I SAVE ME (アイ セイブ ミー)

夏風涼

文字の大きさ
4 / 33
CASE 山岡卓

第四話 再会

しおりを挟む
 僕は、いや僕らは学校に向かって歩いていた。
 今の太陽の位置からして、おそらく、夕方。
 今日の最後の授業の時間か、ホームルーム中ぐらいだろう。
 放課後に学校に行っても、そのスピリチャルモンスター、つまりは山岡卓に会えるのか?
 アイツは忙しい奴のようだ。毎日不良生活で大変なんだろう。
 僕は……。
 
 アイツとの関わった日々が僕の身体を侵している感覚に襲われる。
 僕のお腹はアイツに何度も何度も殴られた。
 アイツの拳が僕のお腹にめり込み、時には消化器官はとても耐えきれず、母さんが作ってくれた弁当の中身を全部、屋上の床にぶちまけた。
 嘲笑う、耐えに耐えられない、嘲笑の声。
 アイツの下品な声は僕の鼓膜にこびりついて離れない、決して離れることはない。
 
 目は怖れを覚えている。
 顔の筋肉は、僕が泣いていた形を保存している。
 僕は抗えなかった。悔しかった。でも悔しい以上に、辛かった。僕はただ辛くて、情けなくて、でも本当は負けたくなくて、でも負ける選択をしてしまって……。

『おいッッ!!』

 僕の意識が深い思考の渦から吸い上げられる。

「なっ! 何!」
『考えすぎないで、さっきまでの威勢はどうしたの? 殺してやるんじゃなかったの?』
「……誰がっ?! ああ、殺してやるよ! 殺してやるんだとも……」
『馬鹿ね、ついたよ』
 
 僕の足は考えを巡らせている中でも、自然と通学路を記憶していたようだ。
 震える。足が、腕が、手が、顔が、体がガタガタと震え上がる。
 武者震い?! そうだ、これは武者震いだ。
 殺してやるんだ! 殺してやるんだ!

『『『『ちゃんとしなさいッッッッッッ!!』』』』
 
 大音量だった。
 実際の音声ではないので、鼓膜が破れることはないが、鼓膜が破られる気持ちにさせられる。
 しかし、それのお陰で少しは平静を取り戻せた。
 恐いが、僕の身体は震えてはいない。心臓もまあ、大丈夫だ。きっと……。

『行くよ、今、放課後のチャイムが鳴る』
 
 すると、数秒後に本当に鳴った。
 
 一体どうなっているんだ?! これは?!
 
 まあ、些細なことは別にもう気にしないが。

『ひょっとしたら、今日はターゲットはすぐに帰るかもしれない。だから、早く学校に入って!』
「うん」
 
 僕はゆっくりと、校門をくぐった。

 妙に静かだと感じていた。
 山坂高校は、三階建てで、中央に背の高い時計台が飛び出ている。
 真っ白な校舎で、教室が多いためか、外から見ると、ガラス窓が異様に多い。
 だが、中が丸見えという訳ではない、今日はだいたいの教室の黄土色のカーテンはきっちりと閉められているため、あまり何も見えない。
 見えるのはせいぜい、理科室とか家庭科室だけだろうか。
 
 山坂高校は市内では真ん中ぐらいの偏差値の学校で、僕は進学校の高校を志望していたので滑り止めで受けたに過ぎなかった。
 でも、本当に来るんじゃなかった……。
 僕は勉強が出来る方だった。
 勉強は好きではなく、成績をお母さんに見せた時の嬉しそうな顔が大好きだった。
 だから、山坂高校に決まったとき、家族、親族までもが僕を白い目で見た。
 父親は酷く不満らしく、家を閉め出されてしまったことまであった。一族の恥。そういう烙印を押されてしまっていたのだ。
 
 そして、いじめ……。
 理由は全く分からなかったが、校内一の不良、山岡卓に毎日いじめられて、金を取られていた。
 本当にこんな高校に行かなければ良かった。
 入学して、一ヶ月半。
 僕の人生はこんな高校のために大きく狂わされていたのだ。

「ところで……」
『何?』
「僕たち放課後のチャイムが鳴った瞬間に、校門をくぐって、校舎に向かうって目立たない?」
『目立つわよ、それがどうしたの?』
「……」
『まあまあ、キミが、転校生だって、さっき上に連絡して根回ししてあげたから……』
「は……い?」
『キミ、しばらく野原光太郎ね』
「の、のはら……こう・たろうぉぉぉおお!!」
『はい、静かに。グランドで自分の名前をアピールしてる馬鹿な一年坊主に見られるわよ』
「……ほっとけ……」
『あん? なんだって?』
 
