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夜桜一献

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Revenge tragedy of agent Ⅲ

第一話

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 騒々しい音と、人のざわめきが聞こえる。建物の周りには、大勢の警察官、マスコミ、野次馬で溢れている。殺人鬼として犯罪を繰り返し、嗅ぎ回られて見つかり、今にもその人生に終わりが近づいている。泣きそうな人質を前に出し、窓から顔を出すと入って来れないように威嚇した。マスコミが騒ぎはじめて、それから一発の銃声が響き渡る。一瞬で目の前が暗くなり、体の感覚が消え失せ、徐々に温かみが消える。肌寒い感覚が生まれて次に目を開けた時には警察官が部屋に侵入し死んだ自分を確保した。それを、横から眺める自分がおり、状況が分からずパニックに陥る。吃驚して捕まるまいと抵抗しようとしたが、警官は自分の体を素通りする。まるでそこに居ないかのように。直ぐ様死体が運ばれ、遺体を検分された後病院の死体安置所に置かれる事となった。自分はふわふわと空中を浮かんでいる。遺体から赤く伸びた光輝く鎖が自分の足と繋がっており、自分の死体から離れる事は出来ない。暫くして、どこからともなく門が出現した。驚愕して逃げようと泳いだが鎖が邪魔で離れる事が出来ない。中からは大きい髑髏が顔を出し、手を自分の方に向けてピタリと止まる。人間の骨ではない。一角の巨大な鬼の髑髏だった。

「オカシイ、死ンダ魂ガ繋ガッテイルトハ。余程コノ世二未練ガアルカ、或イハ・・・妖怪トシテ覚醒ガハジマッテイルノカ」

地獄に逝かなくてもいいのかと淡い期待をしていると見透かされたかのように言ってくる。それもハッキリ分かる嘲笑で。

「オマエノ末路ハ消滅イガイニナイ。転生デキズ消エテユク。精々、ソレマデコノ世デサ迷ウガイイ」

門の中に戻って、鬼の髑髏は消えて行く。同時に鎖に引っ張られ、自分の体に吸い込まれていく感覚を味わった。爆発と轟音が響き渡り再び自分の体と混じる。意識を取り戻し、ゆっくりと周囲と自分の体を確認した。安置所が爆発で滅茶苦茶になり天井は崩落している。自分の体のようで全くの異質。顔も違えば肌も黒と緑が混在する確かに化け物と言って良い。炎が揺らめく灼熱の最中、化け物として二度目の産声を張り上げた。


  時は一馬達が捕らえられる前に遡る。京子は、京都にある観光地の一つ伏見稲荷の階段を登っていた。手には菓子折を一つ包んで手に下げている。時刻は午後7時を過ぎる頃合いで、今は人の気配はない。千本鳥居が有名で沢山の鳥居を潜りながら神社を巡る京都の中でも人気のあるスポット。丁度半分を登った所で鳥居に触れると目の前の空間が歪んだ。大きな穴が見え恐る恐るその空間に入って行くと、人間の世界とはまた別の、かつて自分の祖である安倍晴明が創生したと言われる妖怪の世界へと足を踏入れた。目の前には坂になっている道が見え、上を見上げれば妖怪屋敷と言われる九尾の狐が統括を務める建物があり下を見下ろせば江戸の下町のような妖怪達が住まう世界が広がっている。端から見ていても、人間が居ない事は明らかで、人外の存在が往来を行き来している。空から一匹の烏丸天狗が降りて来ると、京子の前で止まる。烏丸天狗は京子の服にある陰陽庁関係者のバッジを確認すると話しかけて来た。

「主より話は伺っております。が、その肝心の主がお嬢で・・・げふん!!えー・・・今屋敷におりません。ので、暫し町で待機して頂くようにと伺っております」

「襲われないか心配なんですが」

「ご安心下さい。用心の為私が案内するようにと言われておりますので」

そう言われて、京子は下町へと案内される事となった。






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