婚約破棄を申し込むも、殿下の説得がガチすぎて詰む?

ちゅんりー

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「おーっほっほっほ! 見ていなさいセバス! 今日こそは、この国の最高権力者の一人、王妃様に引導を渡して差し上げますわ!」

リペは、王宮の奥深くにある「薔薇の間」の前で、深呼吸をして胸を張った。

「お嬢様。王妃様はカイル殿下の実の母上。あの方に嫌われれば、いかに殿下が粘ろうとも、婚約解消への道は一気に開けるでしょうね。……まあ、難易度は過去最高ですが」

「覚悟の上ですわ! あえて無作法に振る舞い、王妃様の差し出すお茶を『ぬるいですわ!』と突き返す……これぞ究極の不敬!」

リペは意を決して、豪華な扉を潜った。

部屋の主、エレノア王妃は、優雅にソファに腰掛けてリペを待っていた。その美しさと威厳は、まさに「王国の母」そのものだ。

「リペ、よく来てくれたわね。さあ、楽にしてちょうだい」

「失礼いたしますわ、王妃様! ……ふん、この部屋、少々バラの香りが鼻につきませんこと!?」

リペは鼻を摘み、傲慢な態度でソファにドカッと座った。

(よし、初手で王宮のセンスを否定! 不敬ポイント、一気に加算ですわ!)

しかし、王妃は怒るどころか、扇子で口元を隠してクスクスと笑い出した。

「あら、正直な子ね。実は私も、夫が選ぶこの部屋の香料は少し強すぎると思っていたの。カイルの言う通り、貴女は本当に裏表がないのね」

「……は?」

嫌な予感がリペの背中を走る。

「さあ、リペ。このお茶を飲んでみて。東方の国から届いたばかりの、最高級の茶葉よ」

「……頂きますわ。……っ、なんですかこれ! 色が薄いですわ! もっと濃くて、ガツンと渋いお茶を持ってきなさいな!」

リペはお茶を一口飲むなり、カップをガチャンと机に置いた。

(これですわ! 王妃様のこだわりを否定! さあ、今すぐ『下品な娘は出ていきなさい!』と仰って!)

エレノア王妃は、驚いたように目を見開いた後、感動したようにリペの手を取った。

「……リペ、貴女、私の体調を気遣ってくれたのね?」

「……はい?」

「実は、最近少し胃が荒れていてね。濃いお茶を控えるように医者に言われていたのだけれど、王妃としての意地で飲み続けていたの。……貴女はそれを察して、あえて『下品』を装いながら、私に休憩を促してくれたのね?」

「違いますわ! ただの文句ですわ!」

「いいえ、隠さなくてもいいのよ。カイルから聞いていたわ。『リペの言葉は、氷のように冷たく聞こえても、その芯には太陽のような暖かさが詰まっている』とね。……本当、カイルには勿体ないくらいの良い嫁だわ!」

王妃はリペを抱き寄せ、その頬に優しくキスをした。

そこへ、絶妙なタイミングでカイル殿下が「母上、僕のリペを独占しないでください」と現れた。

「やあ、リペ。母上と意気投合しているようだね。君なら、母上の気難しい性格も一瞬で解きほぐすと信じていたよ」

「殿下! 私は今、王妃様に不敬を働いていたところですのよ!」

「不敬? ……ああ、なるほど。リペ、君は『王族といえども一人の人間である』という真理を、あえて対等な態度を取ることで母上に思い出させたんだね。その真っ直ぐな瞳……僕もまた惚れ直してしまったよ」

(もう、この親子、思考回路がコピペですの……!?)

リペは王妃に「今夜は泊まっていきなさい」と手を握られ、カイルに「明日の朝まで愛を語り合おう」と肩を抱かれ、完全に詰んだ。

「お嬢様。王妃様を『お義母様』と呼ぶ準備、始めましょうか」

セバスの無慈悲な声が、豪華な部屋に虚しく響いた。

「自由が……私の自由なパン生活が、王冠という名の重石で消えていく……っ!」

リペの悪役令嬢への挑戦は、ついに王室全体の「お気に入り」として認定されるという、取り返しのつかない事態に発展してしまったのである。
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