Voo Doo Child

夜桜一献

文字の大きさ
上 下
179 / 246
The killer of paranoid VI

第五話

しおりを挟む
 天音星南が京都の呪術捜査本部に訪れて自己紹介が済んだ後、彼女は一旦呪術痕の鑑定結果を纏めて報告する為に持ってきたノートパソコンと格闘している。魔法省という魔法が使える者達が開発した感知者の感知した物を波形として捉え可視化する機械。念思痕のパターンをパソコンに反映、他の遺体の元へ感知者を派遣し念思痕を解析、データを送って貰ってそれを自身の持つパターンと照合。結果は一致して満足している様子が見て取れる。

「一段落したみたいだね」

「その通り、朝陽がそろそろ眩しい時間になっているが何ともないとも」

「一旦ホテルに戻られます?」

「そうさせて貰うよ。そっちはどうだい」

「得られた情報は少ない。正直お手上げだな」

「だろうね。それがフィクサーから貰った情報のサイトかい」

「ええ、坂巻見せてやってくれ」

「交代して変わって下さいね」

「分かったよ、睨むな睨むな」

目の隈がすごい事になっている後輩を宥めて一緒に見せて貰う。TERAMEAとバナー表示されたリンクをクリックするとお悩み相談所らしき相談受付の窓口であるチャットやメール理者に認められた会員専用のサイトへのリンクがあり一見呪術に関する言葉の端すら無い様なサイトの作りになっている。掲示板には幾つかテラメアを崇める事で悩み事が解決したとある。ただその殆どは持病の腰痛であったり、彼氏の浮気癖であったり呪術とは関係無い物も多かった。

「テラメア様のお陰で殺された両親の仇が討てました、か」

その中に確かに、呪殺を思わせる投稿がされている。チャットのログは保存が短く探る事は難しいが掲示板にはそれらしき痕跡が残っていた。とはいえ特定は難しく、追跡は出来ない。通常の方法でこの管理者達を引っ張る事は土台不可能な話。

「古谷さん、これからどうしますか?」

呪殺が絡む以上動くべきでは裏社会の情報の擦り合わせ。

「青葉直彦、明野鞍馬が呪術界隈では有名な術師らしい。彼等が今どこに居るかの情報も情報も流してきた。範囲は絞り込めたがまだ捜索中。銀行、クレジットカード、金の流れを追えば範囲を確定する事は出来る。それと被害者遺族にも会う必要があるあろうな。テラメアと繋がれば確定だろう」

「ほう、ほう。成るほど成るほど」

思わず、古谷が吃驚して仰け反る。

「あっ・・・・・・あんた一体どっから」

「すみませんね、さとりんにお呼ばれしたもので」

まだ20代半ば頃。好青年が和服を着てそこに立っている。

「サトリン!?」

「やっほう、春馬っち」

「さとりん元気?それと早速聞いておこうかな。


ーーーーーーーーーその疑似神育成してる馬鹿の話」




 「紹介がまだやったな。僕は朝倉春馬、現代の安陪晴明と呼ばれとる。こっちはサトリと呼ばれる妖怪で陰陽庁に所属しとる。浦美ちゃんっていう子も居るけどあっちはあんまり関わらん方が身の為やね」

「・・・妖怪?君が!?」

「キュートな高校生に見えるだろう?人の心を読みたい、読まれたくない願いによって生まれたのが私さ。これでも感知者・探知者を束ねる泉家の幹部なんだぞ。彼等の育成と指導もやってるしな」

「物や空間に触れて、時空を越えて思念から情報を掴める感知者の母って呼ばれとる。精度は国内でもトップやね」

「誉めるでない~」

「・・・・・・・」

「何故目を逸らすかな」

「いえ、私の知る今時の高校生とはかけ離れているもので。色も白いし黒髪だし、華奢で蝙蝠みたいな髪型してるし・・・」

「心を読んだが、成るほどそれは失礼した。時代の変化は恐ろしいな」

※当時黒ギャルが流行っておりました。

疑似神とは、古来より人々の信仰と魔術や式神によって生まれる神の事である。純粋な信仰によって生まれる神は自然発生(神の作ったシステムによって)するが、疑似神は人によって生み出し“人の意思で操れる”という点が大きい。意思無き神の力を人の手によって得る為の道具を作るという事が如何に危険な事か。人々の信仰が多くなるに連れて力も強大になっていく。古来よりシャーマンが精霊を使役し力を強大なものとした事例もある。部族間の抗争となった少数民族が圧倒的多勢の体躯も強大な部族に対し疑似神を用いて虐殺したという逸話も残っている。

天音星南が思念を映した波形の写真を見せる。

「話はこれだよ春馬っち。通常の波形とは全く別物の様な思念の波形パターンが分かるだろう?これは普通の人の心の形ではない。複数の重複した思いがそこにあるからこうなっているのさ。疑似神の思念パターンがこれに当たる。君に声を掛けたのはこの事件の規模が大きいと私が踏んだんだよ。下手をすれば捜査局員の全滅だってあり得る話だ」

「・・・全滅!?」

古谷が驚く。

「相手は呪術に長けているんだろう?逃がした際は危険に晒される。逮捕劇に参加して死ななくても逃がして後で残った捜査員が全員呪殺されかねない」

「そうやね」

「ーーー!?」

「久しぶりに、式神にも働いて貰わなあかんなぁ。ただ上が承認するかどうか・・・」

「君が動けば捜査局員の生還率と事件の達成率が段違いになるからな。期待して待ってるよ。現代の晴明殿」


  半月後、東京の呪術捜査員が関東地方の被害者遺族を訪ね、加害者死亡によるケアの一環としての訪問を名目に調査に乗り出した。関西圏、関東圏の被害者遺族の口からはテラメアの名前と、被害者遺族の会で出会った一人の少女の話を聞く事が出来た。テラメアというサイトと神を信仰すれば願いが叶うと言われて呪術紛いの事を薦められ、本当に加害者が死んだ事で怯えている者も少なくない。

少女の名前は斎藤萌。

拘置所内で囚人が死んだ第一事件の被害遺族。会いに行こうと捜査員が探したが実家にはすでに誰も住んでいない様子だったという。祖母が最近他界して天涯孤独となったがその後の足取りを知る者が居ないのは妙な話と言えた。現時点で彼女が犯罪に加担している事など誰も思っていない事であった。青葉達のお金の流れを追い、足取りを掴む事が出来たのはそれから1週間後。関西と関東の呪術捜査員が協力してテラメアの事務所を押さえる為に東京へと集結した。
しおりを挟む

処理中です...