Voo Doo Child

夜桜一献

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Revenge tragedy of agent Ⅲ

第十一話

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 化け物の姿は浜田和則に戻り、そして瞬時に老化が進み老けていく。顔には皺が寄り、30年以上の歳月が流れた姿となった。彼の遺体の前には浦美と、彼への恨みを晴らすべく集まった者達が立っている。

「貴方達の怨みは晴らしたわ。ごめんなさいね、こんなに時間掛かってしまうなんて」

黒服の集団は全員、生前の衣類に戻り晴れやかな顔で首を振った。

『ーーーーーーーーーーありがとう』

全員の感謝の念が聞こえ、光の玉となって天へと還って行く。輪廻の和に戻るために彼らはこれから長い旅路を始めるのだ。陰陽庁の者達も仮面を外してその光景に見惚れている。

「長い間苦しんで、今ようやく解放されたんですね」

「ええ、これからは憂いなく成仏して欲しいわ」

和香と結衣、そして早苗がこくりと頷き、目に涙を浮かべる。一人、その場に駆けつけた京子だけが、上を向き信じられない光景を目の当たりにしたように唖然としていた。一人の魂がその場所からある人物の元へと駆けつける。記者会見が終わり、病院を出て職場へと戻ってきた一馬は自分のした事に今でも驚いていた。正志からは散々騙されていると言われたが、あの電話のやりとりのほんの数分間、一馬は確かに殺されたはずの姉と会話をしていた実感があった。時刻は夕暮れ時、窓からは赤い日差しが職場を彩る。深雪は居ない。恐らくどこかで適当に時間を潰していると見える。煙草に火を着け、煙を肺に流し込む。

『ありがとう。一馬が手伝ってくれたから化け物は退治出来たよ』

急に、姉の声が後ろから聞こえてきて煙草を持つ手が震える。堪えきれずに涙を溢して声に出した。

「姉ちゃんの助けになれて良かったよ」

嬉しい気持ちが沸いたが振り向かなかった。

「ごめんな。俺だけが生き残っちまった。俺も一緒に居るべきだったよな」

あの時、下に行かずに一緒に居れば姉一人死なせずに済んだ。それを一馬はずっと後悔していた。

『そんな風に思わないで。私の時間は奪われちゃったけど貴方が残ってくれて神様に感謝してるんだから。私はもうあの世に行くけど、一馬はちゃんと誰かと結ばれて子供や孫に看取られて往生しないと来ちゃダメだからね!!深雪ちゃんていうの?見た所相性は良いと思うよ』

思わず、姉の最後の一言に吃驚して振り向くと、姉の姿はどこにも見えなかった。代わりに、入れ違いになるように深雪が扉を開けて入ってくる。

「ちょっと!!一馬さんどういう事ですか!!あの記者会見何なんですか!!ていうかニュースキャスターと知り合いって本当ですか!!サインお願いしていいですか!!いいですよね!!私ファンなんですよおおおおおおおおお!!」

煩いのが戻って来たと、一馬は肩を落とし
それから姉の心の重荷を消せた実感が彼の気分を高揚させたのだった。


 浜田和則の遺体は再度死亡報告書の作成をする為に一度病院へと運ばれた。マスメディアは動かせないもののある程度陰陽庁の方で警察と連携が取れる為裏を合わせて今回も警察の尽力の結果、頭部に被弾した一撃の末の即死と報告書を纏めた。浜田和則2度目の射殺の一報に世は騒ぎお祭り状態となった。それから恐怖で包まれていたムードも一変してガラリと変わり、何事もない日常が戻って来た。解剖医二人は上からの通達があり一応再度確認を行ってみたものの、彼の頭部には古い傷が一つあり額からの銃による一撃で即死。そして新しい傷はどこにも見当たらず、彼はこの長い間死者として動き回っていた事になる事実結果に二人は戦慄した。

「・・・上には、まあそう書けって言われちゃいるが」

「何か怪しいですよねえ。さっさと報告書纏めて終わらしましょう」


「そうだな、何かまだ生きてるみたいで気味が悪いし」

「ハハハハハハ、確かに今にも動きそうですけどホラー映画の見過ぎですってばーーーー!!!」

横たわる死体がギョロリと解剖医を睨む。
思わず腰を抜かして床に倒れた。

「あわわわわわわわ!!そんな!!死体が・・・」

「死体がどうしたって?」

もう一人が覗き込むと、遺体は安らかに眠っている。

「しっかりしろよ。おい、立てるか」

「すみません、過労でしょうかね」

一瞬そう見えたが、本当に気のせいだったらしい。

「そうだろうな、今夜は一杯いくか」

二人は眠る死体に安堵して、作業を再開した。



今回の件で陰陽庁も面目躍如が保てたが
京子は魔法省と本部にちょくちょく呼び出されては今回の一件の報告と反省の為のお叱りを受け支部局長としての洗礼を浴びせられた形となった。今後も京子自身が動ける場面は少ないだろう。それでも制御の為にと幾らかの実験に付き合わされているうちは何か兄が隠している事があるに違いないと踏んでいた。陰陽庁の支部には、今は社長が浦美に毛を撫でられて気持ち良さそうにしている以外には特に問題はなかった。いや、否。京子自身のプライベートを除いては。携帯に電話を入れて繋がる。

「もしもし、紅葉?あの時はしょうがないっていうかその」

「ブツッ」

ツーツーツと電話が切断される。こんなやりとりがすでに十数回。

過去紅葉を怒らせた例の中でも一番の険悪ムードになっていた。ため息を吐いて、京子はお茶を啜る。

「ごめんなさいね、妹がむくれちゃって」

「いえ、早苗さんが悪い訳じゃ・・・私ももう少し考えて言えば良かったと今どれ程後悔しているか」

本気で頭を抱えて机に踞った。

「でも、少なくても私は京子ちゃんに感謝してるわ」

自分があの時命を失っても紅葉が居れば家は安泰だ。

「そう言って貰えると助かります」

紅葉の事はゆっくり考えよう。その時思った決断が思った以上に関係がこじれたままにしてしまう事を彼女は今は知る由もないのだった。


FIN
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