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「見てなさいセバス。今夜こそ、私の運命が決まりますわ。この『鮮血のように真っ赤なドレス』を!」
リペは鏡の前で、不敵な笑みを浮かべて見せた。
普段の彼女なら絶対に選ばない、露出度の高い、情熱的すぎるほどに赤いドレス。
悪役令嬢といえば赤。それも、見る者を威圧するような強烈な赤こそがふさわしい。
「お嬢様、そのドレス、非常によくお似合いですよ。肌の白さが際立って、会場中の男たちが釘付けになるでしょうね。……殿下の独占欲が爆発して、死人が出ないことを祈ります」
「何を言っていますの。これは『不謹慎なほど派手で、王妃にふさわしくない品格のなさ』を演出するための勝負服ですわ!」
リペは鼻息荒く、夜会の会場へと乗り込んだ。
今夜は隣国の使節団も招かれた重要な晩餐会。
ここで大失態を演じれば、さすがの国王陛下も婚約破棄を認めざるを得ないはずだ。
会場の扉が開くと同時に、リペは扇子をバサリと広げ、高飛車な足取りで中央へと進み出た。
「おーっほっほっほ! 皆様、道をあけなさいな! 今夜の主役は、このリペ・ブランシュですわよ!」
周囲がしんと静まり返る。
(よし、食いついたわね……! 皆、私の傲慢さに呆れ果てているに違いありませんわ!)
リペが内心でガッツポーズを作ったその時、人混みを割ってカイル殿下が歩み寄ってきた。
カイルはリペの姿を見るなり、雷に打たれたように足を止めた。
「……リペ」
「さあ殿下! 公衆の面前で私を罵りなさい! 『そんな端したない格好で現れるとは何事だ!』と!」
カイルは震える手で顔を覆い、深く、深く吐息をついた。
「……ああ、神よ。僕は前世でどれほどの徳を積めば、これほどの奇跡を隣に置くことが許されるのだろうか」
「……はい?」
カイルが顔を上げると、その瞳は潤み、情熱的な光を放っていた。
「その赤は、僕への情熱の証だね? 『私の心はこんなにもあなたを求めて燃えているのよ』という、秘めたメッセージ……。ああ、リペ、なんて大胆で愛らしい愛の告白なんだ!」
「違いますわ! これは返り血の色をイメージした、邪悪な赤ですわ!」
「返り血……? なるほど、僕に害なす者をすべて屠るという、愛の守護神(ガーディアン)としての決意表明か。君に守られるなんて、僕は世界一の幸せ者だよ」
カイルはリペの腰を力強く引き寄せ、会場のど真ん中で彼女の額に熱い口付けを落とした。
会場からは「おおおっ!」という歓声と、割れんばかりの拍手が沸き起こる。
「素晴らしい! あんなに情熱的な婚約者がいるなんて、カイル殿下は果報者だ!」
「あのドレスを着こなせるのは、リペ様しかいない。まさに次期王妃の貫禄だ!」
(なんで!? なんで絶賛の嵐なんですのー!?)
