魔力ゼロの-人形使い(ドールマスター) -最強ドールと契約してダンジョンを攻略します-

仁科異邦

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早朝からの特訓

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翌朝、五時に起こされた。
「秀馬」
「……眠い」
「起きてください」
「もう少し」
「五時です」
「だから眠いって言ってる」
布団を引き剥がされた。

桜花が立っていた。
すでに着替えて、刀を携えていた。
「鍛錬の時間です」
「え、昨日そんな話したっけ」
「しました」
「した?」

「夕食のあとに」
昨日の夜、唐揚げ定食を初めて食べた桜花が感動して、テンションが若干上がっていた。
そのあとに何か言っていた気がする。

「……五時は早い」
「源之助様も同じことを言いました」
「英雄も文句言ったのか」
「毎回言いました。毎回起こしました」
「200年変わらないのか鍛錬時間」
「良い習慣は変えないものです」
俺は諦めて起き上がった。



近所の河原に来た。
川沿いの広い砂地。
朝靄が出ていた、人はいない。
「まず確認します」
桜花が俺の前に立った。

「秀馬は戦場でどう動くつもりですか」
「桜花の後ろ」
「それは分かっています。具体的に」
「……考えてなかった」
「正直でよろしい。では今日はそこからです」
桜花が刀を鞘ごと俺に渡した。

「持ってください」
「え、これ俺が?」
「構えてみてください」
「使い方知らないけど」
「知らなくて当然です。見ます」
俺は刀を持った、正直重かった。
「……重いな」
「慣れます。構えてください」
「どう構えればいい」
「今のままで」
桜花が俺の周りをゆっくり歩いた。

観察するような目だった。
「……利き手は右」
「そう」
「重心が後ろに逃げています」
「だって重いんだから」
「重くても前に置くものです。足を肩幅に開いて」
言われた通りにした。

「膝を少し曲げて」
した。
「刀の切っ先を相手に向ける意識で」
した。
桜花が止まった。

「……良い構えです」
「本当に?」
「筋は悪くない。あとは体に馴染ませるだけです」
「どのくらいかかる」
「源之助様は三ヶ月で様になりました」
「三ヶ月か」
「秀馬はもう少し早いかもしれません」
「なんで」
桜花が少し考えた。

「……感覚が似ています」
「誰と」
「源之助様と」
俺は何も言わなかった。
桜花も何も言わなかった。
朝靄の中で、川の音だけがしていた。



一時間、素振りをした。
腕がおかしくなった。
「痛い」
「慣れます」
「何でも慣れるで済ませるな」
「慣れるまでが鍛錬です」
「鬼か」
「鬼ではありません。これでも加減しています」
「これで?」
「源之助様の最初の頃は夜明けから日没まで続けました」

「それは地獄だろ」
「源之助様もそう言いました」
「英雄でもそう思うんだな」
「当然です。しかし続けました」
「なんで」
桜花が少し間を置いた。

「強くなりたいと言ったのは、源之助様ご自身でしたから」
俺は刀を下ろす、腕が震えていた。

「……俺も強くなれるかな」
「なれます」
「即答だな」
「迷う理由がありません」
「魔力ゼロでも?」
桜花が俺を見た。

「魔力がなくても、判断は速くなります。動き方は洗練されます。戦場での勘は鍛えられます」
「それで十分か」
「私が傍にいます。十分です」
俺はもう一度刀を構えた。

腕が痛かった。
でも、続ける気になった。



三日経った。
五時起きが当たり前になった。やっと体は慣れてきた。
桜花の指導は細かかった。
「足の運びが雑です」
「足まで気にするのか」
「足が乱れると上半身も乱れます」
「分かった」

「重心の移動を意識して」
「してる」

「もう少し低く」
「低くすると遅くなる」

「低い方が速く動けます」
「嘘だろ?」
「試してください」
試したら本当だった。

「……なんで」
「重心が低いほど初動が安定します。速さは足の蹴りで出すものです」
「そういうものか」
「源之助様も同じことを言いました」
「俺と源之助様は反応が似てるな」
桜花が少し黙った。

「……そうですね」
何か言いたそうだったが、続けなかった。



五日目。
桜花が木刀を二本持ってきた。
「今日は動きながらやります」
「打ち合うのか」
「当てません。動きを見るだけです」
「ならいい」
構えた。
桜花が踏み込んできた。

速い。
反射的に後ろに引いた。
「下がらないでください」
「速いから」
「速くても横に動けます。下がると逃げ場がなくなります」
「分かった」
もう一度。
今度は横に動いた。

「良いです。では」
間合いが詰まる。今度は上から来た。
俺は刀で受けた。衝撃があった。

「……受けましたね」
「反射的に」
「良い反射です」
「褒められた?」
「褒めました」
桜花がまた踏み込んだ。
今度は俺も動いた。

受けるのではなく、ずれた。
桜花の木刀が空を切った。
「……」

桜花が止まった。
俺も止まった。
「今のは?」
「……よくできました」
「本当に?」
「本当に。今のは、源之助様が一ヶ月かかった動きです」

「一ヶ月を五日で?」
「素質があります」
俺は木刀を下ろした。
「桜花」
「なんですか」
「もしかして俺、強くなれる?」
桜花が真っ直ぐ俺を見た。

「なれます。と、最初に言いました」
「改めて聞いた」
「改めて答えます」
桜花が木刀を下ろした。
「秀馬は、強くなります。私が保証します」
朝日が川面に反射していた。

桜花の金色の目が、その光を映していた。
俺は何も言わなかった。
言わなくてよかった。



一週間後。
朝の鍛錬を終えて、協会に寄った。
「第二層に行きたい」
受付の担当者が確認した。

「現在Fランク、第一層での討伐実績十七件……問題ありません。ただ第二層は難易度が上がります。単独潜入は——」
「二人です」
担当者が桜花を見た。

「……特例登録の旧世代型と、ですか」
「そうです」
「……では、問題ありません」
許可が出た。



川沿いのダンジョン前。
今日は朝から来ていた。
桜花が入口を見た。

「第二層」
「初めて?」
「第二層より下は、源之助様と何度も入りました」

「じゃあ慣れてるな」
「慣れていますが、秀馬は‥」
「初めて」

「緊張していますか?」
「少し」
「良いことです」
「なんで」
「緊張しない人間は、油断しています。少し怖いくらいが、ちょうど良い」
桜花がゲートに登録証をかざした。

「行きましょう」
「ああ」
俺はゲートをくぐった。
一週間前より、足の踏み出し方が少し変わっていた。
自分でも分かった。

桜花は何も言わなかった。
でも、隣を歩く速度が、いつもより少しだけ俺に合わせていた。
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