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「……あ、あの、殿下。そのシルクのパジャマ姿で、私の寝室の扉を塞ぐのは何の嫌がらせですの?」
離宮での最初の夜。リペは、自分のベッドに潜り込もうとした矢先、扉の前に仁王立ちするカイル殿下を見て固まった。
カイルは、わざとはだけさせた胸元を強調するように壁に寄りかかり、妖艶な笑みを浮かべている。
「嫌がらせ? 心外だな。リペ、君は自称『稀代の悪女』だろう? そんな大胆な女性が、婚約者と一つ屋根の下、同じベッドで眠ることを恐れるはずがないと思ってね」
「……はい?」
「悪女たるもの、男を惑わしてなんぼじゃないか。さあ、今夜は僕をその毒牙にかけてごらん。……それとも、実はただの『口先だけの純情令嬢』だったのかな?」
カイルの挑発的な言葉に、リペの「悪役令嬢プライド」に火がついた。
「な、なんですって!? この私が純情!? 笑わせないでくださいまし! いいですわ、望むところですわ! 殿下なんて、私の魔力で一晩中眠れなくして差し上げますわよ!」
リペは勢いよくベッドの端を叩き、カイルを招き入れた。
(ふふん、言ってやりましたわ! こうなったら、殿下が恥ずかしくて逃げ出すくらい、ベタベタとくっついて嫌がらせをしてやりますわ!)
しかし、カイルは待ってましたと言わんばかりに、迷いなくリペの隣に潜り込んできた。
「リペ……。君の方から誘ってくれるなんて。ああ、今日はなんて記念すべき夜なんだ」
カイルの体温が、薄い寝具越しに伝わってくる。
リペの心臓が、まるで太鼓のように暴れ出した。
「……ちょ、ちょっと、近すぎますわ! もっと端っこへ行きなさいな!」
「おや、悪女ならもっと大胆に攻めてくるものじゃないのかい? ほら、僕は無防備だよ。どこでも好きなところを抱き枕にしていいんだよ」
カイルはリペを引き寄せ、その細い腰をガッシリと腕の中に収めた。
「ひゃうんっ!? な、何をして……っ!」
「添い寝の攻防だよ、リペ。君が僕を誘惑するか、僕が君を愛で倒すか。……どうやら、勝負は一瞬でついたようだけど?」
カイルの吐息が耳元を掠める。
リペは真っ赤になって、カイルの胸板を必死に押し返そうとしたが、鋼のように硬い筋肉に阻まれて動けない。
「……殿下、これ、全然『悪女ムーブ』ができていませんわ。私が殿下を翻弄するはずだったのに……」
「リペ、君は十分僕を翻弄しているよ。君のこの速すぎる鼓動を聞いているだけで、僕は正気を保つのが精一杯なんだ」
カイルの瞳が、暗闇の中で獲物を狙う獣のように光った。
リペは本能的な危機感を覚え、シーツを頭まで被って芋虫のように丸まった。
「……ね、寝ますわ! もう寝ますわ! おやすみなさいませ!」
「逃がさないよ、リペ。悪女なら最後まで責任を取ってくれないと」
シーツ越しにカイルが覆い被さってくる。
その時、寝室の扉がコンコンと、極めて事務的な音で叩かれた。
「失礼します。夜食のホットミルクをお持ちしました。……おや、お二人でシーツの耐久テスト中でしたか?」
「セ、セバスーッ! 助けてくださいましーっ!」
リペはシーツを蹴飛ばしてベッドから飛び出し、セバスの背後に隠れた。
カイルはベッドの上で、舌打ちを隠そうともせずにセバスを睨みつけた。
「……セバス。君の空気の読めなさは、もはや特級職の域だね」
「恐縮です、殿下。しかし、お嬢様が心臓麻痺で亡くなられては、婚約どころではありませんので。さあお嬢様、ミルクを飲んで落ち着きましょう」
リペはガタガタと震えながらミルクを受け取った。
「……殿下。私、やっぱり悪役令嬢に向いていないかもしれませんわ。心臓が持ちませんもの……」
「いいや、リペ。君のその『うぶ』な反応こそ、悪女を超える最高の毒だよ。僕はすっかり中毒だ。……さあ、セバスが消えたら第二ラウンドだね」
「来ないでくださいましーっ!」
リペの絶叫が、夜の離宮に響き渡った。
結局、その晩のリペは一睡もできず、翌朝には見事なクマを作ることになったが、カイルは「君とお揃いのクマができて嬉しいよ」と、どこまでもハッピーな王子であった。
離宮での最初の夜。リペは、自分のベッドに潜り込もうとした矢先、扉の前に仁王立ちするカイル殿下を見て固まった。
カイルは、わざとはだけさせた胸元を強調するように壁に寄りかかり、妖艶な笑みを浮かべている。
「嫌がらせ? 心外だな。リペ、君は自称『稀代の悪女』だろう? そんな大胆な女性が、婚約者と一つ屋根の下、同じベッドで眠ることを恐れるはずがないと思ってね」
「……はい?」
「悪女たるもの、男を惑わしてなんぼじゃないか。さあ、今夜は僕をその毒牙にかけてごらん。……それとも、実はただの『口先だけの純情令嬢』だったのかな?」
カイルの挑発的な言葉に、リペの「悪役令嬢プライド」に火がついた。
「な、なんですって!? この私が純情!? 笑わせないでくださいまし! いいですわ、望むところですわ! 殿下なんて、私の魔力で一晩中眠れなくして差し上げますわよ!」
リペは勢いよくベッドの端を叩き、カイルを招き入れた。
(ふふん、言ってやりましたわ! こうなったら、殿下が恥ずかしくて逃げ出すくらい、ベタベタとくっついて嫌がらせをしてやりますわ!)
