137 / 246
橘紅葉の回想目録
第二話
しおりを挟む
現在の橘家を例で例えるなら、歌舞伎役者の立役者が居ない状態である。そも、私の父が兄である龍二おじさんよりも才能があれば良かったのだが非凡と言う程の才能も無く、剣術もおじさんよりも遥かに劣る。それ故、古都と呼ばれる程伝統を重んじる京都。陰陽庁の幹部になったのは良いが、周囲と実力が掛け離れているのでよく物笑いの種にされているらしい。聞きたくなった現実だったが葵が神社を継ぐという事で、橘家も安泰になったと近頃の父は機嫌良い。
「最悪だわ・・・・・・」
溜息しかでない状況で、こたつの机に顔を埋める。年明け早々に気分が重くなる。テレビから聞こえてくる漫才が雑音にしか聞こえない。いつの間にか早苗お姉ちゃんがリビングに入って来て、こたつに入って机の上に置いてあるお菓子を手に取って食べ始めた。
「お姉ちゃん、葵の事好きなの?」
「嫌いじゃないわ。けど、結婚と言われてもピンとはこないかな」
「そうだよね」
良かった、と心から安堵した。何故なら拒絶している素振りがないので、この状況を受け入れているものかと思ってしまう。この状況を何とかするには葵が必要ではない状況を作り出す必要がある。
「何か、この状況回避する方法ないかなぁ」
「そうねぇ・・・・・・例えば、守護聖獣と契約するとか?」
「―――――守護聖獣!?」
思わず、吃驚して顔を上げた。日本における最強の式神が、役小角により生まれた前鬼(ぜんき)、後鬼(こうき)であるなら、それに次ぐ存在とされる京都を守護してきた聖なる獣。青龍、白虎、玄武、朱雀の4匹を表し、安倍晴明が京都を守護する為に作ったと言われている。橘家の歴史を紐解いても、守護聖獣と契約を交わせる実力者はそう多くない。加えて、守護聖獣は自身が認めた者しか契約しないので、一代限りの契約なんて事もざらでありある時代では別の家系の退魔師と契約していた事もあるので京都の退魔師共有の守護者とも言える。もし契約出来れば、葵が居なくとも橘家は安泰と周囲に知らしめる事が出来るし、結婚の話も無かった事になるに違いない。
「まぁ試練がすごい危険だって言われてるし、無理よね」
「何言ってんの!!可能性は無い訳じゃないでしょ」
「そりゃまぁ・・・・・・」
「それしかないなら、やるしかないわ!!」
「上手くいくかしら」
やってやろうじゃないの、と意気込む私に呆れる早苗お姉ちゃん。無謀でも何でも、挑戦してやろうと私はこの時思っていた。さっきまで沈んでいた気分も晴れて、みかんを頬張りながらテレビの漫才に、耳を傾けて笑い転げた。冬休みが終わった所で、2人で京都市役所の受付に放課後訪れた。眼鏡を掛けた茶髪のお姉さんが声を掛けてくれる。名前は若松双葉さん(わかまつふたば)。22歳。受付をしている人間の中で陰陽庁の窓口として働いている人の一人。事件の斡旋等は支部でも行えるがこういった書類を出さねばならない案件の場合本部に直接出した方が早く通る。何より、支部の京子に顔を合わせたくないっていう理由の方が大きい。
「あら、紅葉ちゃん、早苗ちゃん。お久しぶりね。今日は何か用事?」
「いえ、ちょっとした申請を・・・・・・」
早苗がそういうと、双葉さんはちょっとしたに反応する。
「何の申請なの?」
「その、守護聖獣との契約の儀を行う申請を出したいんですけど」
「守護聖獣って・・・上級の退魔師でも契約までなかなか出来ないわよ?今の契約者は玄武だけだし、白虎、朱雀は数十年、青龍に至っては何世紀か分からないくらいよ。どの聖獣も気分屋だし、扱い難しいしね」
「それでも、それでも挑戦する理由が出来たんです!!」
拳をぐっと握って、力説する。
「うーん・・・ちょっとその辺のお話聞かせて貰っていい?」
簡素に説明すると、困った顔してどうしたものやらといった顔をしている。
「そうねぇ。一応上の方にも聞いてみるから、ちょっと座って待っててくれる?」
市役所のエレベーターから、ゾロゾロと疲弊した子供達が複数名現れる。未来の退魔師達の卵が先輩方にしごかれ、ようやく解放されて帰宅する姿であった。かくいう私の数年前の姿である。頑張れと心の中でエールを送る。双葉さんが電話を終えると、私達二人を手招きした。
「話はついたから、今から陰陽庁の教練場へ行ってくれる?」
「うわ、懐かしい。けど、あそこ行くの何か嫌だな」
「先生方が、私達にお説教とかじゃありませんよね?」
早苗お姉ちゃんが尋ねると、ふふふ、と笑った。
「申請書類を貴方達に渡す前に、どの程度腕が上がったか見たいんですって」
「説教のがマシだった!!」
