Voo Doo Child

夜桜一献

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The killer of paranoid I

第一話

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 新年を迎えてすでに3月も終わり、卒業式ムードが高まる桜芽吹く季節。路上ライブが行われている広場には小さな人だかりが出来ていた。インディーズの地元に少し名の知れたバンドで歌唱力も、技術力もまだまだ未熟と言える。時刻は日曜日の午後15時半頃で行き交う人の数も普段よりは多かった。それもあって路上ライブは成功と言えた。バンドメンバーはほっと安堵しているようにも見える。

「本日最後の曲行きます!!皆さんありがとう御座いました!!」

そう、歌手が叫んだ瞬間、急に前に出て彼女を突き飛ばし、マイクを奪って叫ぶ男性が現れる。全員がきょとんとする中、男は声高に叫んだ。細身で色白、目には隈が出来ており目は虚ろでどこか精神の異常を思わせる。

「こんな歌より、我が神テラメア神を敬え!!俺の声を聞け!!我が声は神の言葉なり!!神は告げている!!私の前に平伏し敬わぬ者には地獄の審判が下ると!!今声を聞き届けた者には極楽への道を示されるであろう!!そこのお前!!今神テラメアの信徒になるなら私の元へ来い!!何故離れる!!」

強烈な一言に、人だかりは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。バンドの面々も面食らった顔で男に怯えている様子だった。中高生の男女混合メンバーで、まだ幼さが残る面立ち。男はにやとして、バンドの面子に声を掛けた。

「お前たちは音楽等捨て、我が神テラメアの信徒になるべきだ。そうだろう?」

「ーーーーーーひっ!?」

手を差しのべられ、少年は余りの迫力に呑まれた。

「おっさん。路上ライブの邪魔なんだけど」

男の後ろで、声が聞こえた。後ろを振り向くとバンドを見ていた者達が逃げる中、最後の一人になって立っている。自分もバンドをしているのかギターケースを抱えており、男の行動に憤りを感じている様子。

「お前は最後まで残った信徒か」

「どう解釈すりゃーそうなんのよ、変な宗教勧誘は他所でやりな」

金髪の少女が手に何かを握りしめた。男を通り過ぎたと思うと何かの壊れる音が聞こえた。その瞬間、男の目が段々と生気を取り戻していく。

「・・・・・・テラメアって何なんだ?何故俺はこんな糞神に嵌まった!?何故俺はこんな怪しい団体に貯金を全部預けてしまったんだ!!!!!!!」

「いや、こっちが聞きたいんだけど」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!俺の金返せ糞が!!」

そう言って、焦りながら男は猛スピードで明後日の方向に駆け出した。バンドの面々は、何が起こったのか理解出来ない。唯一、金髪の少女だけが何が起こったのか理解していた。少女は自分の手の平を見つめて、自分の中にある力の存在を確かめた。

少女の名前は鈴鳴夏樹 物語の始まりは、今より少し遡る事となる。





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