Voo Doo Child

夜桜一献

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The killer of paranoid I

第五話

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 放課後になり、夏樹は図書室で本の整理を行っていた。協力する代わりに、図書室の整理を手伝って欲しいと言われ夏樹はしぶしぶ溜まった本を本棚に返却していく。マンガはよく読むが文字だけの本を読んだりは余りない。手に取った本のタイトルは北海道の動物を追いかける実話でなんでも昔動物王国なるテーマパークを開いた偉大な人の話らしい。読んでいると怒られてしまった。40分程作業を続けて、ようやく解放された。

「夏樹、ありがとうね」

「いいって。ギブアンドテイクって事で」

図書室から出ると、時刻はすでに17時前。3階の廊下は日が沈む前の赤い夕暮れに彩られている。ふと奥を見ると、自分と同じ顔の人間がこちらを見ていて、容姿や服装も同じで流石に夏樹も動揺した。驚いた夏樹を見透かした様に彼女は微笑んでいる。息が止まり、冷や汗が流れる。暫くの時間が流れ、お互いを目で認識する。急に現れると思っていなかったので流石に夏樹もどう反応していいかわからない。とは言え、わざわざ向こうから来てくれたのは有難い。

心臓が大きく鼓動し脈うつ。張りつめた緊張が空間に漂う。

お互い、どう動くか見定めている。

(落ち着いて、冷静に、今!!!)

呼吸を整え夏樹がダッシュして追いかけると、偽物も同時に階段をかけ上った。螺旋構造の階段を上り、屋上にでると逃げも隠れもしないといった態度で待ち構えている。風が吹いてお互いの髪が靡く。

「なんであたしにこんな悪戯する訳?万が一納得出来る理由があったら聞いたげる」

そうでなければ痛い目にあってもらう。

「理由?それならたった一つよ。私はーーーーーー」

偽物の目が赤く光り、腕を伸ばして夏樹の首を締める。力が強く夏樹はもがきながら必死にほどこうと抵抗した。

(嘘でしょ、こんなーーーーーー化け物がいるなんて!!!)






ーーーーーーーーーー貴方を殺して、貴方という人間になる




「カハッ」

(やばい、息が出来ない!!)

夏樹は必死にもがいているが振りほどけない。全神経を集中させ、一気に力を込めてある一点に集中した。ポキッという耳障りな音と化け物顔が苦痛に歪み、その隙に手を振りほどいた。相手の小指をへし折ってやったが上手くいったらしい。安堵する間もなく夏樹は屋上から逃げ出した。下の階段で廊下を走り抜ける。なるべく離れたいという思いが取った行動だった。突然窓から音がして振り向くと怒りの形相をした自分が這うように移動して凝視している

「スパイダーマンじゃあるまいし、わけわかんないんだけど!!」

窓を割って手を伸ばし捕まえようとしてきたのですかさず回避した。廊下の端までくると、階段を降りようとした矢先、大きな音が聞こえて思わず夏樹は動きを止めた。下の階の廊下から先回りしたらしい。階段を登ってくるのが見え、夏樹は反対側に逃げようとすると足首を捕まえられる。そしてそのまま引き摺られた。前にこけて、後ろを向けば、自分自身が不気味に笑って見下ろしていた。絶体絶命の窮地に陥り、夏樹はそれでも抵抗する意思を示した。すると、どこからか声が聞こえてくる。

『そう、相手に屈しない強靭な心こそ一番の希望足り得るっす!!』

夏樹と化け物の間に光が射し込み、もう一人の夏樹は窓を突き破って逃げていった。目の前には化け物の代わりに、ぬいぐるみの様なみょうちくりんな存在が羽をパタパタさせて浮かんでいる。

「大丈夫っすか?」

「うわああああああああああああああああああああああああああ!!」

夏樹も驚いて一気に壁際まで下がり、背中をドンとぶつけた。

「失礼っすね、折角助けたのに。姿を変えた方がいいなら」

急に赤ん坊に変化する。

 「一応人間に化ける事もできるっすけど」

「どっちでもいいけど、あんたは一体何!?あたしの偽物と何か関係ある訳?」

「これは失礼しました」

姿がもとに戻り、丁寧にお辞儀した。

「おいらはバク、夢の世界の住人っす」

その昔神様は、頭を悩ませていました。折角作った世界に人の想像の産物が溢れて世に混沌をもたらしたからです。個人の産み出した物なら可愛いものでしたが人間全ての意識の共有から生まれた想像が世に放たれ、中には死神や、信仰や畏怖により高次元の存在が世に出て死を撒き散らしました。強い力を持った存在に世界の秩序が保たれるよう説得し応じた者には天界と地獄の魂の輪廻の輪を巡る仕事を与え、世界の管理をする側へと引き入れ、応じない者には容赦なく別の世界を作って封印したり、滅したりしました。更に神様は別の世界を形成し寝ている間の全ての人間の意識をその世界へ繋げ、そこで妖怪や別の神様を作る土壌とし、直ぐには世に出ない様に計りました。そこで作られた妖怪や神様は基準を越えない限りは世に通します。

「そのチェック機関を僕ら夢の住人が行ってるっす」

「・・・へえ、それで?」

「ある晴れた日の事だったっす。妹とゆっくり雲の上で寝ていたら気づいたら妹が居なくなってまして、探したら雲の薄い部分が見つかり、現世に落っこちたのではと思って探してるんですがどうにも今この辺りで変な事が立て続けに起こってる事に気付き、妹が何か仕出かしてないか急ぎ確認してる所でして」

急に夏樹の目が細くなる。

「じゃあ私の件も妹さんの仕業って事?」

「その可能性も無くなくはないっていうか、何て言いますか」

「じゃあ早く何とかしてよ!」

「それがそのう、この世界での能力の行使は一切できないっていうか」

「は?」

「そんなゴミを見る目で見ないで欲しいっす。神様との誓約は絶対っす!!もし破ったら石になるっすよ!そんな訳であんたに妹を探す手伝いをお願いしたいっす!代わりに夢の住人としての力の一部を授けるっすから」




「いや、要らないわ。何か気持ち悪いし」



「ちょっとついてきて欲しいっす」

「どこに行こうっての?」

「ついてくればわかるっすよ」

そういうと、警戒しつつも、夏樹はバクを追いかけ学校を後にした。
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