学園戦隊! 風林火山

貴様二太郎

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山の章

変態さんこちら、ラブコメの方へ

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 愛のない誘拐被害に遭いました。つきましては不吉なことを言ってくれやがりました麗ちゃん先輩、責任取って助けに来てくださいこんちくしょう。

 なんて。がたごとと伝わってくる車の振動以外の変化がない今、考えることしかできない私はどうでもいいことを考えてた。逃げ出す方法とか考えろって自分につっこんではみたものの、何も浮かばなかったので。とりあえず今のこの状況じゃ何もできない。
 希望はあの場に残された可能性のある風峯だ。誘拐されてないなら、きっと誰かに助けを求めてくれてるはず。…………殺された、なんてことはないよね?
 やめよう。そんなことあるはずない。いくら何でもそんなことしたら、金古くんたちだってただじゃ済まない。この誘拐も立派な重犯罪だけど、さすがに殺人までは……
 頭の中は嫌な考えがぐるぐるするばかり。だめだ、こんなんじゃ精神が疲労するだけだ。

 やめよう。考えてもわかるわけない。だって、私は金古くんのこと何も知らない。

 どうして私にちょっかいを出してきたのか。なんで私を好きだなんて演技してたのか。何もわからない。金古くんの目的なんて、何も知らない今のままじゃわかるわけないんだから。
 あ、振動が止まった。どうやらここからは徒歩での移動らしい。

「お待たせ。窮屈な思いさせてゴメンね~」

 大きなトランクから出されて目隠しとさるぐつわが外された。ようやく息苦しさから解放されて、こんな状況なのにちょっとほっとしてしまった。
 ここは洋館の一室? 上品なアンティークっぽい家具や天蓋付きのベッドとか、普段の私の生活には縁がなさ過ぎるものが色々置いてあった。

「ここ、どこ?」
「うちの持ってる別荘のうちのひとつ。なかなかいいカンジでしょ?」

 まるで友達にでも自慢するかのような軽い口調。そこには悪意とかそういうのが感じられなくて、だからこそ意味がわからなくて怖い。

「帰りたいんですけど」
「しばらくは無理かな~」
「しばらくってどのくらい?」
「さあ? 風峯くん次第かな」

 よかった。風峯のやつ、少なくとも殺されてはいないらしい。

「金古くんさ、何が目的なの? なんでこんなことしたの?」

 わからないから、もういっそストレートに本人に聞いてみることにした。だって、せっかく喋れるんだし。なら、本人がいるうちに聞けることは聞いておきたい。

「山田さんはさ、追いかけっこって好き? 鬼ごっことか」

 唐突な質問の意図がわからなくて、思わず答えにつまってしまった。けど金古くんは最初から私の答えなんてどうでもよかったらしくて、ひとりで勝手に話を続ける。

「俺さ、昔から鬼ごっこがすっごい好きだったんだ。何かから逃げるのってさ、めちゃくちゃキモチイイじゃん?」

 気持ちいい? 楽しいと思ったことはあっても、鬼ごっこを気持ちいいと思ったことはないけど。

「もう気持ちよすぎてさ、毎回毎回つい出しちゃうんだよ」

 あ、なんか不穏なワードが聞こえた気がする。てか股間を押さえるな。ヤバい。この人、やっぱりヤバい人だった。

「でもさ、中学にもなると鬼ごっこなんてとか言ってバカにしてさ。何をかっこつけてんだか。みんなだってほんとは気持ちよくなってたくせに」

 いや、それはたぶん金古くんだけでは? そのみんなも、鬼ごっこが嫌というより金古くんがキモ……怖かったとかなんじゃ?

「だからさ、なら強制的に鬼ごっこやらせてやろうと思ってね。山田さんもさ、気持ちよかったでしょ? 俺に追いかけまわされて」
「いえ、まったく」
「山田さんも風峯くんも気持ちよくしてあげたんだからさぁ、今度は俺の番だよね」

 ダメだ。金古くん、人の話を聞かないとは思ってたけど、本当に聞いてくれない。会話しているようで、まったく会話できてない。

「若。鬼は無事追跡を始めたようです」
「おっけー。よーし、逃げて逃げて逃げまくるぞ~! 風峯くん、早く来ないかな~」

 金古くんがうっきうきでアップを始めた。

月野つきのくんが鬼のときは毎回ほぼ瞬殺で、出す暇もなく捕まっちゃってたんだよね。でも風峯くんとなら、きっといい追いかけっこができると思うんだ~」

 つきのくん? あ、たまきちのことか! そういや本名すっかり忘れてたわ。
 って、そんなのはどうでもいいや。それよりもしかして、今回のこの誘拐劇って……ただ単に風峯と鬼ごっこがしたかった、てこと?

「巻き込まれ損じゃん! 私、関係ないじゃん!!」

 金古くんと警備員の服を着た人がきょとんとした顔で同時に私を見た。
 「急に叫ぶとかコイツ大丈夫か?」って顔やめてもらえます? おまえらには言われたくないわ。

「そんなに風峯と鬼ごっこがしたかったんなら、本人に直接言えばよかったじゃん!」

 言った。言ってやった。そうだよ、なんで私を巻き込むかな。こんな物騒なことしなくたって、もっとやりようあったでしょ。

「無理だよ。だって風峯くん、山田さんが絡まないと全然相手にしてくんないんだもん」

 風峯ぇぇぇぇぇ!

