婚約破棄を申し込むも、殿下の説得がガチすぎて詰む?

ちゅんりー

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「セバス! 仕上げですわ! この『漆黒のベール』を被りなさいな! 私は今日、聖女としてではなく、この国を一生かき乱す『悪妻』として嫁ぎますのよ!」

挙式直前の控え室。リペは、純白のドレスの上にあえて漆黒のベールを羽織ろうとして、侍女たちと格闘していた。

「お嬢様、諦めてください。そのベール、先ほど殿下が『リペの顔が見えないのは国家の損失だ』と仰って、ハサミで切り刻んでリボンに作り替えてしまいましたよ」

セバスが、リボンの形になった黒い布の残骸を無造作に差し出した。

「なんですって……!? あの方はどこまで私の『悪役演出』を邪魔すれば気が済みますの!」

「お嬢様。これ以上抵抗すると、殿下が待ちきれずに扉を蹴破って入ってきます。既に外では、殿下が『リペに早く会いたい』という理由で式の開始時間を三十分早めようと大臣と揉めていますから」

「気が早すぎますわよ! ……もういいですわ! こうなったら、入場は『おーっほっほっほ!』という高笑いと共に、極悪非道な足取りで行進してやりますわ!」

リペは最後の悪あがきとして、鏡に向かって一番邪悪に見える笑みを作った。

しかし、大聖堂の重厚な扉が開いた瞬間、彼女の計画は一瞬で瓦解した。

「……あ」

扉の向こう、バージンロードの先で待っていたのは、白銀の礼服に身を包んだカイル殿下だった。

その瞳は、リペの姿を捉えた瞬間に潤み、まるで見惚れた子供のように口を開けて固まっている。

(……そんな顔をされたら、笑い飛ばすなんてできませんわ……)

会場を埋め尽くした参列者たちからは、静まり返った後に、地鳴りのような歓声が沸き起こった。

「見てくれ! リペ様のあの凛としたお姿を! あえて悪役のような不敵な笑みを浮かべようとして、照れ隠しで頬を染めていらっしゃる! なんて健気なんだ!」

「あの黒いリボンのアクセント……『私は影のようにお側に寄り添う』という、殿下への献身のメッセージに違いないわ!」

(違いますわ! それは切り刻まれたベールの成れの果てですわ!)

リペは心の中でツッコミを入れながら、一歩一歩、カイルの元へ歩みを進めた。

最前列では、マリアンヌが「お姉様ー! 世界一かっこいいですわーっ!」と、貴族の令嬢とは思えない声量で叫びながら、バスタオルほどもある巨大なハンカチで涙を拭っている。

ようやくカイルの前に辿り着くと、彼は震える手でリペの手を取った。

「……リペ。君は、僕を殺す気かい? あまりの美しさに、今、心臓が三回ほど止まったよ」

「殿下、大げさですわ。ほら、前を向きなさいな。誓いの言葉が始まりますわよ」

リペは精一杯の強気な声で囁いた。

誓いの儀式が始まる。司祭が「健やかなる時も、病める時も……」と定型文を読み上げようとしたその時、カイルがそれを制した。

「司祭、定型文はいい。……リペ。君が僕を困らせようとしても、僕を罵ろうとしても、僕はそのすべてを愛として受け止める。君がどれほど『悪女』になろうとしても、僕が世界で一番の『悪妻の信者』になることを誓うよ」

カイルは跪き、全参列者の前でリペの手の甲に熱い接吻を落とした。

「……あ、あの、殿下。段取りが……」

「段取りなんて関係ない。リペ、君に一生、僕をいじめ抜く権利をあげる。その代わり、僕の愛からは一生逃げられないと思ってほしい」

会場からは割れんばかりの拍手と、中には「殿下が羨ましいぞ!」という野次まで飛んできた。

リペは顔から火が出るほど赤くなり、もはや「おーっほっほ」と笑う余裕などどこにもなかった。

「……もう、降参ですわ。……殿下。覚悟してくださいましね。私は死ぬまで、貴方を振り回し続けて差し上げますわ!」

「ああ! 望むところだ、愛しの僕の女王様!」

二人が見つめ合う姿に、マリアンヌは卒倒し、公爵(父)は男泣きし、セバスは「……ようやく終わりましたか」と、肩の荷を落としたように微笑んだ。

こうして、王国史上最も騒がしく、そして最も「溺愛」に満ちた結婚式は、リペの完全なる(幸せな)敗北によって幕を閉じたのである。
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