【完結】悪役令嬢に転生したので破滅回避!……したはずが、冷酷王太子にロックオンされました

22時完結

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逃げられない王太子ルート

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 朝靄が宮殿の中庭を優しく包み込み、静謐な空気の中で新たな一日が始まろうとしていた。だが、私の胸中には、昨夜までの混乱と戸惑いに加え、逃れられぬ運命の重みが、じわじわと忍び寄っていた。王太子アレクシスとの出会い以来、これまでの破滅回避計画は徐々にその色を変え、静かな日常に潜むはずの安全な隠れ家は、彼の影に包まれていくかのようだった。

 昨日、舞踏会での密やかな逢瀬を経て、私の心は複雑な感情に揺れ動いた。冷徹でありながらも、どこか温かいその眼差しは、私に逃れられない宿命を感じさせた。かつては「ただ控えめに生きる」――それだけで十分だと信じ、婚約破棄という惨めな結末を回避できると確信していた。しかし、現実は、王太子が一度足を踏み入れると決して後ろを向かせない、その確固たる存在感を突きつけるようになっていた。

 今日、宮廷の公式行事が催される中、私の動きはできる限り控えめであろうと努めた。だが、社交界に足を踏み入れるたび、どこからともなく感じられる視線と、あらゆる所で感じる王太子の存在に、私は次第に心が締め付けられるのを覚えた。貴族たちは、私がただの悪役令嬢としての台本に従い、無難に日々を過ごしていると思い込んでいるのだろう。しかし、現実は、私自身の意志ではなく、冷酷王太子の絶え間ない介入によって、あらゆる選択肢が狭められているように感じられた。

 公式の昼食会が始まると、華やかなテーブルが整えられ、上流階級の貴族たちが笑顔を交わしながら談笑する中、私の席には既に彼の影が迫っていた。いつものように静かに控えめに振る舞おうと努める私の前に、王太子は突然、現れた。彼の出現はまるで、暗闇の中に差し込む一筋の光のようであったが、その光はどこか、私を逃れさせようとはしない。彼の眼差しは、控えめな私の姿を捉えると、固く、そして執拗に私を見据えていた。

 「レティシア、お前はここでただ遠ざかるつもりか?」
 低く響くその声に、私は一瞬、身動きが取れなくなった。まるで、私の心の奥底にある小さな反抗心さえも、無音のまま飲み込まれていくかのようだった。周囲の視線が一斉にこちらに集まり、瞬く間に会場の空気が変わるのを感じた。私の心は、逃げ場を求めるように脈打っていたが、王太子の存在はまるで鋼の鎖のように、私をその場に縛り付ける。

 「俺はお前を、絶対に逃がさない。お前がどんなに背を向けようとも、俺のもとからは離させはしない」
 その宣言は、昼の喧騒の中にあっても、はっきりと耳に届いた。私の頬は一瞬で熱く染まり、内心で叫びたくなる思いと、同時にその言葉に逆らえぬ運命を悟るような複雑な感情が渦巻いた。これまで、自らの計画に基づき破滅ルートを回避しようと必死に逃げ続けたはずなのに、どうして今、王太子という存在が、私の選択肢を次々と奪っていくのだろうか。

 昼食会の最中、周囲の貴族たちは私と王太子の奇妙な近接に気付き、噂話が次々と交わされる。しかし、私がその視線を感じるたびに、心の中で小さな抗議の声が上がった。自分の意思とは裏腹に、王太子の存在が、私に次第に心の奥深くまで染み込み、逃れるどころか、むしろ引き寄せられる感覚に変わっていくのを、否応なく感じざるを得なかった。

 昼食会が終わると、私は一刻も早く一人になれる隙を求め、宮殿の奥にある静かな回廊へと足を運んだ。だが、そこに待っていたのは、静寂を切り裂くかのような、彼の再び現れる姿であった。廊下の奥から、王太子が静かに、しかし確実な足音を立てて近づいてくるのが分かり、私の心は再び鼓動を早めた。

 「お前は、どこへ行くつもりだ?」
 廊下の影から現れた彼の声は、まるで逃れようとする私の意思を全て見透かすかのように、冷たく、そして情熱的だった。その声には、これまでの冷徹な言葉とは異なり、どこか切実な思いと、私を守り抜きたいという強い執着が感じられた。私は一瞬、何も答えられず、ただ静かにその場に立ち尽くすほかなかった。

 「私は……ただ、静かに生きたかっただけです」
 その返答を口にした瞬間、私の内面は激しく揺れ動いた。王太子の眼差しは、まるで私の言葉の一つ一つを否定するかのように、そして同時に肯定するかのように、複雑な感情を湛えていた。彼の存在は、私にとって逃れられない宿命となり、どんなに遠くへ逃げようとしても、必ずその影は付きまとってくることを、改めて実感させられたのだ。

 その後、宮殿内で行われた小規模な晩餐会でも、王太子はあらゆる場面で私の側に現れた。席次の調整や、談笑の中でふとした瞬間に、彼の視線が私に注がれるのを感じるたび、心の中で小さな抵抗の炎がくすぶると同時に、次第にその炎は、温かな情熱へと変わっていくのを感じた。逃れようとすればするほど、彼の存在はますます執拗になり、まるで私の歩む道を完全に支配しようとするかのようであった。

