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「……マリアンヌ様。いつまで私の袖を掴んでいるつもりですの? 離れなさい、この寄生虫め!」
リペは公爵邸のテラスで、自分のドレスにひっついているマリアンヌを必死に引き剥がそうとしていた。
「嫌ですわ、お姉様! 昨日の夜会でエスコートしていただいた時の、あの凛々しいお姿……。私、思い出すだけでお腹が空いてしまうほど感動いたしましたの!」
「感動とお腹の空き具合に何の関係がありますのよ! セバス、この子を今すぐ実家へ強制送還なさい!」
リペの命令に対し、背後に控えていたセバスは動かなかった。
「お嬢様。マリアンヌ様のご実家からは『リペ様の側で淑女修行をさせていただけるなら、領地の名産品を一生分献上する』という感謝状が届いております」
「いりませんわよ、そんな現物支給! ああもう、鬱陶しいですわ!」
リペがマリアンヌの頭を扇子でポカポカと叩いていると、テラスの入り口に、どよんとした暗雲を背負った男が立っていた。
カイル殿下である。
「……リペ」
「あら殿下。ご機嫌麗しゅう。今、見ての通り、私はこの女を徹底的にいたぶっている最中ですの。婚約者として、こんな残酷な女は嫌でしょう?」
リペは「どうだ!」と言わんばかりの冷酷な笑みを浮かべた。
しかし、カイルの反応は予想とは真逆だった。
「……ずるい。ずるすぎるよ、マリアンヌ嬢」
「……はい?」
カイルは幽霊のような足取りで近づくと、マリアンヌをリペから引き離し、自分がその場所に収まった。
「リペ、最近の君はマリアンヌ嬢にばかり構いすぎじゃないか。僕という婚約者がいながら、他の女性にそんなに熱烈な『教育(いじめ)』を施すなんて……。僕は悲しいよ」
「……殿下、もしかして嫉妬していらっしゃいますの?」
「当たり前じゃないか! 僕だって、君に扇子でポカポカされたい! 僕だって、『この寄生虫!』と罵られたいんだ!」
カイルはリペの両手を握りしめ、切実な瞳で訴えた。
「最近、僕への嫌がらせが疎かになっているよ。毒入りスープも、不敬な態度も、全部マリアンヌ嬢への差し入れや指導に回されている……。リペ、僕という一人の男を、もっと真剣に、全力で『不幸』にしてくれないか!」
リペは絶句した。
(この人、ついに本音を……いえ、本能を剥き出しにしてきましたわ……!)
「殿下、落ち着いてくださいまし。私はマリアンヌ様を、その……ただ虐めていただけですわ」
「嘘だ! マリアンヌ嬢はあんなに艶々した顔をしている! あれは君の愛をたっぷり浴びた証拠だ! それに比べて、僕を見てごらん。君に構ってもらえないせいで、肌の潤いが国家危機レベルで損なわれているよ!」
「国家危機なのは殿下の頭脳の方ですわよ!」
「ああ……! 今、僕を侮辱してくれたね!? もっと、もっと言ってくれ、リペ!」
カイルは頬を赤らめ、恍惚とした表情を浮かべた。
リペは思わず一歩、二歩と後ずさりした。
「セバス……何とかしてくださいまし。この殿下、怖すぎますわ……」
「お嬢様。殿下は、お嬢様の注目を独占できないことに、子供のような嫉妬心を燃やしておられるのです。マリアンヌ様というライバルの出現により、殿下の『リペ様不足』が深刻化しているようですね」
「ライバル!? いじめっ子といじめられっ子の関係ですわよ!?」
「お姉様! カイル殿下にお譲りしてはいけませんわ! お姉様の厳しいお言葉は、私だけのものです!」
マリアンヌまで参戦し、リペの左右の袖を王子と令嬢が奪い合うという、世にも奇妙な三角関係が勃発した。
「離しなさい! 二人とも、一列に並んで反省しなさいな!」
リペが半泣きで叫ぶと、カイルとマリアンヌは同時に「「はい、お姉様(リペ)!」」と嬉々として並んだ。
「……セバス。私、もう悪役令嬢を辞めてもよろしいかしら」
「お嬢様。残念ながら、お嬢様が厳しくすればするほど、彼らの幸福度は上がっていくシステムが構築されてしまいました。諦めて、二人を可愛がって(いじめて)あげてください」
リペは、キラキラとした瞳で「次の罵声」を待つ二人を見ながら、深く、深いため息をついた。
午後のティータイム。リペの「地獄の叱責」という名の朗読会が、二人の信者のために開催されることとなったのである。
