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「おーっほっほっほ! マリアンヌ様、覚悟はよろしくて? 今日は王都の端から端まで、私の買い物に付き合っていただきますわ!」
リペは、気合十分で馬車のステップを降りた。
今日の作戦は「地獄の引き回し刑」である。
令嬢にとって、慣れない靴で何時間も歩き回ることは、拷問に等しい苦行のはずだ。
「さあ、まずはこの坂を登った先にある帽子店! その次は川向こうの靴店! 一分たりとも休ませませんわよ!」
リペは扇子を高く掲げ、マリアンヌを急き立てた。
セバスが背後から、大量の荷物持ち用の従者を引き連れて付いてくる。
「……お嬢様。マリアンヌ様は地方の伯爵家出身、つまり足腰はかなり鍛えられているという報告がありますが?」
「うるさいですわセバス! 都会の石畳の厳しさを、彼女に叩き込んでやるのですわ!」
しかし、開始から三時間後。
リペは額の汗を拭いながら、膝をガクガクと震わせていた。
「はぁ、はぁ……。マ、マリアンヌ様……まだ、次のお店に行きますわよ……」
「はい、お姉様! 王都のお店はどこもキラキラしていて、見ているだけで力が湧いてきますわ! 次はあちらの宝石店ですね!」
マリアンヌは全く疲れた様子もなく、むしろ頬を薔薇色に染めてリペの手を引いた。
「お姉様! 見てください、あのリボン! お姉様の瞳の色にぴったりですわ。私、お姉様に選んで差し上げたいです!」
「……え? わ、私が選ばせる側なんですのよ!?」
「いいえ! 私、お姉様と一緒にこうしてお散歩できるのが嬉しくて……。これ、まるで『女子会』というものではありませんか!?」
マリアンヌの屈託のない笑顔に、リペの毒気が少しずつ削られていく。
「な、何が女子会ですの! これは、その……社交界の体力を養うための特訓……」
「お姉様……。私、田舎では一人で野山を駆け回るばかりで、同年代の女性とお買い物をするのが夢だったんです。……お姉様、夢を叶えてくださってありがとうございます!」
マリアンヌに潤んだ瞳で見つめられ、リペは思わず視線を逸らした。
「……ふ、ふん! それなら、もっと高い店に行きますわよ! 覚悟しなさいな!」
結局、二人はその後も数軒の店をハシゴした。
リペがマリアンヌを困らせようと選ぶ「派手すぎるドレス」も、マリアンヌが着ると不思議と可愛らしく見え、リペもついつい「こっちの髪飾りの方が合うのではなくて?」と口を出してしまう始末。
「あら、意外と楽しいですわね……。あ、いえ! 何でもありませんわ!」
そこへ、豪華な騎馬隊を従えたカイル殿下が、街中の視線を独占しながら現れた。
「やあ、リペ。仲良くデート中かな? 二人の楽しそうな笑い声が、王宮まで届いていたよ」
「殿下! 届くわけありませんわ! 今、私はこの女を限界まで酷使していたところですの!」
リペは、無理やり「悪役顔」を作ってカイルを睨みつけた。
カイルは馬から降りると、リペの少し乱れた髪を優しく整えた。
「酷使? ……ああ、なるほど。リペ、君は『エスコートの予行演習』をしていたんだね?」
「……予行演習?」
「マリアンヌ嬢のような地方出身者が、今後僕たちと共に公務に励む際、どれだけ歩けるか、どんな店を知っておくべきか。……君はわざわざ自分の足を使って、彼女の限界値を測ってあげていたんだろう?」
「違いますわ! ただ意地悪して歩かせていただけですわ!」
「ふふ、君のそのツンとした物言いは、もはや芸術の域だね。マリアンヌ嬢、見てごらん。リペの靴の先が少し汚れているだろう? これは彼女が君の歩幅に合わせて、石畳の悪い場所を先に踏んで確認してあげていた証拠だよ」
「……えっ!? お姉様、そこまで私のことを……!」
マリアンヌが再び感動の涙を流し、リペに抱きついてくる。
「ちょ、殿下! デタラメを言わないでくださいまし! 私はただ、自分の足がもつれただけですわ!」
「いいんだよ、リペ。君の慈愛に満ちた行動を、僕が一番近くで称えよう。さあ、疲れただろう? 王宮から魔法の絨毯……は無理だけど、最高級のふかふか馬車を呼んである。三人でお茶でもしようじゃないか」
カイルはリペをひょいと横抱きにし、そのまま馬車へと運び込んだ。
「あーっ! 降ろしてくださいまし! 私はまだ、マリアンヌ様をいじめ足りませんわーっ!」
「はいはい、その意気込みも可愛いよ、リペ」
馬車の中、リペはカイルの膝の上で、マリアンヌがお土産に買ってくれたクッキーを食べながら、激しく落ち込んだ。
「……セバス。私、何をしに街へ出たんでしたかしら」
「お嬢様。表向きは『地獄の引き回し刑』。実態は『親友とのショッピング・デート(殿下のスポンサー付き)』ですね。……お嬢様の悪役スキル、今日も絶好調に空回りしていますよ」
セバスの冷静な言葉を聞きながら、リペは「次は……次こそは、絶対に殿下を怒らせてみせますわ……」と、クッキーをヤケ食いするのだった。
