【完結】婚約破棄された令嬢ですが、冷酷公爵に拾われて溺愛されています

22時完結

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追放の日

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     薔薇の香りが漂う王宮の庭園で、リディア・エルウィンの人生は一瞬にして崩れ去った。

「リディア・エルウィン。汝を重大な背信行為により、王太子妃候補の地位から剥奪し、婚約を破棄する」

 王太子ルシアンの冷たい声が、初夏の風に乗って響く。周囲を取り囲む貴族たちの視線が、まるで針のように刺さった。

「殿下、一体何の罪で……」

 リディアの震える声に、王太子は鼻で笑った。隣に立つ侯爵令嬢セリーナが、勝ち誇ったような微笑みを浮かべている。

「とぼけるな。お前が裏で平民と密会を重ね、王室の威信を傷つけたことは明らかだ。証拠もある」

 差し出された書状を見て、リディアの顔が青ざめた。確かに自分の筆跡のようだが、書いた覚えなどない。

「これは偽造です!私はそのような――」

「見苦しい言い訳はやめろ。お前のような不貞な女に、我が妃になる資格はない」

 王太子の宣告と共に、リディアの身に着けていた王家の紋章が剥ぎ取られた。十八年間大切に身に着けていた、未来への証が、冷たい石畳に転がる。

「今すぐ王宮から立ち去れ。二度と姿を見せるな」

 貴族たちのざわめきと嘲笑の中、リディアは震える足で歩き出した。振り返ると、セリーナが王太子の腕に縋りついているのが見えた。すべては仕組まれていたのだ。
 エルウィン伯爵邸に戻ると、父の冷たい視線が待っていた。

「リディア、お前のせいで我が家の名誉が地に落ちた。もはやお前は我が娘ではない」

「お父様、私は何もしていません!」

「うるさい!恥知らずな娘など知らん。今すぐ荷物をまとめて出て行け」

 母も弟も、誰一人としてリディアの味方をしてくれなかった。十八年間愛情を注いでくれた家族が、一夜にして他人になった瞬間だった。

 小さな鞄一つを手に、リディアは生まれ育った屋敷を後にした。行く当てなどない。友人と思っていた貴族の令嬢たちも、もう誰も彼女に関わろうとはしないだろう。

 雨が降り始めた。リディアは王都の片隅で、小さくうずくまった。何もかもを失った現実が、ようやく心に沈み込んでくる。

「どうして……どうして私が……」

 涙と雨が頬を伝って落ちる。もう何も残っていない。家族も、地位も、名誉も、未来も。

 そんなリディアの前に、黒い馬車が静かに停まった。扉が開き、長身の男性が降りてくる。深いフードを被っているため顔は見えないが、その佇まいからただ者ではないことが分かった。

「君が、エルウィン伯爵家の令嬢か」

 低く響く声に、リディアは顔を上げた。フードの影から覗く瞳が、氷のように冷たく光っている。

「申し訳ございません、もう私はエルウィン家の者では……」

「構わん。君に用がある」

 男性は躊躇なくリディアの前にひざまずき、手を差し伸べた。

「私はアレクセイ・ヴォルフ。隣国ヴァルハイム公国の公爵だ。君を引き取ろう」

 リディアの瞳が見開かれた。ヴォルフ公爵——冷酷無慈悲で知られる、氷の公爵。なぜ彼が自分に?

「お断りします。私はもう、誰の同情も受けたくありません」

「同情?」
アレクセイの唇が、わずかに上がった。

「私は同情など知らん。ただ、君が必要なだけだ」

「必要……?」

「詳しくは後で説明する。今は雨に濡れている場合ではないだろう」

 強引に手を引かれ、リディアは馬車に押し込まれた。車内は豪奢な作りで、温かい毛布が用意されている。

「なぜ私を……」

「君は今日から、私のもとで生きろ」

 アレクセイの言葉は、命令のように響いた。しかしなぜか、その声には優しさが混じっているような気がした。
 馬車が走り始める。窓の外で王都の景色が流れていく。リディアは、自分の運命が大きく変わろうとしていることを、まだ知らなかった。
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