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序章
ようこそ特殊奉仕活動同好会へ
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※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件・武将などには、いっさい関係ありません。
☆ ★ ☆ ★
私は今、猛烈に後悔していた。
タダより高いものは無し。
うまい話には裏がある。
まさか、こんな事になるなんて……
―― 一年半前
中学二年の秋、私は本格的に受験勉強を始めた。
私には何としても公立高校に受からなければならない理由があったから。現在我が家は母子家庭で、お母さんと私と妹の三人家族。お母さんが頑張って私達を養ってくれてるけど、これ以上の経済的負担はかけられないし、かけたくない。妹だって三年後には中学三年生、受験生になる。
「山田、これ見た?」
参考書から顔を上げて前の席の友人を見ると、彼女は一枚の紙をつまんでひらひらさせていた。
「……私立武田学園? 私、私立には興味無いんだけど」
「いいから。ここ、ここ見てよ」
彼女の指が、ある一点を指さす。
特殊入学枠
下記の条件を満たし、本学園が実施する試験、面接に合格した場合、その者の三年間の学費を含む諸経費を本学園が負担する事とする。
一、寮生活が可能な者
一、入学後、特殊奉仕活動同好会に所属すること
一、姓に『山』が入っていること
「これって、三年間学費タダってこと? 」
「ね! スゴくない? 偏差値は結構高いらしいけど、山田ならいけるんじゃないかな」
「確かに魅力的なんだけど……けどさ、何か変な条件じゃない、コレ」
「やっぱ思った? 特殊奉仕活動同好会ってのが何するのかよくわかんないし、姓に山が付く人ってのも謎だよね」
「怪しいんだけど……怪しすぎるけど! でも、三年学費タダ…………」
三年間学費無料と寮生活という魅力的な餌。結局それに抗うことができず、警鐘を鳴らす理性を押し込めて、私は武田学園を受験することにした。
そして無事試験を突破し、私は四月から武田学園の生徒になった。
※ ※ ※ ※
入学式を終え、放課後。早速、特別奉仕活動同好会とやらに呼び出された。入学条件のため強制的に入れられたんだけど、どんな活動をするところなのか今一つわからない。合格通知に同封されていた地図を頼りに、一人校舎をさまよう。
私立武田学園。高等部は普通科、特別進学科、体育学科の三科に別れていて、私が入ったのは特別進学科。大学は地元の国公立を目指しているので、なるべく勉強のできる科を選んだ。
教室から歩くこと約五分。ようやく目的の部屋に着いたみたい。そこは教室のある南棟とは一階の渡り廊下を挟んで対面にあった。
北棟三階一番奥の部屋。
北棟は化学実験室や被服室など実習系の教室が多いので、今はほとんど人がいない。さらに三階は空き教室ばかりでほとんど使われていないらしくて、普段から人が来ることは少ないって聞いてる。
扉を開けると、中にはロの字型に配置された長机とパイプ椅子。よく見ると扉から一番遠い奥の席だけ、偉い人が座りそうな革貼りの回転椅子になってて。その後ろにはホワイトボード。
なんていうか、ドラマとかに出てきそうな殺風景な会議室みたい。
「ようこそ、武田学園特別奉仕活動同好会へ」
革貼りの椅子が回転し、ゆっくりとこちらを向いた。そこに座っていたのは一人の女子生徒。彼女は立ち上がると艶《あで》やかな微笑みを浮かべ、優雅な足取りでこちらへ歩いてきた。
「あなたが山田《やまだ》玲《れい》さんね。私は部長で二年の武田《たけだ》紫《ゆかり》よ」
一瞬、背景《バック》に百合の花が見えた……ような気がした。すっごい美人だ。枝毛なんてなさそうなツヤツヤな黒髪、透き通るような白い肌。背もすらりと高く、一七〇くらいありそう。なんて羨ましい。私なんて一五〇ギリギリなのに。しかもその身体は女性らしい曲線を描き、幼児体型の私とは似ても似つかない。
未だ成長期がやってこない私はベリーショートにしている茶色のくせっ毛も相まって、よく男の子に間違われる。それが小学生男子なのがなお悲しい。
「順番にメンバーを紹介するわね。じゃあ……まずは麗から」
武田先輩の言葉と同時に、私は大きな影に包まれた。
「初めまして! 二年の火野 麗でっす。麗ちゃんって呼んでねぇ」
振り返ると、そこにいたのは巨大な女生徒(?)だった。
「………………う、麗ちゃん……先輩。えと、よ、よろしくお願いします」
ちょっと言葉に詰まったのは許してほしい。いや、むしろ挨拶を返せた私を誉めてほしい。
ちいさく深呼吸してから、いつの間にか後ろに立っていた巨人を見上げた。
推定身長二メートル。ピンクの髪を縦巻きツインテールにした、女子の制服を着た仁王像。武田先輩に見とれていて、こんな巨大な生き物が背後に潜んでたなんて……あの影が射すまで全く気づかなかった。
「よろしくね、玲ちゃん」
凝視していた私に、麗ちゃん先輩がかわいくウインクしてきた。
筋骨隆々の女子生徒(?)に、バリトンの美声でブリッコ挨拶されるとか。思わず顔がひきつっちゃったけど、私は悪くないと思う。
「嘘をつくな、火野。お前の名前は剛だろうが。性別に加え名前まで偽るな」
麗ちゃん先輩の後ろから出てきたのは、武田先輩に負けず劣らずな和風美少年。
「もぉ、司ちゃんのイジワル! 麗って呼んでって言ってるでしょ! 麗、心は乙女なんですぅ! かわいいもの大好きな男の娘なんですぅ!」
男の子? あ、男の娘か。いや、漢の娘?