 僕は相手にせずに、そのまま昇降口に行った。
 靴とスリッパはどうしたものか?
 まあいいか、来賓用のを使おう。そして、山岡卓のいる一年B組に向かうのか……。

『どうしたの?』
「……こ、このまま、い、一年B組に向かうの?」
『まあ、職員室には一度行った方がいいかもだけど、そんな間に山岡卓に帰られるのは避けたいね』
「そ、そうだ、まずは転校生は職員室に向かわないとね」
『おーい。話聞いてる?』
 
 僕は強ばる身体のまま、ぎこちない早歩きで、職員室に向かう。

  職員室に入り、担任の岡本先生のデスクを探すと、すぐ見つかった。

「キミか?! 転校生の野原光太郎君っていうのは?」
  
 岡本先生は、ごま塩頭だから、年齢的には四十代真ん中ぐらいだと思う。しかし、体つきはしっかりしていて、筋骨隆々である。
 ほんと、国語教師と言うより、体育の先生が似合う体格と風貌の男性教師だ。
 でも、何もしてくれなかった……。

「うちのクラスにね、松尾流っていう、不登校の生徒が辞めそうなんだよ。だから、キミの席はあるからね」
 
 ……松尾流(まつお ながれ)僕の名前だ。
 けれども、全く知らない人にそんな僕の情報を簡単に言う、この先生は本当に信用におけない。
 それと、僕を目の前にして、本当に僕と気づいていないようだ。
 今まで、納得はしていたけど、どこか半信半疑だったかもしれない。
 だけど、今完全に、ある意味安心した。
 大丈夫、教室に行こう!
 僕が立ち去ろうとすると、岡本先生が、眉根を寄せて言った。

「でも、放課後来るなら、明日の朝来たら良かったんじゃないか? まあ、それだけキミが律儀で真面目なのは分かるがね」
 
 僕は頭を下げて、職員室を出た。

『いけそう?』
 ――うん。岡本先生は全く気づいてなかった、いけると思う。
 
 さすがにここでは、口には出せない。僕も頭の中で会話する。

『なら、善は急げよ。はやく行きなさい』
 
 一年B組の教室の扉の前に立つ。
 心臓がバクバクする。大丈夫だって分かってるはずなのに。どうして……。

『……深呼吸でもしたら?』
 ――し、深呼吸?
『うん。とにかくやってみ。騙されたと思って……』
 
 僕は口から空気をこれでもかっというほど吸い込んだ。

『さあ、吐いて』
 
 ふぅーと全力で吐く。

「……」
『ね、やってみるもんでしょ? さあ、行きなさい。怖がることなんて、何もないよ』
 
 僕はガラッと引き戸を開ける。
 心臓は依然、ドクンドクンと鳴っているが、もう構わない。
 そして、ざっと、視線を動かし、確認する。
 
 ――いない……。
 
 その完全なる独り言は安堵からなのか、どうか分からないが、今の僕は胸を撫で下ろしている。

『じゃあ、行きなさいよ』
 ――…どこに?
『屋上、山岡卓のたまり場でしょ?』
 
 この子は本当によく知っている。あまり詳しすぎるのもどうかと思うが。
 
 ――でも、僕もういないんだよ。人目をはばかる理由がないよ
『でももへちまもない!! いる可能性があるなら行くの!! 分かった!?』
「……」
 
 しばらく固まった後、僕は頭の中の声にこの言葉を言う決心をした。
 
 ――分かった、行くよ

 屋上のドアの金属製の丸いノブに手をかける。
 僕は野原光太郎、今の僕は野原光太郎、野原光太郎。
 何度も何度も、自分に言い聞かせるように、心の中で唱えた。

『……あまり待たせないでくれる?』
 
 頭の声の無慈悲な言い分。
 しかし、そうこうしている間に、声が後ろからかかる。

「おい、邪魔なんだけどよ」
 ――!!!!
 
 僕はハッとして、後ろを振り返る。
 聞いたことがある声だけではない、思い出したくない声だ。
 このやや高めの男の声。
 奴がいた。
 山岡卓が僕の目の前に立っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...