馬鹿でかわいい俺だけの魔族

桃瀬わさび

文字の大きさ
7 / 12

7毒!? 【リーノ】

しおりを挟む

「落ち着いて話せるところに行こう」とゼノが移動した先は、比較的こぢんまりした部屋だった。
俺の家と同じくらいの広さってことは、お城の中じゃ本当に小さいほうの部屋なんじゃないかな。
部屋にあるのは、大きめのベッドとソファーと、最低限の家具だけ。
でもどれも高そうだし、お客さんが泊まる部屋なのかな? と物珍しく眺めていたら、ゼノがゆったりとソファーに腰掛けた。
……相変わらず、俺を横抱きにしたままで。

ちゃんと歩けるって言ったのに、床が危ないからって聞き入れてもらえなかったんだよな。
確かに戦闘の名残りでガラスやら石やら肉片やら飛び散りまくってたけど、靴履いてるから平気なのに。

「ついたなら、いい加減おろせよ。落ち着かない」
「嫌だ。……と言いたいところだが、確かにこのままだと話しにくいな」
「うんうん、……ぇ、ぅわっ!?」

言うやいなやひょいと抱えあげられて、そのまま向かい合わせに座らされる。
俺の尻の下にはゼノの脚。
腰にはゼノの腕がまわって、逃げられないようホールドしてる。
とっさにゼノの肩に手をついたけど、……なんでこんな格好させられたんだ? 
自分がちょっと大きくなったからって、子ども扱いしやがって。

むうっとゼノを睨みあげると、目元をするりと撫でられた。

「隈がひどいな。それに、痩せた」
「そう? 最近忙しかったからかな」
「魔界に入ってから、まったく偵察に来なくなったが……こんなになるまで、どんな仕事だ?」
「それがさあ、聞いてくれよ。勇者がどんどん進軍して、魔王軍がそっちの戦いに集中したせいで、他の雑務はぜーんぶこっち。アホみたいに壊しまくる武器の発注も、遠征部隊の食料調達も、気絶しそうな量の書類の処理も、ぜーんぶこっち。忙しすぎてどんどん人も辞めてくし、飯も睡眠も削らねーと全然仕事が終わんなくて……って、やべ、いい加減戻らないと叱られる」
「大丈夫」

動こうとしたらぎゅうぎゅうと身体を締め付けられて、ぐえっと変な声が漏れた。
すぐに緩めてくれたけど、なんだろね、この馬鹿力。
魔族は頑丈なはずなのに、口から何かが出るかと思った。

――しかし、なんだ、この状況?

なんで俺、ゼノにきつく抱きしめられてんの?
しかも大丈夫って、何が大丈夫なんだ?
全然大丈夫じゃないんだけど。
戻らなきゃマジで仕事終わらないんだけど。

「あ! もしかして、魔王様が負けたから、後任が決まるまで休みになるとか!? ガリオン将軍が有力だけど、ザグレヴァー宰相も相当強いって聞いたし、これから戦って次期魔王決めんの!?」
「喜んでるところ悪いけど、その二人ならもう殺した。さっきの山のどこかにいる」
「え……?」
「これが嫉妬ってやつなのか? そんなかわいい顔で他の男の名前を呼ばれると、相手を八つ裂きにしたくなる」
「え、えーと? あの、ゼノさん……?」

なんか、今、ありえない言葉が聞こえた気がするんですが。

嫉妬って何!?
名前出しただけで八つ裂きって、物騒すぎない!? 
下っ端の雑用係の発言じゃなくない!? 
いったいゼノはどうしちゃったんだ!?

「リーノ。お礼は、リーノがいい。リーノの全部がほしい」

あわあわと全力でうろたえてたら、まっすぐに瞳を覗き込まれて、ぱちぱちと目を瞬いた。
えーと、空耳……ではなさそうだ。
もしも空耳だったとしたら、どこまでも切なげで真剣な、この表情の理由が説明できない。

だとすると考えられるのは、錯乱か。
確か宰相は、幻惑とか錯乱とかのいやらしい魔法が得意だったはず。
勇者と宰相の戦いの余波で、雑用係のゼノが錯乱しちゃったんだろうか。

あれ、でも、魔法だったら術者が死んだら解けるはずだから……まさか、毒!?
ゼノが普通にしてるから気づかなかったけど、やばい毒に冒されてた!? 
だからさっきから変なことばっか言ってんの!? 
そういえば顔もちょっと赤い!?

ぺたりと額に触ってみると、やっぱり俺の手よりだいぶ熱い!