なんて私がどうでもいいこと考えて現実逃避してたら、突然美少年がこっちを向いた。癖知らずなさらつやストレートの黒髪がさらりと揺れる。羨ましい。私の天パと交換してほしい。
「風峯 司。お前と同じ特進科一年二組。貧乳は正義!」
…………………………。
何か最後に変な言葉が聞こえた気がするんだけど、きっと聞き間違いだ。そうに決まってる。
「ナイス貧乳!」
「黙れ変態!」
無表情でサムズアップしてきやがった変態美少年。
何それ、誉めてんの? 全く嬉しくないからね。つい初対面の相手につっこんじゃったけど、これ、私は完全に悪くないよね?
風峯と名乗った美少年を変態認定して白い目で見ていたら、麗ちゃん先輩と私の間に今度は小さな影が割り込んできた。
「ねえ。その蔑みの視線、僕にも向けて」
天使がいた。ふっくらした頬を薔薇色に染めて、潤んだ瞳で私を見上げてくる。小柄で華奢な体、ふわふわな金髪に青い瞳。なんか変なこと言ってた気もするけど、きっと聞き間違いだ。こんな天使みたいな美少年が変態みたいなこと言うわけない。
「要、まずは自己紹介なさい」
武田先輩に促され、天使はふわりと微笑むと自己紹介を始めた。
「はい、紫様。えっと、僕は一年三組普通科、林 要っていいます。殴る蹴る罵る蔑むときは、絶対に僕を呼んでね」
…………………………。
無垢そうな笑顔で何かよくわかんないこと言ってる。うん、聞かなかったことにしよう。天使がこんなこと言うはずない。私は何も聞かなかった、うん。
「これで一通り自己紹介は終わったわね。山田さん、これから一緒に頑張りましょうね」
「はい……よろしく、お願いします」
私は今、猛烈に後悔していた。
タダより高いものは無し。
うまい話には裏がある。
まさか、こんな事になるなんて…
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私は今、猛烈に後悔していた。
タダより高いものは無し。
うまい話には裏がある。
まさか、こんな事になるなんて……
―― 一年半前
中学二年の秋、私は本格的に受験勉強を始めた。
私には何としても公立高校に受からなければならない理由があったから。現在我が家は母子家庭で、お母さんと私と妹の三人家族。お母さんが頑張って私達を養ってくれてるけど、これ以上の経済的負担はかけられないし、かけたくない。妹だって三年後には中学三年生、受験生になる。
「山田、これ見た?」
参考書から顔を上げて前の席の友人を見ると、彼女は一枚の紙をつまんでひらひらさせていた。
「……私立武田学園? 私、私立には興味無いんだけど」
「いいから。ここ、ここ見てよ」
彼女の指が、ある一点を指さす。
特殊入学枠
下記の条件を満たし、本学園が実施する試験、面接に合格した場合、その者の三年間の学費を含む諸経費を本学園が負担する事とする。
一、寮生活が可能な者
一、入学後、特殊奉仕活動同好会に所属すること
一、姓に『山』が入っていること
「これって、三年間学費タダってこと? 」
「ね! スゴくない? 偏差値は結構高いらしいけど、山田ならいけるんじゃないかな」
「確かに魅力的なんだけど……けどさ、何か変な条件じゃない、コレ」
「やっぱ思った? 特殊奉仕活動同好会ってのが何するのかよくわかんないし、姓に山が付く人ってのも謎だよね」
「怪しいんだけど……怪しすぎるけど! でも、三年学費タダ…………」
三年間学費無料と寮生活という魅力的な餌。結局それに抗うことができず、警鐘を鳴らす理性を押し込めて、私は武田学園を受験することにした。
そして無事試験を突破し、私は四月から武田学園の生徒になった。
※ ※ ※ ※
入学式を終え、放課後。早速、特別奉仕活動同好会とやらに呼び出された。入学条件のため強制的に入れられたんだけど、どんな活動をするところなのか今一つわからない。合格通知に同封されていた地図を頼りに、一人校舎をさまよう。
私立武田学園。高等部は普通科、特別進学科、体育学科の三科に別れていて、私が入ったのは特別進学科。大学は地元の国公立を目指しているので、なるべく勉強のできる科を選んだ。
教室から歩くこと約五分。ようやく目的の部屋に着いたみたい。そこは教室のある南棟とは一階の渡り廊下を挟んで対面にあった。
北棟三階一番奥の部屋。
北棟は化学実験室や被服室など実習系の教室が多いので、今はほとんど人がいない。さらに三階は空き教室ばかりでほとんど使われていないらしくて、普段から人が来ることは少ないって聞いてる。
