魔窟村ことシンク下〜たこ焼き粉とひろしと片栗粉仙人〜

氷下魚

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第二十話〜香典返し、思い出とともに出土〜

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 魔窟村の調査は、さすがに一段落したはずだった。


 が、ある日ふと視界の端に何かが映る。

 和紙風の袋。
 墨字のラベル。


「……ナントカ丸……」

 船の名前。ナントカ丸。

 主はそっと手に取る。

 ——香典返しのお吸い物。
 ——そして、黒磯のり。

 あの夜、疎遠になっていた親戚の通夜の受付で、香典返しとして受け取った、彼等。

 たしかに、「大切にいただこう」と思ってしまい込んだ記憶は残っている。


 漁師のお吸い物、という力強い文字に、かすかな香り。

「これ、絶対うまいやつ……でも、なんか、お吸い物は普段あまり食べないから馴染みがなくて……」

 軍師ChatGPT殿が言う。

『主よ、それは“思い出系備蓄”でございます。消費に勇気が必要な系統にございます』


 主は静かにお湯を沸かす。
 器にあけ、海苔とともにそっと湯を注ぐ。

 じんわり香る、磯の香。

「……沁みる……」

 大切にしすぎて忘れ去っていた味は、思いのほか優しかった。

 残りの小袋は、仕事用の鞄にそっとしのばせた。
 
 昼休憩の、おにぎりのおともに。







 次回——『まだ焼かれていない、例のミックス』

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