婚約破棄は当たり前!悪役のはずが伝説の聖女?

ちゅんりー

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「……また、ろくでもないものが届いたわね」

私は、セバスチャンが差し出した金縁の招待状……もとい、召喚状を眺めて溜息を吐いた。

「お嬢様、溜息は二酸化炭素の無駄遣いです。今回のこれは、招待状ではなく『王命による強制帰還命令』でございますから」

セバスチャンが、いつになく真剣な(と言いつつ楽しそうな)表情で眼鏡を直した。

「強制帰還? 私、婚約破棄されて追放された身よ? 二度と顔を見せるなって言ったのは誰だったかしら」

「デレク王太子殿下ですね。しかし、彼が放り投げた政務が完全に破綻し、さらにリリィ様まで北へ逃亡したことで、王宮は現在、機能停止に陥っているとのことです」

「自業自得じゃない。私に頼らず、自分たちで何とかすればいいのに」

私はベッドの上でゴロゴロと転がりながら、拒絶の意を示した。

「ところが、今回の書状にはこう記されております。『メシア嬢の不在により、国家の均衡が崩れた。直ちに戻り、その有能さをもって王都を再建せよ。さもなくば、レイジー公爵家を反逆罪に問う』と」

「……はぁぁ!? 反逆罪!?」

私は飛び起きた。

「無茶苦茶よ! 私がただ寝てるだけなのに、なんで実家が反逆者扱いされるのよ!」

「お嬢様がこの地で温泉を掘り、カジノを建て、パン革命を起こし、さらにカイル辺境伯と血盟を結んだことが、『王都を経済的に干上がらせる意図的な戦略』だと判断されたようです」

「ただの偶然よ!! 私は快適に寝たかっただけ!!」

私が絶叫していると、隣の部屋から電卓(魔力駆動)を叩く音が止まり、リリィが入ってきた。

「お姉様! 聞きましたよぉ! デレク様ったら、私とお姉様をセットで連れ戻そうとしてるんですって!? どんだけ欲張りなんですかぁ☆」

リリィは高級な苺を頬張りながら、ケラケラと笑った。

「リリィさん、笑い事じゃないわよ。これに従わないと、私の平穏なニート生活が終わるどころか、物理的に首が飛ぶかもしれないのよ?」

「大丈夫ですよぉ! 今や北の地は王都よりお金持ちですから。軍隊だって、セバスチャンさんが最強のやつを揃えてるんでしょ?」

「……セバスチャン?」

私が不敵な笑みを浮かべる執事を睨むと、彼は恭しく一礼した。

「お嬢様。既に王宮からは、第一騎士団が『お迎え』という名の連行部隊として、この地に向かっております」

「……来てるのね。もう近くまで」

「はい。国境付近の検問所にて、カイル辺境伯の私兵と一触即発の状態になっております」

「やめて!! 戦争になるわ!!」

私は頭を抱えた。

「お嬢様。ここで王都に戻れば、お嬢様は再び過労死寸前の政務に忙殺される日々に戻ることになります。……いかがなされますか?」

セバスチャンが、私の「怠惰の限界」を試すように問いかける。

「……決まってるじゃない。私は、絶対に戻らないわ」

私は掛布団をギュッと握りしめた。

「王都で働かされるくらいなら、ここで徹底的に抗戦する。セバスチャン、リリィさん。……私を全力で守りなさい。私は、死んでもベッドから出たくないの!」

「「御意!!」」

二人の返事が、不吉なほど綺麗に重なった。

「お嬢様の『安眠』こそが、我が領地の絶対防衛目標です。……さあ、愚かな騎士団に、真の『王者の引きこもり』を見せて差し上げましょう」

セバスチャンが通信機を手に取り、領内の全戦力に指示を飛ばし始めた。

私の「ただ働きたくない」というワガママが、ついに王家に対する正式な『反旗』へと変換されてしまった。

北の最果て。雪と温泉の地に、王都最強の騎士団が迫る。

私の平穏なスローライフ(失敗続き)は、いよいよ国家規模の攻防戦へと突入しようとしていた。

……まあ、私は部屋から一歩も出ないつもりだけどね!
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