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アマチュア作家の小説
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エリカは最近、アマチュア作家のブログサイトに書かれている小説を読むことにハマっていた。小説の内容は、キャンプ場で殺人鬼が暴れまわったり、主人公が密室で拷問を受けたりするなど、そのほとんどがスプラッターホラー的なものであった。彼女はこの作家のリアリスティックな描写や、文章を読むだけでゾッとするような残酷な表現がとても好きであり、時には実際にサイトに書かれている住所にファンレターを送るほど熱烈なファンであった。
先日、彼女の激しい小説への愛が伝わったのか、なんと本人から手紙での返事が彼女の家に届いた。手紙には彼女への感謝や作者自身の作品への愛などが、丁寧な字でびっしりと書かれていた。そして、手紙の後半にはこんなことが書かれていた。
「今度、屋外でオフ会をしようかと考えております。BBQなどをしながら作者と読者同士で交流ができたらなと思い、準備をしております。日時と場所は下記に記しておりますので、もし参加される場合は文の末にあるメールアドレスへ参加する意向を示すメールをお送りください。」
とても驚いた。まさか、あの憧れの先生に会えるなんて。しかも、見たところオフ会の会費も書かれていない。タダで先生とお話が出来るなんて、こんな夢のようなお誘いが本当にあるのだろうか。これは行くしかない。そう決意を固めた彼女は、すぐに参加を希望するメールを送り、約束の日まで胸を躍らせながら待つことにした。
遂にその日が来た。エリカは最寄りの駅から電車に乗り、目的の会場へ向かう。電車に揺られること一時間半、やっと彼女は目的地の最寄りへ着いた。駅構内は閑散としており、ほぼ無人駅のような様相を呈していた。送られた手紙によると、オフ会の会場は最寄り駅からかなり遠いところにあるので、駅前の道路に移動用の車を手配しておきます、と書かれていたので、改札を出て、駅前の開けたところへ行くと、丁度目の前の停車場に大きなハイエースが一台停まっていた。
エリカの姿を見るやいなや、運転手らしき人が彼女に挨拶をした。白髪で身長は高くすらっとした、いかにもお嬢様の執事のような男であった。彼女は送ったメールに書いた名前を名乗り、運転手の言われるがままにハイエースの後部座席に着いた。車内にはお茶やお菓子などケータリングサービスが充実しており、彼女は運転者と軽く雑談をしながら飲食をし、快適な移動時間を過ごした。
エリカが飲食をしてから十分ほど過ぎた頃だろうか。ふいに彼女は病的なほどの眠気に襲われた。彼女はこの症状を不安に感じ、運転手に伝えたところ、「長旅で疲れたのでしょう。目的地まではまだ時間がかかりそうですので、今のうちにゆっくりお休みくださいませ」と穏やかな返しをされたため、彼女はその言葉に甘え、シートの上で横になり、深く眠った。
目を覚ました。だが暗い。彼女はいつの間にか目隠しをさせられていたみたいだ。彼女は現状を不思議に感じながら、目隠しを取ろうとする。動けない。手足が動かない。動かそうとすると身体のまわりに張り巡らされている鎖のようなものが彼女の自由を奪う。
彼女は確実な違和感を覚えながら、耳を澄ます。風の音と木々の梢が揺れる音などが聞こえた。ただ、その音の中に混じって一つ自然の音ではないものが彼女の耳の中に入って来た。そう、まるで金属がすすり泣くような…何かの刃を砥石で研ぐような…
彼女は今の環境に恐怖を感じ、大声をあげて周囲に助けを求めた。すると、一人分の足音が彼女に迫ってきた。そして、慣れた手つきで彼女の目隠しを外す。
その時、彼女は大声をあげそうになった。目隠しを外した男は頭にペストマスクを装備し、胴は黒いローブをまとい、そして手には死神が持っているような大きな鎌を所持していた。
彼女はその光景におののきながら、辺りを見渡す。そして彼女は絶句した。鎌男の周りには様々な刃物をもった覆面の男が各々刃を研いでなにかを殺める準備をしていた。彼女は地獄に来た心地を素肌で痛いほど感じていた。
どうして…なんで私なの…
私はただ、小説が好きなだけなのに…
どうして物語の人物のような仕打ちをされなくちゃならないの…