「……なに?」
「毒!? 熱!? ど、どうしよう、薬はどこに……!?」

きょろきょろとあたりを見渡すけど、こんなところに薬があるはずもない。
一番確実にあるところは……城の裏の薬草畑か、魔王軍の備蓄倉庫? もちろんどれも魔族用の薬だけど、人間に飲ませても大丈夫なのか!?
かえってひどくなったりしない!?

どどどどうしたら!? とおろおろしてたら、ゼノがくつくつと喉を鳴らした。
えっと、ゼノさん? 
笑ってる場合じゃないと思うんだけど!?

「っくく、この状況で俺の心配か? 大丈夫、毒は飲まされてないし、熱もない」
「心配するに決まってるだろ! 触ったらかなり熱かったし!」
「人間は魔族より体温高いからな」

ハッ……! 
そうだった! 
そんなことすっかり忘れてた!
 
なーんだ、そんなら熱じゃないのか。焦ったぁ。
さっきからゼノが変なことばっか言うから、毒か熱で頭がやられたのかと思った。

……ん? あれ? 
じゃあなんでゼノは、あんな変なこと言ってたんだろ?
嫉妬とか、かわいいとか、俺が欲しいとか……空耳でも熱でもないなら、なんなんだ?

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役のはずだった二人の十年間

海野璃音
BL
 第三王子の誕生会に呼ばれた主人公。そこで自分が悪役モブであることに気づく。そして、目の前に居る第三王子がラスボス系な悪役である事も。  破滅はいやだと謙虚に生きる主人公とそんな主人公に執着する第三王子の十年間。  ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

婚約破棄を提案したら優しかった婚約者に手篭めにされました

多崎リクト
BL
ケイは物心着く前からユキと婚約していたが、優しくて綺麗で人気者のユキと平凡な自分では釣り合わないのではないかとずっと考えていた。 ついに婚約破棄を申し出たところ、ユキに手篭めにされてしまう。 ケイはまだ、ユキがどれだけ自分に執着しているのか知らなかった。 攻め ユキ(23) 会社員。綺麗で性格も良くて完璧だと崇められていた人。ファンクラブも存在するらしい。 受け ケイ(18) 高校生。平凡でユキと自分は釣り合わないとずっと気にしていた。ユキのことが大好き。 pixiv、ムーンライトノベルズにも掲載中

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

何故か男の俺が王子の閨係に選ばれてしまった

まんまる
BL
貧乏男爵家の次男アルザスは、ある日父親から呼ばれ、王太子の閨係に選ばれたと言われる。 なぜ男の自分が?と戸惑いながらも、覚悟を決めて殿下の元へ行く。 しかし、殿下はただベッドに横たわり何もしてこない。 殿下には何か思いがあるようで。 《何故か男の僕が王子の閨係に選ばれました》の攻×受が立場的に逆転したお話です。 登場人物、設定は全く違います。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

世界一大好きな番との幸せな日常(と思っているのは)

かんだ
BL
現代物、オメガバース。とある理由から専業主夫だったΩだけど、いつまでも番のαに頼り切りはダメだと働くことを決めたが……。 ド腹黒い攻めαと何も知らず幸せな檻の中にいるΩの話。

弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。

あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。 だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。 よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。 弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。 そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。 どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。 俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。 そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。 ◎1話完結型になります

記憶喪失になったら弟の恋人になった

天霧 ロウ
BL
ギウリは種違いの弟であるトラドのことが性的に好きだ。そして酔ったフリの勢いでトラドにキスをしてしまった。とっさにごまかしたものの気まずい雰囲気になり、それ以来、ギウリはトラドを避けるような生活をしていた。 そんなある日、酒を飲んだ帰りに路地裏で老婆から「忘れたい記憶を消せる薬を売るよ」と言われる。半信半疑で買ったギウリは家に帰るとその薬を飲み干し意識を失った。 そして目覚めたときには自分の名前以外なにも覚えていなかった。 見覚えのない場所に戸惑っていれば、トラドが訪れた末に「俺たちは兄弟だけど、恋人なの忘れたのか?」と寂しそうに告げてきたのだった。 ※ムーンライトノベルズにも掲載しております。 トラド×ギウリ (ファンタジー/弟×兄/魔物×半魔/ブラコン×鈍感/両片思い/溺愛/人外/記憶喪失/カントボーイ/ハッピーエンド/お人好し受/甘々/腹黒攻/美形×地味)

処理中です...