使命

新浜 星路

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使命

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音声認識型発育装置リリーは全く温度を伴わない声で言った。
「隣の惑星へと行ってください」
今まではリリーから自発的に言う事はなかった。
リリーは彼が生まれ落ちた時から生きる上の知識や彼が質問した事を答えるだけだった。
「どうしてこんなに恵まれているのに、そうしなければならないんだ?」
「そうすべきだからです」
「理由は?」
「お答えできません」
その返答にやや不服気味の反応を示していたが、
目指すことにした。
彼からすれば毎日がオンラインライフで現実に顔を出す事は
面倒くさかったのだろう。
だが、人生でこのナビゲート機能を使わない日はなかったし、
彼の言う事を聞いてきて損はなかった。
「ちょっとまっていい?」
「だめです、いますぐです」
「え、今じゃなきゃだめ?」
「はい、そうです」
仕方なく彼は荷物を纏め、隣の惑星にいくことになった。
勿論、そんな簡単ではない事ぐらいはわかってる。
隣の惑星といってもすぐ行ける距離ではないし、
デブリの運河が行く手を阻んでいるのを知っている。
だが、ナビゲートが言うなら仕方ないと彼は思い行動したのだった。
隣の惑星へ行くまでのロケットの整備中に、同い年の
アントニーが声をかけてきた。
「あれ、お前も隣の惑星にいくの?」
「ああ。めんどくさいけどね」
「……気をつけろよ。噂によると行ったやつは
誰ひとりとして帰ってきてないから」
「そういうお前だって行くじゃん」
「俺も行くよ、ここはまるで天国のように行き届いてる。
だけどなにか違うんだ! 何かが違う! 本当にこれでいいのかって
行き届いている事が全てなのか?」」
「さぁ」
アントニーは考えるのもめんどくさいので適当に返事をした。
「そう、なぜかわからない。だけど毎日夜寝るとき、俺に囁きかけてくる
何かがいるんだ。夢か幻かしらないが……」
「へぇ……」
「向こうで会おう」
彼とアンソニーは握手を交わした。
ロケットの給油作業は終わり
いよいよ、産まれし星を去る事になった。
出発直前に、彼はリリーに聞いた。
「なぁ、リリー。死んだらどうすんだ?」
「死にません」
「どうしてそんな事が言えるんだ? 宇宙には危険が沢山あるのに」
「それは死なないからです」
リリーは確定したかのように力強く言ったように聞こえた。
「……昔、こんな伝説をきいたことがある。あそこは天国であり地獄だ
だから帰ってきたって……それってどういう意味だと思う?」
「……答えません」
「リリーは昔から都合の悪い事はすぐそうやって閉ざすね」
「規則です」
「……わかったよ」
彼はロケットのスイッチを押し地球から離れた。
「……外はこんな風になってたんだな」
暗黒の中に散りばめられた星々。
そして、彼やアンソニーの他にも惑星を目指す者たちの船があった。
その中に、段々こちらへと向かってくるなにかの大群が見えた。
「彗星が迫ってます。回避してください」
「そんな事いったって」
彼は操縦技術があるわけでもないが、一つの、二つの、
三つとなんとか流星群を交わしきった。
「運がいいですね」
「そりゃどうも」
惑星を目指す者たちの船は先ほどの三割くらいしか残っていなかった。
「……しかしこんな危ない旅なら、逃げて帰る奴も
でるんじゃないか」
「逃亡船は少々でたようです」
「……やっぱりか。アントニーは?」
「……先程ので」
「そっか……」
やや沈黙を挟みリリーは尋ねる。
「私たちも引き返しますか?」
「いや、帰らない。リリーが言ったんでしょ。行くべきだって」
「はい」
「リリーはおかしいね、時折、人間かのように聞こえるよ」
「私が長年育ててきましたから」
「俺も君に長年育てられてきたからね」
この先も、多くのトラブルが彼らを襲った。
そして出発時の船の一割ほどの船が
目標の惑星へとたどり着いた。
「リリー? 何かこの惑星で注意する事ある?」
そう訊ねるがリリーは返答しなかった。
「そうか、もう寿命だったんだ」
彼は着いた事の嬉しさよりも
リリーのいない悲しさで涙がでてきた。
だが、リリーと目指したものが外にはある。
それを見ないわけにはいかなかった。
ロケットの外へと出る。
澄んだ空気と草原とロケットと着いた人々と……。
「遅いですよ」
彼に声を掛ける若い人がいた。
「だ、誰……というか現地人? エイリアン?」
「人間ですよ。顔も似てるでしょう」
「そ、それはおかしい。筋肉もないしなんで胸に膨らみがある?」
「私が女だからですよ」
「……もしかしてリリー?」
「はいそうです。遅いですよ」
「……人間だったんだ、何歳なの?」
「あなたと同い年」
「ええ、だって俺が生まれたときから話しかけてたでしょ」
「テレパシーです。あなたにだけあのスマートフォンから声が届くんです」
彼はリリーにどうしてこんな大航海をしなければなかったか理由を訊こうとしたがやめた。それは「規則です」って言うに決まってる。
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