彼女は派手に涙を流しながらペストマスクの男に訴えた。男はおもむろにスマートフォンを取り出し、とある画面を無言で突きつけた。それは、彼女をオフ会に誘ったホラー作家のサイトにある作家の経歴欄であった。そこには出身大学や、コンペの受賞歴などが数千字にわたってびっしりと書かれていた。男はそのページの最も下の行を指差して、彼女に示した。
そこには※印で小さくこう書かれていた。
「※私が執筆した著作は、すべてノンフィクションです」
(終)
先日、彼女の激しい小説への愛が伝わったのか、なんと本人から手紙での返事が彼女の家に届いた。手紙には彼女への感謝や作者自身の作品への愛などが、丁寧な字でびっしりと書かれていた。そして、手紙の後半にはこんなことが書かれていた。
「今度、屋外でオフ会をしようかと考えております。BBQなどをしながら作者と読者同士で交流ができたらなと思い、準備をしております。日時と場所は下記に記しておりますので、もし参加される場合は文の末にあるメールアドレスへ参加する意向を示すメールをお送りください。」
とても驚いた。まさか、あの憧れの先生に会えるなんて。しかも、見たところオフ会の会費も書かれていない。タダで先生とお話が出来るなんて、こんな夢のようなお誘いが本当にあるのだろうか。これは行くしかない。そう決意を固めた彼女は、すぐに参加を希望するメールを送り、約束の日まで胸を躍らせながら待つことにした。
遂にその日が来た。エリカは最寄りの駅から電車に乗り、目的の会場へ向かう。電車に揺られること一時間半、やっと彼女は目的地の最寄りへ着いた。駅構内は閑散としており、ほぼ無人駅のような様相を呈していた。送られた手紙によると、オフ会の会場は最寄り駅からかなり遠いところにあるので、駅前の道路に移動用の車を手配しておきます、と書かれていたので、改札を出て、駅前の開けたところへ行くと、丁度目の前の停車場に大きなハイエースが一台停まっていた。
エリカの姿を見るやいなや、運転手らしき人が彼女に挨拶をした。白髪で身長は高くすらっとした、いかにもお嬢様の執事のような男であった。彼女は送ったメールに書いた名前を名乗り、運転手の言われるがままにハイエースの後部座席に着いた。車内にはお茶やお菓子などケータリングサービスが充実しており、彼女は運転者と軽く雑談をしながら飲食をし、快適な移動時間を過ごした。
エリカが飲食をしてから十分ほど過ぎた頃だろうか。ふいに彼女は病的なほどの眠気に襲われた。彼女はこの症状を不安に感じ、運転手に伝えたところ、「長旅で疲れたのでしょう。目的地まではまだ時間がかかりそうですので、今のうちにゆっくりお休みくださいませ」と穏やかな返しをされたため、彼女はその言葉に甘え、シートの上で横になり、深く眠った。
目を覚ました。だが暗い。彼女はいつの間にか目隠しをさせられていたみたいだ。彼女は現状を不思議に感じながら、目隠しを取ろうとする。動けない。手足が動かない。動かそうとすると身体のまわりに張り巡らされている鎖のようなものが彼女の自由を奪う。
彼女は確実な違和感を覚えながら、耳を澄ます。風の音と木々の梢が揺れる音などが聞こえた。ただ、その音の中に混じって一つ自然の音ではないものが彼女の耳の中に入って来た。そう、まるで金属がすすり泣くような…何かの刃を砥石で研ぐような…
彼女は今の環境に恐怖を感じ、大声をあげて周囲に助けを求めた。すると、一人分の足音が彼女に迫ってきた。そして、慣れた手つきで彼女の目隠しを外す。
その時、彼女は大声をあげそうになった。目隠しを外した男は頭にペストマスクを装備し、胴は黒いローブをまとい、そして手には死神が持っているような大きな鎌を所持していた。
彼女はその光景におののきながら、辺りを見渡す。そして彼女は絶句した。鎌男の周りには様々な刃物をもった覆面の男が各々刃を研いでなにかを殺める準備をしていた。彼女は地獄に来た心地を素肌で痛いほど感じていた。
どうして…なんで私なの…
私はただ、小説が好きなだけなのに…
どうして物語の人物のような仕打ちをされなくちゃならないの…
彼女は派手に涙を流しながらペストマスクの男に訴えた。男はおもむろにスマートフォンを取り出し、とある画面を無言で突きつけた。それは、彼女をオフ会に誘ったホラー作家のサイトにある作家の経歴欄であった。そこには出身大学や、コンペの受賞歴などが数千字にわたってびっしりと書かれていた。男はそのページの最も下の行を指差して、彼女に示した。
そこには※印で小さくこう書かれていた。
「※私が執筆した著作は、すべてノンフィクションです」
(終)
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