リペの頭の中はパニックに陥った。
これではただの「仲睦まじいバカップルの披露宴」ではないか。
焦った彼女は、近くを通りかかった給仕からワイングラスをひったくった。
「見てなさい! 私は今から、この会場で最も身分の高い方に、不敬を働きますわ!」
リペはカイルの父、つまり国王陛下のもとへと突進した。
「陛下! このリペ、陛下のお話が退屈すぎて欠伸が出そうですわ! おーっほっほっほ!」
周囲に緊張が走る。さすがにこれは不敬罪に問われてもおかしくない。
だが、国王陛下は愉快そうに髭を揺らして笑い出した。
「はっはっは! いやあ、リペ君。君は正直でよろしいな! わしも自分の挨拶が長いと常々思っていたのだ。カイル、良い婚約者を持ったな。これほど率直に意見を言ってくれる者がいれば、王室も安泰だ」
「父上、リペは僕のために、あえて悪役を演じて場の空気を和ませてくれたのです。彼女の優しさには、僕も毎日救われています」
カイルがドヤ顔で言い添える。
「違います! 本気で退屈だったんですのよ! 陛下、もっと怒ってくださいまし!」
「まあまあ、そんなに照れなくてもよい。リペ君、これからもカイルの尻を叩いてやってくれ」
リペはガックリと肩を落とした。
世界が自分に対してあまりに優しすぎる。いや、カイルのポジティブ変換フィルターが、国全体に伝染しているのではないだろうか。
「さあ、リペ。次は僕と踊ってくれるね? 君のその燃えるような赤と、僕の青い燕尾服。重なり合えば、最高に美しい紫の旋律になるはずだ」
カイルが優雅に手を差し伸べる。
「……もう、勝手にしてくださいまし……」
リペはやけくそになって、カイルの手を取った。
ダンスの間中、カイルは至近距離で「君の鎖骨のラインが芸術的だ」とか「瞬きするたびに風が生まれて僕を惑わせる」とか、甘い言葉を絶え間なく囁き続けた。
夜会が終わる頃には、リペの「悪役令嬢としてのプライド」はボロボロになり、代わりに「殿下に溺愛される幸せな令嬢」という噂だけが、王都中に広まってしまった。
帰りの馬車の中、リペはぐったりと座席に沈み込んだ。
「……失敗ですわ。大失敗ですわ、セバス」
「お疲れ様です、お嬢様。明日の新聞の見出しは『情熱の赤! リペ様、愛のドレスで陛下を魅了』で決まりですね」
「嫌あああああ! 私はただ、婚約破棄されて自由になりたいだけなんですのよ!」
「お嬢様の自由への道は、どうやら殿下の愛という名の監獄に繋がっているようですね」
セバスの冷静なツッコミを耳にしながら、リペは誓った。
明日こそは。明日こそは、誰が見ても言い逃れのできない「悪事」を働いてやる。
例えば……そうだ、マリアンヌ様のお茶会に乱入して、砂糖と塩を入れ替えてやりますわ!
リペの瞳に、再び(間違った方向の)闘志が宿る。
しかし、その背後でカイルが「明日はどんなサプライズをしてくれるんだろう」と、楽しそうに手帳を埋めていることを、彼女はまだ知らなかった。
リペは鏡の前で、不敵な笑みを浮かべて見せた。
普段の彼女なら絶対に選ばない、露出度の高い、情熱的すぎるほどに赤いドレス。
悪役令嬢といえば赤。それも、見る者を威圧するような強烈な赤こそがふさわしい。
「お嬢様、そのドレス、非常によくお似合いですよ。肌の白さが際立って、会場中の男たちが釘付けになるでしょうね。……殿下の独占欲が爆発して、死人が出ないことを祈ります」
「何を言っていますの。これは『不謹慎なほど派手で、王妃にふさわしくない品格のなさ』を演出するための勝負服ですわ!」
リペは鼻息荒く、夜会の会場へと乗り込んだ。
今夜は隣国の使節団も招かれた重要な晩餐会。
ここで大失態を演じれば、さすがの国王陛下も婚約破棄を認めざるを得ないはずだ。
会場の扉が開くと同時に、リペは扇子をバサリと広げ、高飛車な足取りで中央へと進み出た。
「おーっほっほっほ! 皆様、道をあけなさいな! 今夜の主役は、このリペ・ブランシュですわよ!」
周囲がしんと静まり返る。
(よし、食いついたわね……! 皆、私の傲慢さに呆れ果てているに違いありませんわ!)
