Voo Doo Child

夜桜一献

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The black cat rage about

第四話

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 亜子が、元気なく学校に向かう中、私は分身を一つ作って彼女の後を追う。一方で私本体は旦那の後を追いかける事にした。こっそりと後を付けて駅に向かい、電車に乗って椅子に腰掛ける。旦那が私に気づかない距離を保ちながら、欠伸をする。30分が過ぎる間に、物珍しい猫の乗車に人が良く構ってくる。御婆さんが珍味をくれたのでそれを朝食として、頂いておいた。旦那が電車を降りたのを確認して今度はタクシーに乗り継いだ。すかさず、屋根へと上る。結構なスピードで、振り落とされないように踏ん張った。やがて、竹林の多い場所になり目の前に大きな屋敷が見える。裕福な暮らしが伺えた。旦那が必死にチャイムを鳴らしているが、全く出る気配が無いと見える。中に潜入しようと試みたが門に結界の札が貼ってある。試しに分身を一つ作って塀を乗り越えようとしたが、結界によって電撃が走ったかと思えば分身は消滅した。隙なく結界を貼ってあるせいで忍びこむ事は難しそうだ。困り果てて居ると、誰かが後ろから声を掛けてくる。

「あんた、この辺のもんじゃねえな。余所のもんが何のようだ」

動物の世界じゃ新参者は大体、こういう目に遭う。まず、ちょっと顔を見せに来いよと絡まれるのが常である。犬の世界だとおしっこで縄張り争いしてる訳だが人間は鼻が利かないらしいが、敏感な我々にしてみりゃ散歩させるなと突っ込みたくなるような縄張り争いホットスポットが存在し、えらい臭いがするので近づかない場所がある。ここは私有地故か、そういった臭いもしないので絡まれた事が少し意外に感じられた。

「おい、尾が2本ある。猫神様だぞ」

「うお、本当だ。俺初めて会ったかも」

近所に住む猫達。ぶち猫の兄弟と見える。ちなみに妖怪に昇華した存在は恐れられ、敬われる。自分達もいつかなれたらいいなと思って年老いて死んでいくものが殆どで、妖怪へと経るのに何が必要かと問われれば何なのか自分でも良く分かってない。

「俺一回別の猫神様見た事あるぜ。すんげー爺さんだったからもうくたばってるかもな」

この家の中に入って貰えないか尋ねてみると
冗談もよしてくれと言わんばかりの反応だった。

「猫神様知ってるかい?この辺で猫を殺しまくってるキチガイ野郎が居るって話」

「それな」

「最近このへんで猫殺しが流行ってるからあんたも気を付けなよ。この前は餌に釣られて籠に捕まったら無残な姿に変えられたって話さ」

「俺は橋の下で頭かち割られたって聞いたぜ」

「おお、怖い怖い。全く、人間ってのは碌な事しねえ」

「そんな訳で、今人間に近づこうなんて物珍しい猫この辺じゃ居ないのさ」

うんうん、と頷いて私にぺこりと頭を下げて猫の兄弟は去っていく。自分一匹では、残念ながら和香の救出は出来そうにない。旦那が玄関で立ったまま動かない。仕方なくそれに付き合う事にすると旦那が、こちらに気づいた。

「うちの猫に似てるな。そんな訳ないか」

溜息を吐いて、彼はそれから何時間と待ち続けた。その途中で分身の方で動きがあるのを悟る。丁度、学校が終わり登下校中に、ひらひらとあの式神を操る術札が空に舞う。大型犬程の身の丈の蟷螂が現れ、空を飛ぶ。気づかぬ亜子に、襲い掛かろうとしてきたのでその前に、人に戻り一刀両断に切り伏せて、事なきを得る。彼女はこちらに気づいていない。安堵して猫に戻り護衛を再開し旦那は、結局和香に会えずに肩を落として帰宅する事となった。


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