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思わぬ助けと二人の距離
しおりを挟むエリザがアルベルトとの距離を縮めようと努力する中で、少しずつ彼女の日常にも変化が現れ始めていた。彼が表情や態度でそれを示すことはほとんどなかったが、エリザの挨拶にうなずくことが増えたり、短い言葉を返してくれるようになっていた。
しかし、その小さな進歩も、彼女にとっては大きな喜びだった。
ある日の朝、エリザは使用人たちが何やら慌ただしくしている様子に気がついた。
「何があったのですか?」
クラリッサがエリザのそばに駆け寄り、心配そうに耳打ちした。
「急な知らせで、公爵様が大切なお客様をお迎えすることになったそうです。今日の夕方に到着するとのことです」
「大切なお客様?」
「ええ。以前から親交のある貴族の方で、非常に影響力のある方だとか……。エリザ様も一緒にお迎えされることになると思います」
エリザは少し緊張した。これまで公の場でアルベルトと行動を共にする機会はほとんどなかったからだ。
「分かりました。私にできることがあれば教えてください」
夕方の来客
夕方、屋敷の大広間には豪華な装飾が施され、来客の準備が整っていた。エリザは緊張しながらも丁寧に身支度を整え、アルベルトとともに来客を迎えるために立っていた。
やがて、到着した馬車から現れたのは、華やかな身なりをした中年の男性だった。その後ろには、その息子らしき若い男性も立っている。
「アルベルト公爵、久しぶりだな!」
中年の男性は親しげに笑いながらアルベルトに歩み寄った。
「マクシミリアン侯爵、遠いところをわざわざお越しいただきありがとうございます」
アルベルトは礼儀正しく応じたが、その声にはいつもの冷静さが保たれていた。エリザはそっと隣で会釈した。
「そちらが奥方かね?美しいお嬢さんだ」
「エリザと申します。本日はお越しいただきありがとうございます」
エリザが丁寧に挨拶をすると、マクシミリアン侯爵は満足そうにうなずいた。その隣にいた若い男性も、エリザに興味深そうな視線を向けていた。
「私はエドワードと申します。父と共に参りました。公爵夫人、どうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
エリザはエドワードの親しげな態度に少し戸惑いながらも、丁寧に挨拶を返した。
思わぬ助け
その晩、侯爵たちを招いた夕食会が開かれた。エリザは場を盛り上げようと、できるだけ明るい話題を振りながら努力していた。エドワードもそれに応じる形で、場の空気を和らげるような話をしていたが、アルベルトは静かに食事を続けていた。
エリザが隣のエドワードと会話をしていると、ふとアルベルトの視線を感じた。彼は何も言わないまま、じっとエリザを見ていたのだ。
(どうしたのかしら……?)
エリザはその視線の意味が分からず、少し落ち着かない気持ちになったが、それ以上深く考えることはしなかった。
夕食後、エリザはエドワードに庭園を案内することになった。彼は終始優しい口調で話し、彼女を褒める言葉を何度も口にした。
「公爵夫人、あなたのような方がアルベルト公爵の妻であるとは、本当に驚きです」
「それはどういう意味ですか?」
「彼は冷たいことで有名ですからね。それでもあなたのような温かい方が傍にいるなんて、彼はきっと幸運な方ですよ」
エリザは微笑みながらも、その言葉にどこか複雑な思いを抱いた。
その後、エリザが庭から戻ると、アルベルトが一人でワインを飲んでいる姿を見つけた。彼女が近づくと、彼はふと視線を向けた。
「エドワードと随分話が弾んでいたようだな」
その言葉には、どこか皮肉めいた響きがあった。エリザは驚きながらも答えた。
「彼がとても話し上手な方だったので……ただ、それだけです」
アルベルトは小さく鼻で笑った。
「そうか。だが、あまり深入りするな。余計な期待を持たせるのはよくない」
彼の言葉に、エリザは困惑した。アルベルトが嫉妬しているのか、それとも別の意図があるのか、彼の真意を測りかねたからだ。
(もしかして、少しだけ私に興味を持ち始めているの……?)
エリザはわずかな期待を抱きながらも、アルベルトの冷たい態度に心を乱されるのだった。
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