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第十五話 賢者ディル・アセディアとの出会い
しおりを挟む「久しぶりじゃな、まさか生きておったとは」
「お前は!」
空間の亀裂から引きずり出されたローブ姿の老人を見て、ソフィアとセレーネの二人が驚いている。
「他の方は、はじめましてかな」
闘技場に現れたのは、かつて世界を救った七英雄の一人。
人類の希望の象徴。
賢者の役職を持つ、ディル・アセディアであった。
「やあ、裏切り者のお二人さん」
「貴様……!」
ディルの挑発に、ソフィアが激しい怒りを抑えつつ、返答する。
かつて、魔王を倒すために戦った十四人の英雄たちが居た。
戦いの終着点にて、七英雄と呼ばれることになる七名は魔王と手を組み、他の七名の仲間を生贄にすることで強大な力を手に入れる。
そして、生贄となった仲間に汚名を被せると、彼らは人類の希望へと成り上がった。
魔王と平和的な条約を結んだ、真の英雄として。
勇者、賢者、聖者、聖騎士、吟遊詩人、狩人、探索者の七名。
彼らは人類の希望の象徴として、現在も世界中から尊敬を集めている。
「今日のところは、お暇させてもらうよ」
余裕の表情で、賢者ディルは退却を宣言する。
彼に危害を加えられる者など世界に存在しないという、当たり前の常識を持つ人間の態度だった。
七英雄に牙を剥くということは、人類全体に敵対するということだからだ。
「私は手駒を使って遊ぶのが好きなんだ。お前たちは今すぐにでも皆殺しにできるが、それではつまらない」
圧倒的な強者の余裕。
彼に加害できるのは、他の七英雄のみ。
ディルはダンジョン内に転がるランバージャック達の死体をつまらなそうに見ると、転移魔法を唱え始める。
「そこにいる二人から何か話を聞いたかね? 彼女たちは嘘つきだから気をつけた方がいいぞ」
ニヤニヤと笑いながら、ディルはクトウに忠告している。
ソフィアとセレーネが攻撃を仕掛けるが、ディルは魔力による防御で簡単に防いでしまう。
「あの頃は敵いもしなかったが、君たちのお陰で私は力を手に入れたよ」
ただそれだけで人を殺せそうな瞳で、セレーネとソフィアはディルを正面から見つめる。
聖母像が血の涙を流すような、人類への慈愛心が理由だった。
「アリ……スト……? なんだって」
「あはははー! なんでもない……」
今すぐにでも殺人劇が始まりそうな隣では、白波のリーダーに質問されるナイトメアが曖昧に笑っていた。
ディルに殴りかかった時に叫んでいた名乗りを聞き返されて、ナイトメアは恥ずかしそうにとぼけている。
「それよりも、リーダーこそ、セリフ棒読みだったけど?」
「う、うるせー」
ナイトメアの口調も、明るいお姉さんといった感じに戻っていた。
気がつくと彼女の服装も、ゾクの特攻服から、ビジネススーツへと変わっている。
「では、さようなら」
自身に興味なさげな人間がこの場に居ることに苛立ちつつも、ディルは余裕の態度を崩さぬままに転移魔法を唱える。
そのまま、彼はどこか知らない場所へと、消えていった。
「くぅ……」
怨敵の一人を逃がしたセレーネとソフィアが、歯を食いしばっている。
「さて、ここからが私の仕事だ」
そこに、名乗りを上げるのはクトウ。
手駒を使って人を貶めることが得意な賢者ディル。
それに対し、クトウは他人が描いた筋書きを破滅させる天才だった。
深淵の魔力を展開すると、ディルが展開した転移魔法を解析する。
すると、時空を捻じ曲げ、暗黒空間がこの場に広がった。
水晶髑髏が嘲り笑うような魔力がほとばしる。
「私は首謀者を殺しに来たと言ったね」
悔しそうにうつむくセレーネとソフィアに、クトウは尋ねる。
「さあ、首謀者を殺そうか」
人類の希望を背負い、悪と戦った英雄。
では、その英雄が絶望した時に、希望を与える存在とは。
強さとは、力だけではない。
行き先を照らす知恵こそが、人類の真の希望。
「契約の時間だ」
ソフィアとセレーネを導き、クトウはディルの転移先へと乗り込んでいった。
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