リペは公爵邸のテラスで、自分のドレスにひっついているマリアンヌを必死に引き剥がそうとしていた。
「嫌ですわ、お姉様! 昨日の夜会でエスコートしていただいた時の、あの凛々しいお姿……。私、思い出すだけでお腹が空いてしまうほど感動いたしましたの!」
「感動とお腹の空き具合に何の関係がありますのよ! セバス、この子を今すぐ実家へ強制送還なさい!」
リペの命令に対し、背後に控えていたセバスは動かなかった。
「お嬢様。マリアンヌ様のご実家からは『リペ様の側で淑女修行をさせていただけるなら、領地の名産品を一生分献上する』という感謝状が届いております」
「いりませんわよ、そんな現物支給! ああもう、鬱陶しいですわ!」
リペがマリアンヌの頭を扇子でポカポカと叩いていると、テラスの入り口に、どよんとした暗雲を背負った男が立っていた。
カイル殿下である。
「……リペ」
「あら殿下。ご機嫌麗しゅう。今、見ての通り、私はこの女を徹底的にいたぶっている最中ですの。婚約者として、こんな残酷な女は嫌でしょう?」
リペは「どうだ!」と言わんばかりの冷酷な笑みを浮かべた。
しかし、カイルの反応は予想とは真逆だった。
「……ずるい。ずるすぎるよ、マリアンヌ嬢」
「……はい?」
カイルは幽霊のような足取りで近づくと、マリアンヌをリペから引き離し、自分がその場所に収まった。
「リペ、最近の君はマリアンヌ嬢にばかり構いすぎじゃないか。僕という婚約者がいながら、他の女性にそんなに熱烈な『教育(いじめ)』を施すなんて……。僕は悲しいよ」
「……殿下、もしかして嫉妬していらっしゃいますの?」
「当たり前じゃないか! 僕だって、君に扇子でポカポカされたい! 僕だって、『この寄生虫!』と罵られたいんだ!」
カイルはリペの両手を握りしめ、切実な瞳で訴えた。
「最近、僕への嫌がらせが疎かになっているよ。毒入りスープも、不敬な態度も、全部マリアンヌ嬢への差し入れや指導に回されている……。リペ、僕という一人の男を、もっと真剣に、全力で『不幸』にしてくれないか!」
リペは絶句した。
(この人、ついに本音を……いえ、本能を剥き出しにしてきましたわ……!)
「殿下、落ち着いてくださいまし。私はマリアンヌ様を、その……ただ虐めていただけですわ」
「嘘だ! マリアンヌ嬢はあんなに艶々した顔をしている! あれは君の愛をたっぷり浴びた証拠だ! それに比べて、僕を見てごらん。君に構ってもらえないせいで、肌の潤いが国家危機レベルで損なわれているよ!」
「国家危機なのは殿下の頭脳の方ですわよ!」
「ああ……! 今、僕を侮辱してくれたね!? もっと、もっと言ってくれ、リペ!」
カイルは頬を赤らめ、恍惚とした表情を浮かべた。
リペは思わず一歩、二歩と後ずさりした。
「セバス……何とかしてくださいまし。この殿下、怖すぎますわ……」
「お嬢様。殿下は、お嬢様の注目を独占できないことに、子供のような嫉妬心を燃やしておられるのです。マリアンヌ様というライバルの出現により、殿下の『リペ様不足』が深刻化しているようですね」
「ライバル!? いじめっ子といじめられっ子の関係ですわよ!?」
「お姉様! カイル殿下にお譲りしてはいけませんわ! お姉様の厳しいお言葉は、私だけのものです!」
マリアンヌまで参戦し、リペの左右の袖を王子と令嬢が奪い合うという、世にも奇妙な三角関係が勃発した。
「離しなさい! 二人とも、一列に並んで反省しなさいな!」
リペが半泣きで叫ぶと、カイルとマリアンヌは同時に「「はい、お姉様(リペ)!」」と嬉々として並んだ。
「……セバス。私、もう悪役令嬢を辞めてもよろしいかしら」
「お嬢様。残念ながら、お嬢様が厳しくすればするほど、彼らの幸福度は上がっていくシステムが構築されてしまいました。諦めて、二人を可愛がって(いじめて)あげてください」
リペは、キラキラとした瞳で「次の罵声」を待つ二人を見ながら、深く、深いため息をついた。
午後のティータイム。リペの「地獄の叱責」という名の朗読会が、二人の信者のために開催されることとなったのである。
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