悪性の腫瘍 -もしこれが遺書になるのなら-

レゲーパンチ

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8.治療開始

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 現実の癌治療とは、こんなものなのか?
 ・・・まあいい。とりあえずヤるか。


 スマホのアラームを、6時と14時と22時、それと10時にセットして。これがここ最近の私の、生活の指標になっている。
 まずは朝の6時に目覚め、軽く口をゆすいでから抗癌剤を飲む。昔見たテレビ番組で、寝起きの口の中は汚物並みに雑菌があると聞いたので、朝起きてからのうがいはずっと前から習慣付いているんだ。
 そして薬が飲み終われば、二度寝。どうせ薬を飲む前後の1時間は食事が取れないので、寝て過ごした方がマシだ。そして8時あたりに目を覚まして朝飯を食べる。そこからは・・・だいたいテレビを見ることが多いかな?
 10時ごろにアラームを設定しているのは、病院に行くため。週に5回の放射線治療。時間は事前に決めているので、その時間通りに行かないといけない。放射線を受けるのは私1人だけではないのだから。
 また、放射線を受けるのは基本的には月から金だが、祝日がある週――特にゴールデンウィークの時は変則的だったなぁ。世の中には祝日なんて関係の無い人が大勢いらっしゃるのだ。私の通院先は、大勢の入院患者を抱える病院でもあるのだから。ついでに祝日であっても救急車が・・・という話は置いといて。
 放射線治療自体は、そこまで時間はかからない。台に寝っころがって、下半身を晒して、下半身に固定器具を付けられて、機械がグルグル回って・・・。数分ほど機械がグルグルしたら、それで終わり。服を着直して、また明日。
 なお、下半身を晒す際には女性のスタッフさんもいるのだが。1日に当たり何人もの人の恥ずかしいところを見てしまうけど、臓物や血にまみれたものに比べたら可愛いもんだ、と言っていた。アンタ達も大変だなぁ・・・。

 昼は普通に、家に帰る。昼飯は適当に。
 ただし13時までには昼飯を済ませておかないといけない。14時になったらまた抗癌剤を飲まないといけないのだから。
 そして薬を飲み終えたら、また横になる。薬の影響なのか私の生活習慣がアレなのかは知らないが、14時を過ぎると一気に疲れが襲ってくるんだ。眠たくは無いけど、体が重い。スマホを操作する手も覚束ない。かろうじてトイレには行ける。トイレから戻った時には、さらに疲れが増すけれど。
 この現象は、だいたい3時間ぐらいは続く。1つだけ利点があるとしたら、昼の間食を食べることが無くなったぐらいか。そのかわり夕食を食べる前と後にアイスを食べる習慣が付いた。差し引きでプラス1になっているけど気にしたら負け。だって最近暑いんだもん・・・。
 一度は地の底まで落ちかけた食欲だが、そんな私の食欲を回復させてくれたのがアイスだった。1袋に5~6本入っているタイプなので1本あたりはそこまで大きくは無いよ?カロリー及び糖質的には大丈夫のはずだよ?あと具体的な商品名やメーカー名を言及するのはやめておきますハイ。
 そしてまたブラブラと時間を潰して、21時以降は水と麦茶以外は摂取しないようにする。そして22時に抗癌剤を飲んで、また明日。
 ・・・以下、繰り返し。しいて言えば通院の無い日も抗癌剤は飲んでいる。こっちは毎日飲まないといけないので。決まった時間に、決まった量を。

 そんなこんなで、治療が始まって1週間以上が経つが。
 特に変わりのない日常が、延々と続いている。
 いつも通りに起きて、薬を飲んで、通院がある日は病院に行って、サクっと放射線を浴びて、家に帰って、また薬を飲んで、昼はゴロゴロして、夜にまた薬を飲んで。それをあと3週間以上は続ける。
 ・・・書くことが無さすぎる。
 だってこれ一応ながらノンフィクションなので、特殊イベントだなんて都合よく起きないんだよ。急に事態が劇的に変わるだとか、私以外の登場人物が難病になるとか、登場人物が記憶喪失になるとか、登場人物が記憶喪失になるとか、登場人物が記憶喪失になるとか・・・今季のテレビドラマって記憶喪失ネタ多すぎない?
 私自身も、架空の物語を脳内妄想してはアレコレ書いてはいるけれど、何でもかんでも病気にすれば面白いとでも思ってんの?これならまだ実話を基にした話のほうが見応えがある。某バラエティのアレとか、癌を公表した芸能人とか。
 そういう意味では書くネタはあるにはあるが、一緒に放射線治療を受けている人達のプライバシーに関わることばかりだからなぁ・・・。
 例えば。放射線治療の部位によっては、事前にトイレを我慢しないといけない、正しく言えば膀胱に尿を溜め込んでおかないといけないものがあるのだが。とある爺様はついついトイレに行ってしまうので、付き添いの奥様が「アンタまたトイレに行ったの!?」と定期的にブチ切れる件とか。
 あるいは、いつも同じ時間に受けるので、その前後に放射線を受ける人達とはおのずと顔見知りになるのだが。ある日、見知らぬ婆様がいらっしゃたので話を聞いてみれば、どうにも話がかみ合わなくて・・・後で聞いた話だけど、認知症の入院患者が病棟から脱走していたというオチ。
 あとは病院が病院だけに、いきなり急患がやってきて、病院の入り口で除細動器をバーンしたりとか、緊急オペがなんだと騒ぎになったりとか。人様の病状をネタにするのもどうかと思うので、これ以上書くのは控えておきますハイ。