先輩方だって、守護聖獣の挑戦を何度も受けているに決まっている。それでも契約出来ない程の難しい試練なのだ。小娘が何を言っているのかという、先輩の有り難い助言という名の焼き入れだと私は素直に感じた。
「最悪だわ・・・・・・」
溜息しかでない状況で、こたつの机に顔を埋める。年明け早々に気分が重くなる。テレビから聞こえてくる漫才が雑音にしか聞こえない。いつの間にか早苗お姉ちゃんがリビングに入って来て、こたつに入って机の上に置いてあるお菓子を手に取って食べ始めた。
「お姉ちゃん、葵の事好きなの?」
「嫌いじゃないわ。けど、結婚と言われてもピンとはこないかな」
「そうだよね」
良かった、と心から安堵した。何故なら拒絶している素振りがないので、この状況を受け入れているものかと思ってしまう。この状況を何とかするには葵が必要ではない状況を作り出す必要がある。
「何か、この状況回避する方法ないかなぁ」
「そうねぇ・・・・・・例えば、守護聖獣と契約するとか?」
「―――――守護聖獣!?」
思わず、吃驚して顔を上げた。日本における最強の式神が、役小角により生まれた前鬼(ぜんき)、後鬼(こうき)であるなら、それに次ぐ存在とされる京都を守護してきた聖なる獣。青龍、白虎、玄武、朱雀の4匹を表し、安倍晴明が京都を守護する為に作ったと言われている。橘家の歴史を紐解いても、守護聖獣と契約を交わせる実力者はそう多くない。加えて、守護聖獣は自身が認めた者しか契約しないので、一代限りの契約なんて事もざらでありある時代では別の家系の退魔師と契約していた事もあるので京都の退魔師共有の守護者とも言える。もし契約出来れば、葵が居なくとも橘家は安泰と周囲に知らしめる事が出来るし、結婚の話も無かった事になるに違いない。
「まぁ試練がすごい危険だって言われてるし、無理よね」
「何言ってんの!!可能性は無い訳じゃないでしょ」
「そりゃまぁ・・・・・・」
「それしかないなら、やるしかないわ!!」
「上手くいくかしら」
やってやろうじゃないの、と意気込む私に呆れる早苗お姉ちゃん。無謀でも何でも、挑戦してやろうと私はこの時思っていた。さっきまで沈んでいた気分も晴れて、みかんを頬張りながらテレビの漫才に、耳を傾けて笑い転げた。冬休みが終わった所で、2人で京都市役所の受付に放課後訪れた。眼鏡を掛けた茶髪のお姉さんが声を掛けてくれる。名前は若松双葉さん(わかまつふたば)。22歳。受付をしている人間の中で陰陽庁の窓口として働いている人の一人。事件の斡旋等は支部でも行えるがこういった書類を出さねばならない案件の場合本部に直接出した方が早く通る。何より、支部の京子に顔を合わせたくないっていう理由の方が大きい。
「あら、紅葉ちゃん、早苗ちゃん。お久しぶりね。今日は何か用事?」
「いえ、ちょっとした申請を・・・・・・」
早苗がそういうと、双葉さんはちょっとしたに反応する。
「何の申請なの?」
「その、守護聖獣との契約の儀を行う申請を出したいんですけど」
「守護聖獣って・・・上級の退魔師でも契約までなかなか出来ないわよ?今の契約者は玄武だけだし、白虎、朱雀は数十年、青龍に至っては何世紀か分からないくらいよ。どの聖獣も気分屋だし、扱い難しいしね」
「それでも、それでも挑戦する理由が出来たんです!!」
拳をぐっと握って、力説する。
「うーん・・・ちょっとその辺のお話聞かせて貰っていい?」
簡素に説明すると、困った顔してどうしたものやらといった顔をしている。
「そうねぇ。一応上の方にも聞いてみるから、ちょっと座って待っててくれる?」
市役所のエレベーターから、ゾロゾロと疲弊した子供達が複数名現れる。未来の退魔師達の卵が先輩方にしごかれ、ようやく解放されて帰宅する姿であった。かくいう私の数年前の姿である。頑張れと心の中でエールを送る。双葉さんが電話を終えると、私達二人を手招きした。
「話はついたから、今から陰陽庁の教練場へ行ってくれる?」
「うわ、懐かしい。けど、あそこ行くの何か嫌だな」
「先生方が、私達にお説教とかじゃありませんよね?」
早苗お姉ちゃんが尋ねると、ふふふ、と笑った。
「申請書類を貴方達に渡す前に、どの程度腕が上がったか見たいんですって」
「説教のがマシだった!!」
先輩方だって、守護聖獣の挑戦を何度も受けているに決まっている。それでも契約出来ない程の難しい試練なのだ。小娘が何を言っているのかという、先輩の有り難い助言という名の焼き入れだと私は素直に感じた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
72
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる