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国家教室
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教室内の時計の針は12をちょうど過ぎた所だった。
また今日も始まる。何気ない会話の中に仕込まれた暗号。
僕は知っている。
「ねえ、今日のお弁当はなに?」
「えー卵焼き。しほはー?」
向かいの女の子達が楽しそうに弁当の話だ。
「なあ、今日の数学の授業、俺にあたんだけどさ、答え教えてよ、唐揚げ1個で」
「んじゃ2個で考えてやる」
「この料理、手作りなのー?すごいー」
「私のパパ、コックさんだからさ」
たわいのない会話のように思える。
それは教室に来て初日だけならね。
だけど、そうじゃない。
「昼休みは、バスケしようぜ」
「今日は野球やる約束だったろ」
こいつらは毎日こんな会話ばかりだ。
なあ、こいつらはなんの会話をしてるんだ。
このルールを知らないのは俺だけのように思えてくる。
なんでこの一見仲の良い会話を僕が疑っているのかというと、
会話の"間"がおかしい。
何気ない会話のはずなのに、みんながそれをきいてから返答してるように思える。
本来なら、クラスの会話なんて成り立つはずがない。
だけど、こいつらの会話は、前の席のやつの会話を後ろの席のやつまで聞いていて
全く別のやつとの会話のはずだが、繋がりを持ってるように思える。
普通に仲のいい会話ならいいんだよ、だけどこいつら、顔は笑っていても眼が笑っていない。
「そういえば、一昨日、校長先生、花壇の端に頭ぶつけてしんじゃったんだって」
「それは、大変」
いやそんなぼけたおじいちゃんじゃなかったはず。この前もきちんと僕の入学手続きしてたし。
「でも80歳でしょ、痴呆入ってたみたい」
「まあ痴呆じゃね」
「それは阿呆じゃな」
誰かがおどけめかしてそう言った。
「呆しかあってないじゃーん」
「でも、確かにうちのクラスに目をつけてきたからいなくなってよかったね」
「よかったよかった」
ちょっとまって。人が死んだのに、なにこの冷静さ。
僕たちは中学生だよね。なんでこんな雨が降っただけかのような軽さ。
「なんでうちの学校で最近、死ぬ人多いんだろうね」
「保健室のみほ先生、私好きだったのになぁ」
「ふふふ、でも噂によると、男子中学生のたまり場になってたらしいよ」
「えーなにそれ、誰かに恨まれてたの?」
「嫉妬だよ」
誰かが言った。
「嫉妬だね」
「嫉妬だ」
静かな昼食時間のはずなのに、話してる内容がディープすぎるよ。
しかもその事実以外になにかある気がする。
でもそんな事僕は思うべきじゃない。
とにかく、気づかないふりを。
「ねえ、佐藤君も嫉妬だと思う?」
やばい、こっちにふられた。
僕に視線が、注目が集まる。
「佐藤も嫉妬だと思うよな?」
「だよな」
「そうよね」
人々の視線と同意の強制が、尋問が僕にぶつかってくる。
「だ、だと思うな、ははは」
振り絞ってでた声は自信のない同意。
静まり返るクラス。
弁当を頬張る男子、ひそひそ話を始める女子。
……しまった、間違えたか。
心臓がいやな感じでぐさりとひしゃげた気がする。
僕は強くない。お願いだ、これでも振り絞ったんだ。
目をきつくつぶり、許してくれという顔を全面にだす。
許してくれ、許して、許してよ、許してよねえ。
僕の強い祈りはどうなるんだ。
ああ、お願いだ神様、僕を助けてください。
なにかの破裂音のような音がした。それに続いて誰かもその音を、
それに続いて誰かがまたその音を。
気が付けばそれは拍手だった。
僕は受け入れられたんだ。よかった。
「佐藤って面白いやつだよな」
「うん、佐藤君って面白い」
「面白いな」
多くのクラスメイト達が僕を褒めた。
「みんなで校庭で遊ぼうぜ」
誰かが言った。
そしてみんな駆け足で教室から出て行った。
僕は一人ぽつんととり残され、弁当をほおばった。
