月と秘密とプールサイド

スケキヨ

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夜のプールサイドで……

夜のプールサイドで……(1)※

 ――月にられている。

 背後から揺さぶられながら、ひな子はぼんやりとそんなことを思った。薄目を開けて空に目をやると、端っこの欠けた白い月が闇の中にぼうっと浮かんでいる。

「はぁっ、はあ……ん、ぁあ…………っん」

 フェンスの向こうに広がる雑木林から聞こえる虫の声に、ふたり分の荒い呼吸音が混ざり合う。八月も今日で終わりだというのに、夜は相変わらず蒸し暑かった。じっとりと噴き出した汗のせいで、首筋には後れ毛が張り付いている。

「どこを見ている?」

 耳元で男の声がした。咎めるような冷たい声。

「よそ見とは余裕だな」

 ひな子の腰を掴んでいた両手に力を込めると、男はいっそう激しく腰を突き上げた。
 人気のないプールサイドに汗が飛び散る。

「や、ぁあ……っ」

 体勢を崩したひな子が、寄りかかっていたフェンスに強くぶつかった。錆びたフェンスがガシャン、と音を立てる。ぶつかった拍子に胸の先がフェンスの細い網目に擦れた。

「あっ……ん」

 水着の上からでもはっきりとわかるくらいぷっくりと膨らんだ蕾から、電流のような快感がひな子の身体を走り抜けた。もう一回……その快感を求めて、ひな子は自分でも無意識のうちにフェンスの隙間へと胸の先を擦りつけていた。

「ん……ふぅっ」

 鼻にかかった甘い声が口をつく。

「感じてるのか? このフェンスに」

 頭の上から呆れたような男の声が降ってきた。恥ずかしさのあまり、ひな子の耳が赤く染まる。

「ふっ……わかりやすいな」

 男は鼻で嗤うと、ひな子の赤らんだ耳殻をぺろりと舐め上げた。

「ひゃっ……」

 ひな子が思わず声を上げると、後ろから強く腕を引かれて、フェンスから引き離された。

「ぁ……」

 刺激をなくした乳首が寂しい。

「大人しそうな顔して……とんだ淫乱だな」

 生温かい舌が耳の穴に差しこまれる。ねちゃねちゃとした水音が脳髄へとダイレクトに響いてくる。

「いや……」

 男はひな子の耳をねぶりながら大きな手のひらを、ひな子の腰から脇腹、鳩尾みぞおちへと這わせていく。行きつ戻りつしながら、ゆっくりと、時間をかけて……。

「ん……ぁ、あぁ」

 男の動きに翻弄されて、ひな子の口から粘ついた糸のような声が漏れる。
 やがて胸元へとたどり着いた男の手が肌に張りついた生乾きの水着を勢いよくずり下ろすと、窮屈な競泳水着の下から白い乳房がまろび出た。

「あっ……」

 剥き出しになった胸が外気に晒されると、夏の夜の生温かい風がまとわりつくように肌を撫でた。
 背後から伸びてきた男の手が、ひな子の豊満な乳房をむぎゅう、と鷲掴みにする。

「んん……っ」

 男はその柔らかな感触を楽しむように、思うがまま、好きなように揉みしだいた。ごつごつとした長い指が白い肌に食い込んて赤い痕を刻む。ひな子の乳首はますます固く、敏感になっていった。

 なのに――。

 男はわざとそこには触れないようにしているみたいだった。

 ――いじわる。

 ひな子は男のことを恨めしく思った。

「はやく、触って」――言いかけた言葉を必死の思いで呑み込んだ。

 気安く強請ねだれるような関係じゃない。
 だって、このひとは……。

「どうした? 何か言いたそうだな」

 男は面白がっていた。

 ――本当に意地悪だ、この男……。

「物足りないんだろう?」

 男は笑いながら決めつけたように言った。

「そんなこと、ない……あ、あぁぁ、っ!」

 首を振って否定しようとしたひな子の胸の先を……固く尖ったそれを、男が強く摘んだ。
 糸を引くような喘ぎ声がプールサイドに響く。
 男は執拗にそこをなぶった。指の腹で転がしたり、爪の先で引っ掻いたり……。
 さんざん焦らされてから与えられた刺激に、ひな子の身体は信じられないくらい反応してしまう。

「もぅ……や、だぁ…………」
「嫌? ほんとに?」

 軽く笑った男がひな子の股の間に差しこんだ自身の一物を深く穿つ。

「んぅ……、あぁ……っ!」

 腰を動かしながら、男の指は尚もひな子の胸を弄んでいた。男の触れた場所から麻薬のような快感がひな子の身体をぞくぞくと蝕んでいく。
 ――こんなところ、誰かに見られたらどうするの?
 そう思うのに、口から溢れ出る声が抑えられない。喘ぎ過ぎて、喉が痛い。

「あぁ……ダメ、です……もう」
「ダメ……じゃ、ないだろう? こんなに締め付けておいて……っ」

 女の懇願は、むしろ男を煽るだけだ。
 男の動きは止むどころか、ますます激しくなった。
 誰もいないプールサイドの一角が、ふたりの身体から放たれる生々しい熱気で包まれる。

「あぁ……んっ……誰か、に……見られたら、」

 ひな子はそう呟いたけれど、男の荒い呼吸と……何より、彼女自身が漏らす甲高い喘ぎ声のせいで、男の耳には届かなかった。

 夜空に浮かぶ白い月が、もつれ合うふたりの姿態を、冷ややかに見下ろしていた。


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