リペが内心でガッツポーズを作ったその時、人混みを割ってカイル殿下が歩み寄ってきた。
カイルはリペの姿を見るなり、雷に打たれたように足を止めた。
「……リペ」
「さあ殿下! 公衆の面前で私を罵りなさい! 『そんな端したない格好で現れるとは何事だ!』と!」
カイルは震える手で顔を覆い、深く、深く吐息をついた。
「……ああ、神よ。僕は前世でどれほどの徳を積めば、これほどの奇跡を隣に置くことが許されるのだろうか」
「……はい?」
カイルが顔を上げると、その瞳は潤み、情熱的な光を放っていた。
「その赤は、僕への情熱の証だね? 『私の心はこんなにもあなたを求めて燃えているのよ』という、秘めたメッセージ……。ああ、リペ、なんて大胆で愛らしい愛の告白なんだ!」
「違いますわ! これは返り血の色をイメージした、邪悪な赤ですわ!」
「返り血……? なるほど、僕に害なす者をすべて屠るという、愛の守護神(ガーディアン)としての決意表明か。君に守られるなんて、僕は世界一の幸せ者だよ」
カイルはリペの腰を力強く引き寄せ、会場のど真ん中で彼女の額に熱い口付けを落とした。
会場からは「おおおっ!」という歓声と、割れんばかりの拍手が沸き起こる。
「素晴らしい! あんなに情熱的な婚約者がいるなんて、カイル殿下は果報者だ!」
「あのドレスを着こなせるのは、リペ様しかいない。まさに次期王妃の貫禄だ!」
(なんで!? なんで絶賛の嵐なんですのー!?)
リペの頭の中はパニックに陥った。
これではただの「仲睦まじいバカップルの披露宴」ではないか。
焦った彼女は、近くを通りかかった給仕からワイングラスをひったくった。
「見てなさい! 私は今から、この会場で最も身分の高い方に、不敬を働きますわ!」
リペはカイルの父、つまり国王陛下のもとへと突進した。
「陛下! このリペ、陛下のお話が退屈すぎて欠伸が出そうですわ! おーっほっほっほ!」
周囲に緊張が走る。さすがにこれは不敬罪に問われてもおかしくない。
だが、国王陛下は愉快そうに髭を揺らして笑い出した。
「はっはっは! いやあ、リペ君。君は正直でよろしいな! わしも自分の挨拶が長いと常々思っていたのだ。カイル、良い婚約者を持ったな。これほど率直に意見を言ってくれる者がいれば、王室も安泰だ」
「父上、リペは僕のために、あえて悪役を演じて場の空気を和ませてくれたのです。彼女の優しさには、僕も毎日救われています」
カイルがドヤ顔で言い添える。
「違います! 本気で退屈だったんですのよ! 陛下、もっと怒ってくださいまし!」
「まあまあ、そんなに照れなくてもよい。リペ君、これからもカイルの尻を叩いてやってくれ」
リペはガックリと肩を落とした。
世界が自分に対してあまりに優しすぎる。いや、カイルのポジティブ変換フィルターが、国全体に伝染しているのではないだろうか。
「さあ、リペ。次は僕と踊ってくれるね? 君のその燃えるような赤と、僕の青い燕尾服。重なり合えば、最高に美しい紫の旋律になるはずだ」
カイルが優雅に手を差し伸べる。
「……もう、勝手にしてくださいまし……」
リペはやけくそになって、カイルの手を取った。
ダンスの間中、カイルは至近距離で「君の鎖骨のラインが芸術的だ」とか「瞬きするたびに風が生まれて僕を惑わせる」とか、甘い言葉を絶え間なく囁き続けた。
夜会が終わる頃には、リペの「悪役令嬢としてのプライド」はボロボロになり、代わりに「殿下に溺愛される幸せな令嬢」という噂だけが、王都中に広まってしまった。
帰りの馬車の中、リペはぐったりと座席に沈み込んだ。
「……失敗ですわ。大失敗ですわ、セバス」
「お疲れ様です、お嬢様。明日の新聞の見出しは『情熱の赤! リペ様、愛のドレスで陛下を魅了』で決まりですね」
「嫌あああああ! 私はただ、婚約破棄されて自由になりたいだけなんですのよ!」
「お嬢様の自由への道は、どうやら殿下の愛という名の監獄に繋がっているようですね」
セバスの冷静なツッコミを耳にしながら、リペは誓った。
明日こそは。明日こそは、誰が見ても言い逃れのできない「悪事」を働いてやる。
例えば……そうだ、マリアンヌ様のお茶会に乱入して、砂糖と塩を入れ替えてやりますわ!
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