馬鹿でかわいい俺だけの魔族

桃瀬わさび

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7毒!? 【リーノ】

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「落ち着いて話せるところに行こう」とゼノが移動した先は、比較的こぢんまりした部屋だった。
俺の家と同じくらいの広さってことは、お城の中じゃ本当に小さいほうの部屋なんじゃないかな。
部屋にあるのは、大きめのベッドとソファーと、最低限の家具だけ。
でもどれも高そうだし、お客さんが泊まる部屋なのかな? と物珍しく眺めていたら、ゼノがゆったりとソファーに腰掛けた。
……相変わらず、俺を横抱きにしたままで。

ちゃんと歩けるって言ったのに、床が危ないからって聞き入れてもらえなかったんだよな。
確かに戦闘の名残りでガラスやら石やら肉片やら飛び散りまくってたけど、靴履いてるから平気なのに。

「ついたなら、いい加減おろせよ。落ち着かない」
「嫌だ。……と言いたいところだが、確かにこのままだと話しにくいな」
「うんうん、……ぇ、ぅわっ!?」

言うやいなやひょいと抱えあげられて、そのまま向かい合わせに座らされる。
俺の尻の下にはゼノの脚。
腰にはゼノの腕がまわって、逃げられないようホールドしてる。
とっさにゼノの肩に手をついたけど、……なんでこんな格好させられたんだ? 
自分がちょっと大きくなったからって、子ども扱いしやがって。

むうっとゼノを睨みあげると、目元をするりと撫でられた。

「隈がひどいな。それに、痩せた」
「そう? 最近忙しかったからかな」
「魔界に入ってから、まったく偵察に来なくなったが……こんなになるまで、どんな仕事だ?」
「それがさあ、聞いてくれよ。勇者がどんどん進軍して、魔王軍がそっちの戦いに集中したせいで、他の雑務はぜーんぶこっち。アホみたいに壊しまくる武器の発注も、遠征部隊の食料調達も、気絶しそうな量の書類の処理も、ぜーんぶこっち。忙しすぎてどんどん人も辞めてくし、飯も睡眠も削らねーと全然仕事が終わんなくて……って、やべ、いい加減戻らないと叱られる」
「大丈夫」

動こうとしたらぎゅうぎゅうと身体を締め付けられて、ぐえっと変な声が漏れた。
すぐに緩めてくれたけど、なんだろね、この馬鹿力。
魔族は頑丈なはずなのに、口から何かが出るかと思った。

――しかし、なんだ、この状況?

なんで俺、ゼノにきつく抱きしめられてんの?
しかも大丈夫って、何が大丈夫なんだ?
全然大丈夫じゃないんだけど。
戻らなきゃマジで仕事終わらないんだけど。

「あ! もしかして、魔王様が負けたから、後任が決まるまで休みになるとか!? ガリオン将軍が有力だけど、ザグレヴァー宰相も相当強いって聞いたし、これから戦って次期魔王決めんの!?」
「喜んでるところ悪いけど、その二人ならもう殺した。さっきの山のどこかにいる」
「え……?」
「これが嫉妬ってやつなのか? そんなかわいい顔で他の男の名前を呼ばれると、相手を八つ裂きにしたくなる」
「え、えーと? あの、ゼノさん……?」

なんか、今、ありえない言葉が聞こえた気がするんですが。

嫉妬って何!?
名前出しただけで八つ裂きって、物騒すぎない!? 
下っ端の雑用係の発言じゃなくない!? 
いったいゼノはどうしちゃったんだ!?

「リーノ。お礼は、リーノがいい。リーノの全部がほしい」

あわあわと全力でうろたえてたら、まっすぐに瞳を覗き込まれて、ぱちぱちと目を瞬いた。
えーと、空耳……ではなさそうだ。
もしも空耳だったとしたら、どこまでも切なげで真剣な、この表情の理由が説明できない。

だとすると考えられるのは、錯乱か。
確か宰相は、幻惑とか錯乱とかのいやらしい魔法が得意だったはず。
勇者と宰相の戦いの余波で、雑用係のゼノが錯乱しちゃったんだろうか。

あれ、でも、魔法だったら術者が死んだら解けるはずだから……まさか、毒!?
ゼノが普通にしてるから気づかなかったけど、やばい毒に冒されてた!? 
だからさっきから変なことばっか言ってんの!? 
そういえば顔もちょっと赤い!?

ぺたりと額に触ってみると、やっぱり俺の手よりだいぶ熱い!

「……なに?」
「毒!? 熱!? ど、どうしよう、薬はどこに……!?」

きょろきょろとあたりを見渡すけど、こんなところに薬があるはずもない。
一番確実にあるところは……城の裏の薬草畑か、魔王軍の備蓄倉庫? もちろんどれも魔族用の薬だけど、人間に飲ませても大丈夫なのか!?
かえってひどくなったりしない!?

どどどどうしたら!? とおろおろしてたら、ゼノがくつくつと喉を鳴らした。
えっと、ゼノさん? 
笑ってる場合じゃないと思うんだけど!?

「っくく、この状況で俺の心配か? 大丈夫、毒は飲まされてないし、熱もない」
「心配するに決まってるだろ! 触ったらかなり熱かったし!」
「人間は魔族より体温高いからな」

ハッ……! 
そうだった! 
そんなことすっかり忘れてた!
 
なーんだ、そんなら熱じゃないのか。焦ったぁ。
さっきからゼノが変なことばっか言うから、毒か熱で頭がやられたのかと思った。

……ん? あれ? 
じゃあなんでゼノは、あんな変なこと言ってたんだろ?
嫉妬とか、かわいいとか、俺が欲しいとか……空耳でも熱でもないなら、なんなんだ?

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