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センタク
センタク④
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「理森……これが神の宣託だ。神はお前を選んだ。朔夜ではなく……」
祖父さんが喜んでいる。普段は感情を表に出すことなどほとんどない祖父さんが、目を細めて笑っている。
楠ノ瀬の婆さんと梢江先生も戻ってきて、俺の碧い目を見つめている。
先生の背中に負ぶわれている藍原はまだ目が虚ろで焦点が定まっていない。
「よいしょ、っと。濡れてるけど、まぁ我慢しろよ」
先生が後ろの藍原を見やりながら、先ほどの急雨の名残で湿ったままの石段に奴を腰かけさせた。
「おい、藍原!」
俺は藍原の目線に合わせてしゃがみ込むと、奴の頬をぺちぺちと軽く叩いた。
「ん……っ、うぅ…………」
光のない藍原の瞳が徐々に生気を取り戻す。
俺は奴の目を真っ直ぐにみつめた。
「お前、自分が何をしたか……覚えてるか?」
「…………あぁ」
藍原は目を伏せて小さく答えた。
俺の視線を避けるように下を向いた奴の両頬を挟んで無理矢理に上を向かせる。
目を逸らすことは許さない。
「お前、あれに耐えられるか?」
「…………」
「耐えられるんだったら……お前に譲ってもいいよ。この『お役目』も、高遠の後継者も」
「なっ……! 何を言ってるんだ、理森!?」
血相を変えた祖父さんが俺に詰め寄る。
「言っただろう……神はお前を選んだんだ。高遠の後継者はお前なんだぞ!」
「うん……だけど、そうすると……俺は楠ノ瀬と離れないといけないんだろ?」
「それは……そうだが」
俺の言葉が予想外だったのか、祖父さんが狼狽えて言葉に詰まった。
「ずっと考えてたんだ。俺一人では何もできない。制御できないんだよ……楠ノ瀬がいないと……」
「……いや、しかし」
「俺は、楠ノ瀬を失いたくないんだ。このまま楠ノ瀬を諦めて、いずれ別の女と結婚して、ってなったら……父さんの二の舞になると思う」
「理森……」
「祖父さん、ごめん。祖父さんが俺に期待してくれたこと、嬉しかった」
俺は祖父さんに礼を言うと、立ち上がって楠ノ瀬の婆さんの前へと進み出た。
「あの、今すぐとかじゃないんですけど……俺を、楠ノ瀬家のお婿さんにしてください!」
そう言うと俺は楠ノ瀬の婆さんに向かって、ガバっと大きく頭を下げた。
「えっ!?」
楠ノ瀬が驚いたように声を上げる。
祖父さんも「何を言い出すんだ!?」というように、口をぽかんと開けていた。祖父さんのこんな表情を見るのは初めてで、なんだか愉快だった。
「高遠くん……」
戸惑ったように俺の名を呼ぶ楠ノ瀬に、
「いや、一人で先走ってるのはわかってるんだけど。でも、今の俺が思う最良の選択は……これなんだ。……嫌かな?」
自分勝手な発言だってことはわかってる。
だけど、いま俺は自分の意志を楠ノ瀬にも、他のみんなにも知っておいてほしかった。
「ううん……ありがとう。ちょっと驚いてるけど」
楠ノ瀬が困ったように眉毛を下げながら、それでも笑顔で答えてくれた。
「ハッハッハッ……!」
楠ノ瀬とは別に、大きな笑い声が響いた。その心地よい低音は梢江先生のものだ。
「……いや、まさか君がそういう選択をするとは思わなかった」
込み上げる笑いを堪えるように口元に手を当てながら、先生が俺を見た。
「いいと思うよ。自分で考えて、自分で納得して出した答えなら……それが一番だ」
「梢江先生……ありがとうございます」
てっきり反対されると思っていた自分の意見を応援してくれる人がいるというのは力強い。
「……其方は梢江の家の者か?」
楠ノ瀬の婆さんが先生に向かって声を掛けた。
「そうです」
「梢江家は許可するということか? 今の理森殿の提案を」
「はい。うちの役目は高遠と楠ノ瀬……双方の当主が結びつくことを防ぐことです。高遠の当主の座を放棄した者が誰と一緒になろうと、口を出す気はありません」
「成程……」
婆さんは何かを考え込むように目を閉じた。婆さんが黙っている間、何とも言えない緊張感がこの場を覆っていた。
「……十年後、」
やがて婆さんが口を開く。威厳のある低い声が響いた。
