禁じられた逢瀬

スケキヨ

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終章

一歩②

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 くそっ……いいところだったのに!
 誰だよ、水を差したのは……と、声のした方を振り向くと――。

 そこにいたのは例のごとく、あやちゃんだった。
 目に浮かんだ軽蔑の色を隠そうともしない、何とも冷たい視線を投げかけてくる。

 いたたまれなくなった俺たちは条件反射的に距離を取った。楠ノ瀬くすのせは慌てて乱れた衣服を整えている。

「まったく……。これは東京に行っても私が見張ってなきゃダメだね」

 あやちゃんはそう言うと、これ見よがしに大きな溜息を吐いて見せた。

 そう、実はあやちゃんも東京の大学に進学するのだ。
 しかも――

「いいなぁ、二人は同じ学校だもんね……」

 楠ノ瀬が拗ねたように口をとがらせた。

 そうなのだ。あやちゃんは俺と同じ学校の看護学科へと進むのだ。

高遠たかとおくんが浮気しないように、しっかりと目を光らせておくから」

 あやちゃんが釣り目がちな大きな目を細めて、俺をめつけた。

「……あやちゃんが一番心配なんだけど。なんか最近、高遠くんと仲良いし……」

 ピアノの影に隠れて、楠ノ瀬がぼそっと呟いた。

 ――えっ……そんな風に思ってたのか……!?

「楠ノ瀬、やきもち焼いてくれるのは嬉しいけど……そんな心配は全くないから!」

 俺を笑いながらも必死で否定する。

「ほんとかなぁ……」

 それでもまだ疑わしそうに表情を曇らせる彼女に、

清乃きよの、意味不明な妄想やめてくれる? 私にはちゃんと他に好きな人がいるんだから」

「えっ、そうなの!?」

 あやちゃんの発言に、楠ノ瀬ががばっと顔を上げて驚きの声を上げた。
 そうか……楠ノ瀬は知らないんだな。あやちゃんと徳堂とくどうの関係を……。
 あやちゃんが看護科に進むのも、将来的に徳堂のことを支えるためなんじゃないか……と俺は思ってるんだけど。


「そう。だから余計な心配しないで。それより、そろそろ帰るよ」

 あやちゃんに引っ張られるようにして、音楽室を出て行く楠ノ瀬。

「高遠くん、ばいばい。また連絡する」

「おぅ」

 俺はひらひらと手を振りながら、廊下を歩いていく二人の後ろ姿を見送った。
 窓から差しこむ夕方の柔らかい光が、二人の長い髪をきらきらと照らしている。
 
「さてと。俺も帰るか」

 なんだか嘘みたいだな、と思う。

 一年前まではふるい慣習や価値観に縛られて、がんじがらめになっていたのに……。
 自分の思うまま、正直に、素直に、行きたい道を選んでみれば、なかったはずの道がちゃんと目の前に現れてくれた。

 もちろん周りの人たちに納得してもらえるかどうかは、これからの俺の行動次第だってこともわかってるけど……。

 廊下に出ると、沈みかけた夕陽が殺風景な校舎を金色に染めている。

「おぉ、まぶしい」

 西日に包まれた廊下を一歩ずつ確かめるように、俺は足を進めた。


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