婚約破棄を申し込むも、殿下の説得がガチすぎて詰む?

ちゅんりー

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「おーっほっほっほ! そこまでになさい、この三下(さんした)の泥棒猫さんたち!」

リペは廃倉庫の埃っぽい空気の中、優雅に扇子を振り下ろした。

目の前には、マリアンヌを椅子に縛り付け、下卑た笑みを浮かべる侯爵令息のグロスとその取り巻きたちがいる。

「リ、リペ・ブランシュ……! 本当に一人で来るとは、カイル殿下の愛に溺れて頭までお花畑になったか?」

グロスが短剣を弄びながら、リペを威圧するように一歩踏み出した。

リペはわざとらしく溜息をつき、憐れむような視線を彼らに向けた。

「お花畑? 失礼ね。私の頭の中は、今この瞬間も『いかにして王国を破滅に導くか』という邪悪なプランで埋め尽くされていますわ!」

「何を言って……」

「いいですか、グロス様。マリアンヌ様をいじめていいのは、この国で唯一人、このリペ・ブランシュだけですのよ! それを横から攫っていくなんて、悪役としてのマナーがなっていませんわ!」

リペはマリアンヌを指差し、堂々と宣言した。

(よし! 『マリアンヌ様は私の獲物』発言! これぞ独占欲の強い悪女の台詞ですわ!)

「お、お姉様……! 私、お姉様の専属の獲物になれるなら、もう一生この縄に縛られていても構いませんわ……!」

マリアンヌが頬を染めてうっとりと呟く。

「黙っていなさいマリアンヌ様! ……さあ、グロス様。今すぐその縄を解いて、私に謝りなさい。さもなくば、この私が貴方たちを『真の恐怖』のどん底に叩き落として差し上げますわ!」

「はっ、何を一人で強がっている! お前一人がここで消えても、事故として処理すれば済む話だ!」

グロスの合図で、数人の男たちがリペを取り囲んだ。

しかし、リペは微塵も動じなかった。

「……あら、力に訴えるつもりかしら? 愚かですわね。私を傷つければ、あの方がどう動くか……貴方たちの貧相な想像力では及びませんか?」

「カイル殿下のことか! あんな、女に骨抜きにされた王子など恐るるに足りん!」

リペは、その言葉を聞いた瞬間、今日一番の冷たい笑みを浮かべた。

「骨抜き? ……ふふ、笑わせないで。殿下は、愛という名の狂気を飼い慣らしている恐ろしい男ですわよ。もし私がここで指先一本でも傷ついたら、彼はこの国を半分更地にしてでも犯人を探し出すでしょうね」

リペはわざと声を低くし、悪役らしく冷酷に囁いた。

「そうなれば、貴方たちの実家も、親戚も、小遣い帳の一ページに至るまで、全てが歴史から抹消されますわ。……ねえ、それって、私のどんな悪事よりも『最悪』な結末だと思いませんこと?」

「ひっ……!」

リペの迫真の演技(というか、実体験に基づく確信)に、男たちが一歩後ずさった。

「さあ、選びなさい! 今すぐ私に婚約破棄を申し出るための『証人』になるか、それともカイル殿下の情熱的な復讐の餌食になるか……! おーっほっほっほ!」

リペの高笑いが、薄暗い倉庫に響き渡る。

その姿は、逆光も相まって、確かに恐ろしい「悪の女王」そのものに見えた。

「く、狂ってる……! この女、本気で殿下を狂犬だと思っていやがる……!」

グロスが戦慄し、剣を持つ手を震わせた。

その時である。

倉庫の重厚な扉が、まるで紙細工のように内側へと吹き飛んだ。

「……あ、あら?」

リペが呆気に取られていると、もうもうと立ち込める砂塵の中から、漆黒のオーラを纏ったカイル殿下がゆっくりと姿を現した。

その瞳には光がなく、ただ一点、リペの姿だけを捉えていた。

「……リペ。僕の許可なく、そんな汚い場所へ足を踏み入れるなんて。……そして、僕の大切な君を、そんな下品な言葉で脅しているネズミたちは……どいつかな?」

カイルの声は、地響きのように低く、冷たかった。

リペは、咄嗟に思った。

(……やばいですわ。本物の悪役(カイル殿下)が登場してしまいましたわ!)

彼女の「悪役令嬢ごっこ」は、最強の王子の登場により、一瞬にして「救出劇」という名の修羅場へと塗り替えられようとしていた。
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