 晩餐会が終盤に差し掛かる頃、宮殿の中庭に設けられた噴水の前で、王太子は私を呼び止めた。柔らかな月光に照らされる庭園は、昼間の華やかさとは異なり、どこか幻想的で静謐な雰囲気に包まれていた。しかし、その中で彼の瞳は、激しい情熱と独占欲を秘めたまま、私をじっと見据えていた。

 「逃げるな、レティシア。お前がどんなに背を向けようとしても、俺は決してお前を手放さない」
 その声は、庭園の静寂を破るかのように響き渡り、私の心に鋭く突き刺さった。私は、心の中で必死に抗おうとするものの、その瞬間、彼の温かな手がそっと私の頬に触れると、逃れられない運命の重さを改めて実感せざるを得なかった。

 彼の存在は、私にとって単なる脅威ではなく、次第に心の一部となりつつあった。逃げれば逃げるほど、彼の熱い視線は、私の心の奥深くに根を下ろし、既にあらゆる行動を左右していた。どんなに必死に自らを律し、破滅ルートから逃れようとしても、その存在の重みは、あらゆる瞬間に私に迫り、冷たくも甘美な現実を突きつけた。

 その夜、私が再び部屋に戻ると、窓辺に寄りかかりながら、今日一日の出来事を静かに振り返った。どんなに自分を律しても、王太子の影は消えることなく、むしろ私に近づき、次第にその存在感は、逃れることなど不可能なほどに固まっていった。夢か現か、はたまた運命の悪戯か――私の心は、その問いに答えを見いだすことができず、ただひたすらに重い思いに沈んでいくようだった。

 だが、ふと気付くと、私の中にはかつて感じたことのない、穏やかな温かさが芽生えているのを感じた。逃げ続けることが、決して本当の自由や幸福に繋がらないのならば、受け入れることこそが、今の私にとって必要な選択なのかもしれない。王太子アレクシスの存在が、私の全てを支配しようとするその意志の中に、どこか真摯な愛情が潜んでいると、気づかずにはいられなかったのだ。

 ――こうして、今日一日、私は王太子から逃れるどころか、むしろその存在によって自らの運命が次第に形作られていくのを、痛感せざるを得なかった。たとえ逃れようとするほどに、彼は私のそばに寄り添い、独占欲を露わにしながらも、どこか守るべき対象としての温かさを見せてくれる。彼の存在が、今や私にとっては否応なく受け入れるべき宿命であると、心の奥深くで静かに認めざるを得なかったのだ。

 その夜、静かな宮殿の一室で、私はひとり窓の外を見つめながら、これまでの自らの選択と、逃れられない運命の現実に向き合った。王太子の言葉とその確固たる眼差しが、私に新たな生き方を迫り、従来の計画を完全に覆してしまった現実。そのすべてを受け入れるか、あるいは再び抗おうとするか――その選択は、もはや私の意志の及ばないものとなっていた。

 朝が再び訪れる頃、月明かりに照らされた庭園の一角で、私は小さくため息をついた。今日もまた、王太子はあらゆる瞬間に、私の前に現れ、その存在で私の心と生活を支配している。逃げようとしても、彼の執拗なまでの愛情は、まるで宿命の如く、私のすべてを包み込むのだ。

 そして、日々の中で、私自身が王太子の存在に対して抗おうとするほどに、心の奥では次第に彼に引かれていく自分がいることに気づかされた。冷たく、そして時には激しい彼の視線は、私の孤独や恐れをかき消し、静かでありながらも確固たる温かさをもたらしてくれる。まさに、逃げられない王太子ルート――それは、私が選ばざるを得なかった新たな運命の道であった。

 この現実に、私がどのように立ち向かい、あるいは受け入れていくのか。未来は未だ霧に覆われ、不確かなものではあるが、ひとたび彼と向き合えば、全てが新たな光に包まれる可能性もまた、秘められているのだろう。私の心は、今日もまた、王太子の執着と愛情に翻弄されながら、しかし同時に、その温かさに救われるような、複雑な感情に満たされていた。

 ――逃れられぬ運命の鎖に、抗うことなく身を委ねるか、それとも最後の一瞬のためらいを捨て、新たな未来へと歩み出すか。答えは、すでに私の内に決して揺るがない確信として、密かに刻み込まれているように思える。王太子の存在は、もはや私の隣で静かに、しかし絶対に消えることのない光となり、今後の日々に新たな彩りを添えていくだろう。

 こうして、今日という一日は、王太子アレクシスとの逃げられない運命が、私の日常と心に深く刻まれ、どんなに抗おうとしても、彼の存在が私に確かな未来を示唆するかのように、静かに幕を閉じたのだった。

 ――そして、夜が更ける頃、窓から漏れる月明かりの下、私はそっと目を閉じた。逃げられない王太子ルート――それは、これまでの計画を完全に覆し、新たな愛と運命の物語を、私に強制的に歩ませるものとなったのだと、深い静寂の中で、改めてその重さを噛み締めるのであった。

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