しかし、カイルは待ってましたと言わんばかりに、迷いなくリペの隣に潜り込んできた。
「リペ……。君の方から誘ってくれるなんて。ああ、今日はなんて記念すべき夜なんだ」
カイルの体温が、薄い寝具越しに伝わってくる。
リペの心臓が、まるで太鼓のように暴れ出した。
「……ちょ、ちょっと、近すぎますわ! もっと端っこへ行きなさいな!」
「おや、悪女ならもっと大胆に攻めてくるものじゃないのかい? ほら、僕は無防備だよ。どこでも好きなところを抱き枕にしていいんだよ」
カイルはリペを引き寄せ、その細い腰をガッシリと腕の中に収めた。
「ひゃうんっ!? な、何をして……っ!」
「添い寝の攻防だよ、リペ。君が僕を誘惑するか、僕が君を愛で倒すか。……どうやら、勝負は一瞬でついたようだけど?」
カイルの吐息が耳元を掠める。
リペは真っ赤になって、カイルの胸板を必死に押し返そうとしたが、鋼のように硬い筋肉に阻まれて動けない。
「……殿下、これ、全然『悪女ムーブ』ができていませんわ。私が殿下を翻弄するはずだったのに……」
「リペ、君は十分僕を翻弄しているよ。君のこの速すぎる鼓動を聞いているだけで、僕は正気を保つのが精一杯なんだ」
カイルの瞳が、暗闇の中で獲物を狙う獣のように光った。
リペは本能的な危機感を覚え、シーツを頭まで被って芋虫のように丸まった。
「……ね、寝ますわ! もう寝ますわ! おやすみなさいませ!」
「逃がさないよ、リペ。悪女なら最後まで責任を取ってくれないと」
シーツ越しにカイルが覆い被さってくる。
その時、寝室の扉がコンコンと、極めて事務的な音で叩かれた。
「失礼します。夜食のホットミルクをお持ちしました。……おや、お二人でシーツの耐久テスト中でしたか?」
「セ、セバスーッ! 助けてくださいましーっ!」
リペはシーツを蹴飛ばしてベッドから飛び出し、セバスの背後に隠れた。
カイルはベッドの上で、舌打ちを隠そうともせずにセバスを睨みつけた。
「……セバス。君の空気の読めなさは、もはや特級職の域だね」
「恐縮です、殿下。しかし、お嬢様が心臓麻痺で亡くなられては、婚約どころではありませんので。さあお嬢様、ミルクを飲んで落ち着きましょう」
リペはガタガタと震えながらミルクを受け取った。
「……殿下。私、やっぱり悪役令嬢に向いていないかもしれませんわ。心臓が持ちませんもの……」
「いいや、リペ。君のその『うぶ』な反応こそ、悪女を超える最高の毒だよ。僕はすっかり中毒だ。……さあ、セバスが消えたら第二ラウンドだね」
「来ないでくださいましーっ!」
リペの絶叫が、夜の離宮に響き渡った。
結局、その晩のリペは一睡もできず、翌朝には見事なクマを作ることになったが、カイルは「君とお揃いのクマができて嬉しいよ」と、どこまでもハッピーな王子であった。
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