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ナタリアが宮殿への訪問を断ち切ってから、季節はすでに夏を迎えていた。王都の中央に位置する貴族学園では、夏の訪れとともに行事が目白押しで、学園中が活気に満ちている。
その中でも、毎年恒例の「騎士団演習」は一大イベントだった。貴族の子息たちが訓練の一環として騎士の技を披露し、令嬢たちは彼らの勇姿を見守る。成績優秀な者には国王自ら表彰状を授ける栄誉があり、学園内外の注目が集まる催しだ。
ナタリアも例年通り、観覧席に並んでその演習を見守る立場にいた。しかし、彼女の心は晴れなかった。
「アレクサンダー様も出場するのよね…。」
それを考えただけで、胸がざわついた。彼女は王宮での生活を離れた後も、学園では彼と顔を合わせることが避けられなかった。過去に築いた友情の記憶は彼女の中で大切なものでありながら、同時に恐怖の種でもあった。
演習が始まると、学園の広大な訓練場には拍手喝采が響いた。馬上槍試合や剣技の披露が行われる中、一際目を引いたのはやはりアレクサンダーだった。
王太子としての威厳を纏いながらも、その鍛え上げられた体と華麗な剣技は観客を圧倒し、彼が持つカリスマ性を改めて感じさせた。
ナタリアは彼を見つめながら、記憶の中にある幼い頃の彼の姿と重ねていた。かつて彼と一緒に木剣を振るい、無邪気に笑い合った日々。だが今、その姿はもう手の届かないほど遠い存在に感じられた。
「ナタリア?」
突然の声にハッとして顔を上げると、隣には友人のクラリスが立っていた。
「どうしたの?そんなにぼんやりして。」
クラリスは心配そうに彼女を覗き込む。
「…何でもないわ。ただ、演習が素晴らしいと思って。」
「嘘ね。あのアレクサンダー様を見つめていた顔、何かあるでしょう?」
クラリスは悪戯っぽく笑いながらそう言ったが、ナタリアの反応があまりにも鈍いことに気づき、からかうのをやめた。
「本当に何か悩みがあるなら、私に話してね。」
その言葉にナタリアは小さく頷いたが、胸の内を明かすことはできなかった。彼女の中には、誰にも言えない秘密があったのだ。
演習が終わり、参加者たちが退場する中で、アレクサンダーが観覧席に目を向けた。その視線が一瞬、ナタリアと交わる。
彼の目が輝きを帯びたように見えたのは、気のせいだったのだろうか。
ナタリアはその場から目を逸らし、素早く席を立った。
彼女の心臓は早鐘のように鳴り響いていた。
「これ以上、関わるわけにはいかない…。」
しかし、運命は容赦なく、彼らを再び引き寄せようとしていた。
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