婚約破棄を申し込むも、殿下の説得がガチすぎて詰む?

ちゅんりー

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「おーっほっほっほ! 見てくださいまし、この王都一番の高級宝飾店『オーレオール』を! 今日は私の欲望の赴くままに、殿下の財布を空っぽにして差し上げますわ!」

リペは、金色の装飾が眩しい店の入り口で、これ以上ないほど傲慢に胸を張った。

隣に立つカイル殿下は、相変わらずの爽やかな笑顔でリペを見つめている。

「いいよ、リペ。君が何かを欲しがるなんて珍しいじゃないか。僕の財産はすべて君のものだ。さあ、好きなだけ選んでおくれ」

(ふふん、余裕を見せていられるのも今のうちですわ。私の浪費家っぷりに、今度こそ顔を青くさせてやるんですの!)

リペは店内に踏み込むなり、一番高いショーケースを指差した。

「店員さん! この『竜の涙』と呼ばれる巨大なダイヤモンド、いただきますわ! あ、そちらのルビーの冠も! それから、その棚にあるもの全部、包んでちょうだい!」

店内にいた客や店員たちが一斉に息を呑んだ。

国家予算の数パーセントが一度に動くような、凄まじい買い上げ宣言である。

セバスが横で「お嬢様、それは流石に重すぎて首が折れますよ」と冷静にツッコむが、リペは止まらない。

「いいえ! これくらい、公爵令嬢である私の美しさを飾るには足りないくらいですわ! さあ殿下、今すぐお支払いを!」

リペは勝ち誇った顔でカイルを振り返った。

さあ、今こそ「君のような金に汚い女は婚約者にふさわしくない!」と言うのですわ!

しかし、カイルの瞳に宿ったのは、軽蔑ではなく、深い感動と畏敬の念だった。

「……リペ。君は、どこまで高潔な志を持っているんだ」

「……はぁ? 高潔? 金に汚いと言っているんですのよ?」

カイルはリペの手を取り、熱っぽく語り始めた。

「君は、この長引く不景気で苦しむ職人たちを救おうとしているんだね? これほどの高額商品を一括で購入すれば、ギルドに莫大な資金が入り、若い弟子たちの育成や工房の維持に繋がる」

「違いますわ。ただ私の宝石箱をパンパンにしたいだけですわ」

「いいや、隠さなくてもいい。さらに、さっきの『棚にあるもの全部』という指定……。あれは、売れ残って困っている在庫をすべて引き取ることで、店の経営を立て直してあげようという、君なりの慈悲だろう? あぁ、なんて慈愛に満ちた浪費なんだ!」

カイルは店主を呼び寄せると、迷いなく魔法のカード(王族専用決済魔石)を差し出した。

「店主。彼女の選んだものすべて、倍の値段で買い取ろう。残りの半分は、職人たちの福利厚生に充ててくれ」

「は、ははーっ! リペ様、カイル殿下、万歳ーっ!」

店主が涙を流して平伏し、店内の客たちからも「リペ様は職人の救世主だ!」と拍手が巻き起こった。

リペは呆然として立ち尽くすしかなかった。

「……なんで。なんで感謝されているんですの、私」

「リペ、君がこれほどまでに『将来の王妃』として、国の経済を回すことを考えてくれているなんて、僕は誇らしいよ。さあ、次はドレスの店に行こう。国中の絹の在庫がなくなるまで買い占めて、養蚕農家を笑顔にしてあげようじゃないか」

「もう嫌ですわああああ! 殿下の財布を空にしたいだけなのに、逆に殿下の名声が上がっていくんですのー!」

リペの叫びも虚しく、その日のうちに「慈悲深き浪費家リペ様」の伝説は王都を駆け巡った。

夕暮れ時、馬車には山のような宝飾品の箱が積み込まれていた。

「……セバス。私、もう疲れましたわ。宝飾品なんて、重くて肩が凝るだけですのに」

「お疲れ様です、お嬢様。お嬢様の『悪行』が、殿下の手にかかるとすべて『聖行』にロンダリングされてしまいますね。ある意味、殿下こそが真の黒幕(フィクサー)かもしれません」

「明日こそは……明日こそは、絶対に言い逃れできない不作法をして見せますわ」

リペはぐったりと座席に沈み込みながら、キラキラと輝く宝石の山を恨めしそうに睨みつけた。

一方、カイル殿下は王宮に戻るなり、側近たちに命じていた。

「リペがもっと自由に買い物を楽しめるよう、新しい商業区を建設する準備を始めよう。彼女の『浪費』は、この国を救う聖なる儀式なんだから」

リペの知らないところで、彼女の夢見る「婚約破棄」への壁は、さらに高く、より豪華に積み上げられていくのであった。
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