二人で一緒に買い物へと出かけようと玄関の前まで来た矢先、黒い一台の車が家の前に停車する。窓が開くと、老人が女性に声を掛けた。
「和香、家の為にあの男と離縁を受けれぬか。相手は陰陽庁幹部の一人でお主を真に気に入っておる」
その彼の事を知っているのか、うんざりした表情を見せ怒りすら顔に出ている。
「お父様、幹部の男の一族と近づく為に本気で孫を捨てるおつもりですか?」
陰陽庁の事は、良く知っていた。何せ昔妖怪討伐と言って殺しに来た連中も居たくらいである。返り討ちにしてやったが。和香と呼ばれた女性は、ぎゅっと幼子の手を握った。
「相手が、亜子を気に入ってはおらんでな。何、もう一人作ればよかろう 。お前が受け入れず、家を出てからも彼の愛は変わっておらん。寧ろ催促されておる。わしの反対を押し切り、あんな男と結婚したのも間違いだったのだ。今からでも遅くはない。しきたりに従い、陰陽の血を残せ」
和香は、これが実の父の言葉かと耳を疑った。
「お前が、結婚さえしてくれれば、亜子にも色々と便宜を図ってやれると思っておる。父の最期の頼みを聞いてくれぬか」
「お断りします。孫を捨てて何の便宜を図ると?冗談も大概にして下さい。世界は陰陽の世界で出来ている訳でじゃありません。私もこの子にも今後一切のそちらへの関わりは断たせて頂きます。私だって、この子の為なら料理だって、洗濯だって、掃除だって家事をこなせるんです」
「そうか、ならば無理にでも連れて帰るとしよう」
車から、黒い服にサングラスを掛けた2人の男が降りてくると、文子を無理やり車に入れようとしてくる。
「離して!!こんな事で、私が素直に受け入れるとでも?」
「【その時の事も考えておる】よ。――ッぬああああああああ!!!!」
私が、爺さんの顔に思い切り爪を引っかく。
「糞、このアホ猫めっ!!、おい、お前らこいつを何とかせい!!」
「わっ・・・・・・分かりま した!!この!!」
「大人しくしろ!!」
「馬鹿モン!!そりゃわしの股座じゃ!!」
和香の体を解いて、男二人は社内で私と格闘中。するするすり抜ける私に二人も驚いているようである。この騒ぎの隙に、二人はその場を離れたようですでに周辺に気配は無い。ひょい、と窓から車から降りて、塀の上へと昇って屋根へと上った。このままで済まさんという老人の呟きが、耳に残り黒い車はその場を去っていった。
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