Voo Doo Child

夜桜一献

文字の大きさ
上 下
155 / 246
The killer of paranoid Ⅳ

第五話

しおりを挟む
 花咲優理は、久しぶりにクラスメイトと談笑しながら、街で遊んでいた。ゲームセンターで太鼓を叩いて高得点を出したり、ショッピングセンターで服を物色したり可愛い小物を見つけたり、カラオケで暫くの鬱憤を晴らす頃には午後6時を回っていた。最後に喫茶店に入ってそれぞれ、飲み物を注文してそれを飲む。優理はオレンジジュースを受け取って飲み始めると話が恋愛関係に転がり込む。自分には関係ないと思っていると、いきなり会話の流れに自分の名前が上がった。

「そういえばさー、優理と海人君最近仲良いよね?付き合ってるの?」

思わず、吹きこぼしそうになる。

「あ、聞きたい!!ずっと二人で一緒に居るよね!!」

「海人君とはそういう関係じゃないよ」

自分の家庭の事情を解決して貰った恩は忘れてないが、そういう感情は無い。

「じゃあ、何で一緒に居るの?」

「普通の男友達だよ。妹の姫ちゃんと知り合いでさ、具合悪くて入院してるから時々見舞いに行ってるから。それより、今日はもう風子(ふうこ)来ないの?」

メンバーの中でも一際地味な女の子で、図書委員長を務めている秀才。いつも同じメンバー5人で居るのだが、今日は風子が居ないので4人で遊ぶ事になった。

「連絡しといたからもうすぐ、来ると思うんだけど・・・あ、来た来た。おーい」

こっちだよ、と一人が手を振るが、風子はこちらに気づきもせず離れたテーブルに座っている。そのすぐ隣には、同じ高校の男子生徒が6人程利用していて盛り上がっている。風子の頭上に巨大な水晶の塊が見え、その中に6人の男子の内、一人の顔と同じ存在が伺える。

「恋は盲目。こっちには気づいてないね」

「え、風子の好きな子あの中に居るの?」

「あれは、確か・・・・・・1組の山田君じゃなかったかな」

それにしても、思いが異常に発達し過ぎている。普通に恋を抱いたとしてもああはならないとハクから聞いている。思い当たる節はあるが、余り考えたくはない。あれが割れれば妖怪が生まれてどんな被害を周囲にもたらすかわからない。動き出そうとしたが、友人の一人が電話を掛けると風子もこちらに気づいた様子で合流した。話を伺うと、彼女は彼を見つけるなり気づかれぬように尾行していたらしい。

「ごめんなさい、彼を見ていたらつい」

顔の頬を赤く染めながら、彼の話を1時間聞く事になり、その日は解散する事になった。帰り道、暗い夜空を仰ぎながら優理は思い出していた。種を植えなくとも思いが暴走する事はままにある。だからこの世に妖怪が発生し続けるのだと。

(私たちの周囲の人からは、思いは取らないって・・・信じていいよね海人君)

最初の方針を決める際に、自分達の生活圏で行動をしないと決めていた。自分に内緒でそれを破る事はないと、自分に言い聞かせて帰路へと着いた。


 姫の病室で、海人は妹の手を握りしめながら、顔を覗き込む。死神の死刑宣告、172日あった猶予はとっくになくなり25という数字がゆらゆらと揺れている。後、25日で死神は妹の命を狩りに来る。死神を退けるだけの思いを集め、妹の生きる意思を増幅させる。

「宜しいのですか?優理さんとの約束を破る事になってしまいますが」

「しょうがないよ。彼女にとっては所詮は他人事」

だから一番真っ先に巻き込むべき周囲を巻き込まなかった。それで他の学校へ出掛けたり時間も掛かった。1月の間にハクに自分達の学校の人間に種を植えて貰い、経過を観察して貰っていた。ようやく刈り取れる時期に来たらしい。

「理解を得られるなんて思ってないよ。それより植えた人間の経過を聞きたいな。勘付かれたら回収されちゃうんだし、早目に行動しないと」

そう淡々と告げて、海人はハクに植えた人間の情報を聞き出した。




しおりを挟む

処理中です...