 今のところ、副作用らしきものは見受けられない。
 ただただ、体がだるい。何もする気が起きない。
 いつもと同じ日常を繰り返して、繰り返して。
 気晴らし代わりにテレビを見て、だけど気が紛れないから、とりあえずパソコンを付けて、適当に時間を潰して。だけどこれも体がだるいから、パソコン遊びに集中できない。アニメの内容も入ってこない。ただただ、だるい。
 これは病気のせいなのか、私がただ単にヤる気が無いだけなのか。やりたいこと自体は色々ある。主にゲームとかゲームとかゲームとかゲームとか。
 医療費や生活費のこともあるから、贅沢は敵ではあるのだが。ゲーム1本ならそこまで高くも無いし、物によっては数十時間は時間が潰せるから、安上がりの趣味としては最適解だと思っている。課金ゲーは論外だけど。
 親戚からは、この機会だから本でも読めとのことで図書カードを渡されたが・・・少なく見積もっても、1日あたり原稿用紙70枚か80枚分は読んでると思う。ついでに1日あたり原稿用紙10枚分くらいは変な文章も書いている。
 こちとらインターネット黎明期時代からネット社会に出入りしているから、電子の文章ならやたら読んでいるんだよ。その筋の専門家に言わせたら、プロではないアマチュアの文章を読んだところで何だ、という意見もあるようだが。
 古くはレンタル掲示板から始まり、レンタルチャットにレンタルサイト・・・って今時でも通じるの?とにかく昔から、その手のことで文章を書いたり読んだり、顔も本名も知らない人とやり取りをしたりはしてきた、つもり。

 1話でも書いた話だけど。
 20年くらい前までは、この手のことは異端扱いされていたのに。ネットを介して、見知らぬ人とやり取りをするなんておかしい、って。
 色んな人から、散々に言われてきた。インターネットばかりやって何になる、そんなことより勉強しろ、あるいはスポーツをしろ、って。
 ちょうど2000年を過ぎたあたりかな。パソコンやアニメに夢中になる人をオタクと呼んで、アレコレと揶揄するようになったのは。
 今でも何かしらの創作物で、コテコテのオタクキャラが出てくるものはあるけれど。その当時のオタクキャラは、今以上に気持ち悪さを全面的に強調した極端なものばかりで、それを参考にまたアレなキャラを生み出して、それを参考にまた・・・と、インターネット趣味そのものが異端扱いされていた時代があったんだ。
 時代の流れが変わったのは、おそらくはスマホが普及し始めたころ。正確に言えば、携帯できる小型端末で、気軽にインターネットができるようになったころから。パソコンと違って、片手で持ち運べるものでインターネットができるようになったから、マイナーだったものがメジャーになった、と言ったところ。
 今でも信じられない。子供が憧れる職業のトップに、ネット配信者がある、だなんて。私の記憶が正しければ、日本に動画サイトが出始めた2007年あたり。そこから10年か15年ちょっとでここまで時代は変わってしまうのか。ここまでネット動画や生配信が当たり前になるとは夢にも思ってなかったよ。
 もしこれから10年経ったら、ネット社会はどうなっているんだろう?またさらに新しいものが現れるのかな?その時、私、は――。


 日に日に、だるさが酷くなってくる。
 抗癌剤を飲むたびに。放射線を浴びるたびに。
 元々副作用が出るとは聞いていた。何かしらの体調不良はどうしても起こる、って。だってそれが、一般的な癌治療なのだから。私は癌なのだから。
 だけど、これは・・・想像以上、かな?
 病院からは、もし通院が辛くなった時には入院も考えている、とは提案されている。今はその必要は無い。ギリギリ大丈夫だ。
 ・・・あくまでも、ギリギリ。比喩表現抜きで、死にそうなほどの痛みがやってくる時がある。不定期に、時々、1日につき数分ほど。
 これについては、病院のスタッフには伝えていない。元より私は突然死がお望みなのでな。下手に治療費が掛かる前に、サクっと死ねたら御の字だ。
 ・・・今はこれ以上、書くネタは無い。続きは、未定。
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