教室から遠ざかっていく小声が聞こえる。
「佐藤ってさ……」
また今日も始まる。何気ない会話の中に仕込まれた暗号。
僕は知っている。
「ねえ、今日のお弁当はなに?」
「えー卵焼き。しほはー?」
向かいの女の子達が楽しそうに弁当の話だ。
「なあ、今日の数学の授業、俺にあたんだけどさ、答え教えてよ、唐揚げ1個で」
「んじゃ2個で考えてやる」
「この料理、手作りなのー?すごいー」
「私のパパ、コックさんだからさ」
たわいのない会話のように思える。
それは教室に来て初日だけならね。
だけど、そうじゃない。
「昼休みは、バスケしようぜ」
「今日は野球やる約束だったろ」
こいつらは毎日こんな会話ばかりだ。
なあ、こいつらはなんの会話をしてるんだ。
このルールを知らないのは俺だけのように思えてくる。
なんでこの一見仲の良い会話を僕が疑っているのかというと、
会話の"間"がおかしい。
何気ない会話のはずなのに、みんながそれをきいてから返答してるように思える。
本来なら、クラスの会話なんて成り立つはずがない。
だけど、こいつらの会話は、前の席のやつの会話を後ろの席のやつまで聞いていて
全く別のやつとの会話のはずだが、繋がりを持ってるように思える。
普通に仲のいい会話ならいいんだよ、だけどこいつら、顔は笑っていても眼が笑っていない。
「そういえば、一昨日、校長先生、花壇の端に頭ぶつけてしんじゃったんだって」
「それは、大変」
いやそんなぼけたおじいちゃんじゃなかったはず。この前もきちんと僕の入学手続きしてたし。
「でも80歳でしょ、痴呆入ってたみたい」
「まあ痴呆じゃね」
「それは阿呆じゃな」
誰かがおどけめかしてそう言った。
「呆しかあってないじゃーん」
「でも、確かにうちのクラスに目をつけてきたからいなくなってよかったね」
「よかったよかった」
ちょっとまって。人が死んだのに、なにこの冷静さ。
僕たちは中学生だよね。なんでこんな雨が降っただけかのような軽さ。
「なんでうちの学校で最近、死ぬ人多いんだろうね」
「保健室のみほ先生、私好きだったのになぁ」
「ふふふ、でも噂によると、男子中学生のたまり場になってたらしいよ」
「えーなにそれ、誰かに恨まれてたの?」
「嫉妬だよ」
誰かが言った。
「嫉妬だね」
「嫉妬だ」
静かな昼食時間のはずなのに、話してる内容がディープすぎるよ。
しかもその事実以外になにかある気がする。
でもそんな事僕は思うべきじゃない。
とにかく、気づかないふりを。
「ねえ、佐藤君も嫉妬だと思う?」
やばい、こっちにふられた。
僕に視線が、注目が集まる。
「佐藤も嫉妬だと思うよな?」
「だよな」
「そうよね」
人々の視線と同意の強制が、尋問が僕にぶつかってくる。
「だ、だと思うな、ははは」
振り絞ってでた声は自信のない同意。
静まり返るクラス。
弁当を頬張る男子、ひそひそ話を始める女子。
……しまった、間違えたか。
心臓がいやな感じでぐさりとひしゃげた気がする。
僕は強くない。お願いだ、これでも振り絞ったんだ。
目をきつくつぶり、許してくれという顔を全面にだす。
許してくれ、許して、許してよ、許してよねえ。
僕の強い祈りはどうなるんだ。
ああ、お願いだ神様、僕を助けてください。
なにかの破裂音のような音がした。それに続いて誰かもその音を、
それに続いて誰かがまたその音を。
気が付けばそれは拍手だった。
僕は受け入れられたんだ。よかった。
「佐藤って面白いやつだよな」
「うん、佐藤君って面白い」
「面白いな」
多くのクラスメイト達が僕を褒めた。
「みんなで校庭で遊ぼうぜ」
誰かが言った。
そしてみんな駆け足で教室から出て行った。
僕は一人ぽつんととり残され、弁当をほおばった。
教室から遠ざかっていく小声が聞こえる。
「佐藤ってさ……」
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