「若、コレどうします?」
「ん~、風峯くんが来てくれるなら、もういいかなぁ。柴胡さいこに任せる。いつもみたいにテキトーやっといて」
「かしこまりました」

 なんか勝手に話がまとめられてる!

「待って待って! もう用済んだんでしょ? なら今すぐ解放してよ」
「いいけど、あともう少しだけ待って。さすがに風峯くんがここに来る前に解放しちゃったら意味ないでしょ?」

 まあ、それはそうなんだけど。って、なんで誘拐犯の言うことに納得してるんだ、私。

「じゃ、柴胡。あとはよろしくね~」
「いってらっしゃいませ」
「あ――」

 金古くんはあっさりと部屋を出ていってしまった。残されたのは、風峯を締め落としたサイコって人と私だけ。
 えぇ……これ、どうすればいいの?

「きみ、キスしたことある?」
「…………は?」

 ニコニコと人当たりよさそうな顔で、いきなりワケのわからないことを聞いてきたサイコさん。
 なんで? なんでいきなりそんな質問になったの? 意味わかんない、怖っ。

「ねえ、したことある?」
「答える義務ないですよね?」

 怖い。この人、金古くんよりずっと怖い。

「その反応……ないでしょ?」
「おじさん、それセクハラですよ。気持ち悪いのでやめてください」
「おじさんはひどいなぁ。まあ、高校生から見たら27はおじさんか~。しかしきみ、反応がいちいちかわいいね」

 鳥肌立った。気持ちわるっ! この人、ほんっと気持ちわるっ!!

「若が鬼ごっこ堪能するまでまだもう少し時間かかるからさ、悪いけどしばらくおじさんの相手してよ」
「え、いやです」
「まあまあ、そんなこと言わずに」

 金古くんも話聞いてくれなかったけど、このサイコさんって人も話ぜんっぜん聞いてくれないな。しかもなんかキモい。金古くんより、この人の方がよっぽど気持ち悪い感じがする。
 だから本当なら今すぐ逃げ出したいんだけど、私の足の遅さじゃたぶん逃げきれない。逃げきれないどころか、この部屋からさえ脱出できないと思う。

「せっかくだから、若にならっておじさんも昔話しようかな。立ったままなのも疲れるでしょ? 座りなよ」

 相変わらずのニコニコ笑顔だけど、その雰囲気は逆らえないって感じで。仕方なくすすめられた一人掛けのソファに腰を下ろした。でもサイコさんは立ったままで、私の座ったソファの後ろに立っている。おかげで背中がゾワゾワする。

「おじさんね、世間一般で言われる悪いコトっていうのが、イマイチわかんないんだよねぇ」

 うっわぁ、いきなりヘビーなのきた。ただの厨二病みたいなのだったらいいけど、いい大人がまさか……ねぇ。いや、この場合はむしろただの痛い大人であってほしい。だって、真正だったらヤバすぎる。

「みんながダメだって言うこと、やっちゃいけませんて言うこと……いわゆる犯罪ってやつだね。でも俺はさ、そういう行為をしてるときが、いっちばん気持ちよくなれるんだぁ」

 終わった。一番ダメなやつきた。今までの変態たちがかわいく思えるやつきた。

「若じゃないけどさ、もう出まくりでね」

 しかも変態だよ。まごうことなきヤバい系の変態だよ。

「でもさ、世間は俺が気持ちよくなることを許してくれない。ほんと世知辛い世の中だよ」

 どうしようどうしようどうしよう。逃げたい、できることなら今すぐ逃げ出したい。でも、背後に立ってるこの人から逃げだせる気がまったくしない。
 心臓がバクバクいってる。冷や汗が出る。サイコさんの香水の匂いが強くなるたび反射で肩がビクってなる。

「だからさ、俺も我慢してイイコでいたんだよ。でもさぁ、やっぱり我慢っていったって限界があるでしょ? だからつい、ね。中学のときにさ、急にヤりたくなってそこにいた女を襲ったことがあったんだけどさ。そしたらソイツ、たかがキスした程度で泣きながら俺のコト犯罪者だって。あは、それ聞いたらなんかすっげぇ気持ちよくなっちゃってさぁ! まだなんもしてないのに出まくりで、あとで洗濯が大変だったんだよねぇ」

 わかった。なんでこの人が今までの誰より気持ち悪かったのか。怖かったのか。

 ――対象が、だから。
 
 今までの変態たちはみんな、気持ち悪かったけど私の方を向いてなかった。いうなれば他人事。だからツッコんだり軽口をたたくことができてた。でも、今は……
 ううん、違う。それも確かにそうだけど、今まで変態相手に余裕持ってられた一番の理由は……たぶん、みんながいてくれたから。

「あれで俺、完全に目覚めちゃったんだよねぇ」

 ぞわり、と。背中を悪寒が走り抜けた。
 無理無理無理、もう無理! 逃げられなくてもなんでも、もうじっとしてるのなんて不可能だった。

 

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