扉を開けると、中にはロの字型に配置された長机とパイプ椅子。よく見ると扉から一番遠い奥の席だけ、偉い人が座りそうな革貼りの回転椅子になってて。その後ろにはホワイトボード。
なんていうか、ドラマとかに出てきそうな殺風景な会議室みたい。
「ようこそ、武田学園特別奉仕活動同好会へ」
革貼りの椅子が回転し、ゆっくりとこちらを向いた。そこに座っていたのは一人の女子生徒。彼女は立ち上がると艶《あで》やかな微笑みを浮かべ、優雅な足取りでこちらへ歩いてきた。
「あなたが山田《やまだ》玲《れい》さんね。私は部長で二年の武田《たけだ》紫《ゆかり》よ」
一瞬、背景《バック》に百合の花が見えた……ような気がした。すっごい美人だ。枝毛なんてなさそうなツヤツヤな黒髪、透き通るような白い肌。背もすらりと高く、一七〇くらいありそう。なんて羨ましい。私なんて一五〇ギリギリなのに。しかもその身体は女性らしい曲線を描き、幼児体型の私とは似ても似つかない。
未だ成長期がやってこない私はベリーショートにしている茶色のくせっ毛も相まって、よく男の子に間違われる。それが小学生男子なのがなお悲しい。
「順番にメンバーを紹介するわね。じゃあ……まずは麗から」
武田先輩の言葉と同時に、私は大きな影に包まれた。
「初めまして! 二年の火野 麗でっす。麗ちゃんって呼んでねぇ」
振り返ると、そこにいたのは巨大な女生徒(?)だった。
「………………う、麗ちゃん……先輩。えと、よ、よろしくお願いします」
ちょっと言葉に詰まったのは許してほしい。いや、むしろ挨拶を返せた私を誉めてほしい。
ちいさく深呼吸してから、いつの間にか後ろに立っていた巨人を見上げた。
推定身長二メートル。ピンクの髪を縦巻きツインテールにした、女子の制服を着た仁王像。武田先輩に見とれていて、こんな巨大な生き物が背後に潜んでたなんて……あの影が射すまで全く気づかなかった。
「よろしくね、玲ちゃん」
凝視していた私に、麗ちゃん先輩がかわいくウインクしてきた。
筋骨隆々の女子生徒(?)に、バリトンの美声でブリッコ挨拶されるとか。思わず顔がひきつっちゃったけど、私は悪くないと思う。
「嘘をつくな、火野。お前の名前は剛だろうが。性別に加え名前まで偽るな」
麗ちゃん先輩の後ろから出てきたのは、武田先輩に負けず劣らずな和風美少年。
「もぉ、司ちゃんのイジワル! 麗って呼んでって言ってるでしょ! 麗、心は乙女なんですぅ! かわいいもの大好きな男の娘なんですぅ!」
男の子? あ、男の娘か。いや、漢の娘?
なんて私がどうでもいいこと考えて現実逃避してたら、突然美少年がこっちを向いた。癖知らずなさらつやストレートの黒髪がさらりと揺れる。羨ましい。私の天パと交換してほしい。
「風峯 司。お前と同じ特進科一年二組。貧乳は正義!」
…………………………。
何か最後に変な言葉が聞こえた気がするんだけど、きっと聞き間違いだ。そうに決まってる。
「ナイス貧乳!」
「黙れ変態!」
無表情でサムズアップしてきやがった変態美少年。
何それ、誉めてんの? 全く嬉しくないからね。つい初対面の相手につっこんじゃったけど、これ、私は完全に悪くないよね?
風峯と名乗った美少年を変態認定して白い目で見ていたら、麗ちゃん先輩と私の間に今度は小さな影が割り込んできた。
「ねえ。その蔑みの視線、僕にも向けて」
天使がいた。ふっくらした頬を薔薇色に染めて、潤んだ瞳で私を見上げてくる。小柄で華奢な体、ふわふわな金髪に青い瞳。なんか変なこと言ってた気もするけど、きっと聞き間違いだ。こんな天使みたいな美少年が変態みたいなこと言うわけない。
「要、まずは自己紹介なさい」
武田先輩に促され、天使はふわりと微笑むと自己紹介を始めた。
「はい、紫様。えっと、僕は一年三組普通科、林 要っていいます。殴る蹴る罵る蔑むときは、絶対に僕を呼んでね」
…………………………。
無垢そうな笑顔で何かよくわかんないこと言ってる。うん、聞かなかったことにしよう。天使がこんなこと言うはずない。私は何も聞かなかった、うん。
「これで一通り自己紹介は終わったわね。山田さん、これから一緒に頑張りましょうね」
「はい……よろしく、お願いします」
私は今、猛烈に後悔していた。
タダより高いものは無し。
うまい話には裏がある。
まさか、こんな事になるなんて…
応援ありがとうございます!
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