「十年経っても、お前たちの気持ちが変わっていないのであれば……考えてみよう」
祖父さんが喜んでいる。普段は感情を表に出すことなどほとんどない祖父さんが、目を細めて笑っている。
楠ノ瀬の婆さんと梢江先生も戻ってきて、俺の碧い目を見つめている。
先生の背中に負ぶわれている藍原はまだ目が虚ろで焦点が定まっていない。
「よいしょ、っと。濡れてるけど、まぁ我慢しろよ」
先生が後ろの藍原を見やりながら、先ほどの急雨の名残で湿ったままの石段に奴を腰かけさせた。
「おい、藍原!」
俺は藍原の目線に合わせてしゃがみ込むと、奴の頬をぺちぺちと軽く叩いた。
「ん……っ、うぅ…………」
光のない藍原の瞳が徐々に生気を取り戻す。
俺は奴の目を真っ直ぐにみつめた。
「お前、自分が何をしたか……覚えてるか?」
「…………あぁ」
藍原は目を伏せて小さく答えた。
俺の視線を避けるように下を向いた奴の両頬を挟んで無理矢理に上を向かせる。
目を逸らすことは許さない。
「お前、あれに耐えられるか?」
「…………」
「耐えられるんだったら……お前に譲ってもいいよ。この『お役目』も、高遠の後継者も」
「なっ……! 何を言ってるんだ、理森!?」
血相を変えた祖父さんが俺に詰め寄る。
「言っただろう……神はお前を選んだんだ。高遠の後継者はお前なんだぞ!」
「うん……だけど、そうすると……俺は楠ノ瀬と離れないといけないんだろ?」
「それは……そうだが」
俺の言葉が予想外だったのか、祖父さんが狼狽えて言葉に詰まった。
「ずっと考えてたんだ。俺一人では何もできない。制御できないんだよ……楠ノ瀬がいないと……」
「……いや、しかし」
「俺は、楠ノ瀬を失いたくないんだ。このまま楠ノ瀬を諦めて、いずれ別の女と結婚して、ってなったら……父さんの二の舞になると思う」
「理森……」
「祖父さん、ごめん。祖父さんが俺に期待してくれたこと、嬉しかった」
俺は祖父さんに礼を言うと、立ち上がって楠ノ瀬の婆さんの前へと進み出た。
「あの、今すぐとかじゃないんですけど……俺を、楠ノ瀬家のお婿さんにしてください!」
そう言うと俺は楠ノ瀬の婆さんに向かって、ガバっと大きく頭を下げた。
「えっ!?」
楠ノ瀬が驚いたように声を上げる。
祖父さんも「何を言い出すんだ!?」というように、口をぽかんと開けていた。祖父さんのこんな表情を見るのは初めてで、なんだか愉快だった。
「高遠くん……」
戸惑ったように俺の名を呼ぶ楠ノ瀬に、
「いや、一人で先走ってるのはわかってるんだけど。でも、今の俺が思う最良の選択は……これなんだ。……嫌かな?」
自分勝手な発言だってことはわかってる。
だけど、いま俺は自分の意志を楠ノ瀬にも、他のみんなにも知っておいてほしかった。
「ううん……ありがとう。ちょっと驚いてるけど」
楠ノ瀬が困ったように眉毛を下げながら、それでも笑顔で答えてくれた。
「ハッハッハッ……!」
楠ノ瀬とは別に、大きな笑い声が響いた。その心地よい低音は梢江先生のものだ。
「……いや、まさか君がそういう選択をするとは思わなかった」
込み上げる笑いを堪えるように口元に手を当てながら、先生が俺を見た。
「いいと思うよ。自分で考えて、自分で納得して出した答えなら……それが一番だ」
「梢江先生……ありがとうございます」
てっきり反対されると思っていた自分の意見を応援してくれる人がいるというのは力強い。
「……其方は梢江の家の者か?」
楠ノ瀬の婆さんが先生に向かって声を掛けた。
「そうです」
「梢江家は許可するということか? 今の理森殿の提案を」
「はい。うちの役目は高遠と楠ノ瀬……双方の当主が結びつくことを防ぐことです。高遠の当主の座を放棄した者が誰と一緒になろうと、口を出す気はありません」
「成程……」
婆さんは何かを考え込むように目を閉じた。婆さんが黙っている間、何とも言えない緊張感がこの場を覆っていた。
「……十年後、」
やがて婆さんが口を開く。威厳のある低い声が響いた。
「十年経っても、お前たちの気持ちが変わっていないのであれば……考えてみよう」
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