リペは、気合十分で馬車のステップを降りた。
今日の作戦は「地獄の引き回し刑」である。
令嬢にとって、慣れない靴で何時間も歩き回ることは、拷問に等しい苦行のはずだ。
「さあ、まずはこの坂を登った先にある帽子店! その次は川向こうの靴店! 一分たりとも休ませませんわよ!」
リペは扇子を高く掲げ、マリアンヌを急き立てた。
セバスが背後から、大量の荷物持ち用の従者を引き連れて付いてくる。
「……お嬢様。マリアンヌ様は地方の伯爵家出身、つまり足腰はかなり鍛えられているという報告がありますが?」
「うるさいですわセバス! 都会の石畳の厳しさを、彼女に叩き込んでやるのですわ!」
しかし、開始から三時間後。
リペは額の汗を拭いながら、膝をガクガクと震わせていた。
「はぁ、はぁ……。マ、マリアンヌ様……まだ、次のお店に行きますわよ……」
「はい、お姉様! 王都のお店はどこもキラキラしていて、見ているだけで力が湧いてきますわ! 次はあちらの宝石店ですね!」
マリアンヌは全く疲れた様子もなく、むしろ頬を薔薇色に染めてリペの手を引いた。
「お姉様! 見てください、あのリボン! お姉様の瞳の色にぴったりですわ。私、お姉様に選んで差し上げたいです!」
「……え? わ、私が選ばせる側なんですのよ!?」
「いいえ! 私、お姉様と一緒にこうしてお散歩できるのが嬉しくて……。これ、まるで『女子会』というものではありませんか!?」
マリアンヌの屈託のない笑顔に、リペの毒気が少しずつ削られていく。
「な、何が女子会ですの! これは、その……社交界の体力を養うための特訓……」
「お姉様……。私、田舎では一人で野山を駆け回るばかりで、同年代の女性とお買い物をするのが夢だったんです。……お姉様、夢を叶えてくださってありがとうございます!」
マリアンヌに潤んだ瞳で見つめられ、リペは思わず視線を逸らした。
「……ふ、ふん! それなら、もっと高い店に行きますわよ! 覚悟しなさいな!」
結局、二人はその後も数軒の店をハシゴした。
リペがマリアンヌを困らせようと選ぶ「派手すぎるドレス」も、マリアンヌが着ると不思議と可愛らしく見え、リペもついつい「こっちの髪飾りの方が合うのではなくて?」と口を出してしまう始末。
「あら、意外と楽しいですわね……。あ、いえ! 何でもありませんわ!」
そこへ、豪華な騎馬隊を従えたカイル殿下が、街中の視線を独占しながら現れた。
「やあ、リペ。仲良くデート中かな? 二人の楽しそうな笑い声が、王宮まで届いていたよ」
「殿下! 届くわけありませんわ! 今、私はこの女を限界まで酷使していたところですの!」
リペは、無理やり「悪役顔」を作ってカイルを睨みつけた。
カイルは馬から降りると、リペの少し乱れた髪を優しく整えた。
「酷使? ……ああ、なるほど。リペ、君は『エスコートの予行演習』をしていたんだね?」
「……予行演習?」
「マリアンヌ嬢のような地方出身者が、今後僕たちと共に公務に励む際、どれだけ歩けるか、どんな店を知っておくべきか。……君はわざわざ自分の足を使って、彼女の限界値を測ってあげていたんだろう?」
「違いますわ! ただ意地悪して歩かせていただけですわ!」
「ふふ、君のそのツンとした物言いは、もはや芸術の域だね。マリアンヌ嬢、見てごらん。リペの靴の先が少し汚れているだろう? これは彼女が君の歩幅に合わせて、石畳の悪い場所を先に踏んで確認してあげていた証拠だよ」
「……えっ!? お姉様、そこまで私のことを……!」
マリアンヌが再び感動の涙を流し、リペに抱きついてくる。
「ちょ、殿下! デタラメを言わないでくださいまし! 私はただ、自分の足がもつれただけですわ!」
「いいんだよ、リペ。君の慈愛に満ちた行動を、僕が一番近くで称えよう。さあ、疲れただろう? 王宮から魔法の絨毯……は無理だけど、最高級のふかふか馬車を呼んである。三人でお茶でもしようじゃないか」
カイルはリペをひょいと横抱きにし、そのまま馬車へと運び込んだ。
「あーっ! 降ろしてくださいまし! 私はまだ、マリアンヌ様をいじめ足りませんわーっ!」
「はいはい、その意気込みも可愛いよ、リペ」
馬車の中、リペはカイルの膝の上で、マリアンヌがお土産に買ってくれたクッキーを食べながら、激しく落ち込んだ。
「……セバス。私、何をしに街へ出たんでしたかしら」
「お嬢様。表向きは『地獄の引き回し刑』。実態は『親友とのショッピング・デート(殿下のスポンサー付き)』ですね。……お嬢様の悪役スキル、今日も絶好調に空回りしていますよ」
セバスの冷静な言葉を聞きながら、リペは「次は……次こそは、絶対に殿下を怒らせてみせますわ……」と、クッキーをヤケ食いするのだった。
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