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王国の春は、柔らかな陽光に包まれ、空を舞う桜の花びらが街全体に淡いピンク色の装いをもたらしていた。
王都の中心を走る石畳の通りは、華やかな装いをした貴族たちと、忙しそうに動き回る商人たちで賑わっている。市場では果物や布地、装飾品が並び、遠くから聞こえる楽器の音色が春の訪れをさらに感じさせた。
そんな中、ナタリア・ロゼリアは自室の鏡の前に立ち、召使いの手によって仕上げられた華やかな宮廷風ドレスを身にまとっていた。その白いドレスには銀糸で細かく刺繍が施されており、動くたびに輝きを放つ。それはまるで彼女の存在そのものを象徴するかのようだった。
「…今日も宮殿に行くのね?」
鏡越しに見える召使いのメアリーが、少し心配そうに声をかけた。彼女は長年ナタリアに仕えている優しい女性であり、ナタリアの幼い頃からの心の支えだった。
「ええ、もちろん。王太子殿下が私を待っているはずだもの。」
ナタリアは柔らかい笑みを浮かべながら答えたが、その胸の内は穏やかではなかった。昨夜見た夢が、どうしても頭を離れないのだ。
夢の中、彼女はまるで別人のようだった。美しい装いをしているのに、その表情には傲慢さが滲み、まわりの者たちを冷たく見下していた。そして何より恐ろしかったのは、その未来で彼女が「悪役令嬢」として描かれていたことだ。
夢の中の彼女は、王太子アレクサンダーへの愛を隠さず表に出し、彼の婚約者である別の令嬢に嫉妬と嫌がらせを繰り返していた。やがて、その行為が明るみに出たとき、彼女は王太子から婚約破棄を告げられる。そして、恥辱にまみれたまま、王都を追放されるのだった。
その夢は単なる幻に過ぎないと、何度も自分に言い聞かせようとした。それでも、その映像は現実以上に鮮明で、夢から目覚めた後も心に深い傷を残した。
「こんな未来、絶対に避けなければ…。」
ナタリアは鏡越しに自分の顔をじっと見つめ、心の中で強く誓った。
宮殿の廊下は、彼女にとって馴染み深い場所だった。幼い頃から王太子アレクサンダーとは何度も共に過ごし、無邪気に笑い合った記憶が残っている。彼はいつも彼女に優しく、時にはふざけ合い、時には励ましてくれる存在だった。
だが、その日、彼女は意を決し、宮殿への訪問をやめる決断をした。
「もし私が彼の人生に災いをもたらす存在だとしたら…今のうちに距離を置くべきだわ。」
ナタリアは召使いに訪問を中止するよう伝え、代わりに自室で静かに時間を過ごすことを選んだ。これが正しい道だと信じていたが、その胸には一抹の寂しさと後悔が残っていた。
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