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本編
70話 公爵様を迎えて その23
その頃荒野である、
「どういう事だ」
クンラートの驚愕の叫びが荒野に響き、その従者達は言葉も無く固まっている、
「こういうものらしい、いやはや困ったものだよ」
レイナウトが静かに呟く、
「騎士団長、いや、リンド、説明を求める、王族はこんなものを隠していたのか」
クンラートの鋭い視線がリンドに向かった、
「隠していた訳ではありません、しかし、公表はしていない以上そう受け取られても無理はないかと・・・」
リンドが冷静に答えた、その後ろに控えるタロウはまぁそうだよなーと素知らぬ顔である、
「それを隠しているというのだ、するとあれか、クロノスもボニファースもこれを使って行き来していたという事か」
「それはその通りでございます」
「・・・なんと・・・いや・・・」
クンラートがリンドを睨みつけたまま大きく顔を歪ませた、クンラートとその従者、レイナウト、カラミッドの従者達は公務時間開始の鐘と同時にイフナースの屋敷を訪れた、荒野の視察の為である、迎えたのはリンドであった、今日クンラートに対して様々な情報開示をすることは事前に打ち合わせされており、クンラートの理解を待つ為時間をとる事も確約されている、リンドはレイナウトととの関係から分かる通り、先の大戦の経緯もあってクンラートにも覚えはよい、大戦終結時には王国軍内で扱いが悪くなっていたリンドをクンラートは直々に勧誘したほどである、それは丁重に断られているが、後、クロノスの直属になったと聞き、クンラートはボニファースも人を見る目はあるようだと苦々しく微笑んだものである、而してリンドとの邂逅を喜ぶ間もなく、一行は荒野への転送陣を潜った、そしてそのあまりにもな状況にクンラートは叫ばざるを得ず、また、昨晩のカラミッドとレイナウトからの報告を完璧に補完するその魔法技術に歯噛みするしかなかったようだ、
「まぁ・・・リンド殿から聞く限り、あれを扱えるのは数人であるらしい、故に・・・例え公表したとしてもそれほど便利にはならんであろう」
レイナウトがクンラートを諫めた、隣りのカラミッドも難しい顔で頷いている、実際に試しにどうぞと初めて魔法陣を使用した際にリンドから勧められ、その誘いに乗っておそるおそると魔法陣を起動しようと触れたのであるがうんともすんとも言わなかった、これはと思い、従者の中でも魔力に長けた者に代わったがそれでも反応すらしない、そうけしかけたリンドがやり過ぎると倒れますよと涼しい顔で微笑み、なるほど、扱うどころか起動するだけでも人を選ぶ難しい技術である事を身を以て理解させられたのであった、
「そうなのか?」
「はい、先代様のお言葉通りです、さらに言えば例え万人に扱える品であったとしても、経済的な面で大きく世の中を変える品でもあります、扱いはより慎重になったでしょう」
「・・・経済?」
「はい、あらゆる流通を担う商会、さらには各街道の宿場町、その宿場町を主な収益としている領地等々・・・それらは王国の経済の一部となっています、転送陣はそれらを一掃しうる技術ですから」
「確かにな・・・しかし、それ以上に新たな仕組みを構築すれば・・・いやここは経済では無い、あれか、リンド、王族もクロノスもこれを好きに使っているのか?」
「はい、それは否定致しません、故に今回の問題にも対処が早かった、もしこれがなければ未だ伝達文の交換しか出来ておらず、本日この荒野にこうして立つ事も無かったと考えます」
「そうじゃな、すると恐らく来年の早々にはモニケンダムは蹂躙されておった」
「確かに・・・」
レイナウトとカラミッドが苦々しく頷く、
「それは聞いたが、しかし、事実なのであろうな」
「昨晩お伝えした通りであります」
「だな、それこそ、こうしてこの地に立っている事、それこそが証左となろう、昨晩は自分で話しておいて信じろというのが無理だなと思えるほどの・・・絵空事であったと思うが・・・あの転送陣があれば難しくはない・・・どころか全ての辻褄が合うというものでな・・・まして陛下やクロノス殿下が遊びに来ていたらしいのだ・・・この問題が起こる前からな・・・まったく、ふざけた話しよ・・・」
「・・・確かにな・・・」
クンラートは大きく顔を歪めたまま振り返り荒野を遠く眺めた、クンラートがこの地を視察するのはこれで二度目である、一度目はまだ十代の頃であったと思う、レイナウトに連れられ旧アイスル王国領内を巡視した折で、その時には若さゆえの感受性もあり、なんと痛々しく不毛な土地であろうかと悲しく感じた記憶がある、それも聞く限り広大であった、荒野の果てとされている巨大な河と湖はヘルデルから王都に向かうよりも遠く、また、その先も荒野であるらしい、どのような経緯でこうなったのかも分からず、人も住めない土地であると聞き、この世の果てとはまさにこのような土地を指すのであろうと圧倒されてしまったものだ、
「・・・フン・・・で、この荒野が鉱山になると・・・いう事であったな?」
クンラートが軽く混乱しつつも取り合えず目の前の問題を提起した、今回わざわざモニケンダムに足を運んだ一つ目の問題である、
「はい、では早速」
リンドが振り返りタロウが小さく頷いた、クンラートの従者とカラミッドの従者達の視線がタロウに集まる、先程からシレっとリンドの背後に控えているいかにも平民風の髭面の男である、妙に体格が良くクンラートを前にしても礼儀はあるがかしずく素振りも見せず、またレイナウトとカラミッドはそれが当たり前かのように特に指摘する事も非難する事も無い、一体この男はなんなのだと訝しく思うのも無理はない状況であった、
「失礼します、まずは・・・」
とタロウはさてどうしようかなと周囲を見渡し、あれが良いかとやや離れた場所にある巨岩を見定めた、
「皆さんはここで、あの巨岩に致します」
ニコリとそう宣告し、タロウはスタスタとその巨岩に歩み寄る、リンドがそのまま見送った為、他の者達も動けなかった、
「・・・リンド、あの男は?」
クンラートも流石に疑問を口にする、リンドの後ろに控えているのを確認し、はてどこかで見た顔だなと感じていた、リンドが特に紹介する事も無く、レイナウトからもカラミッドからも説明する事が無かった為、荒野の施設の管理人かなにかと勝手にそう判断していたのである、
「はい、詳細は後程・・・しかし、恐らくは面会した事があるかと思います」
「・・・そうなのか?」
「はい、その名を聞けば思い出すかと、タロウと申します」
「ムッ・・・タロウ・・・」
奇妙な響きの名前である、少なくともクンラートの周辺にいる者の名前ではなく、恐らく王国でも珍しい部類の名前であろう、クンラートは確かにどこかで聞いたなと眉を顰めた、
「始まりますね」
タロウが一度こちらを振り返り、リンドが大きく手を振った、了解の意である、
「皆さん、少々、騒がしいです、場合によっては酷く汚れますので、御覚悟を」
リンドがニコリと一行を見渡し、ハッ?と一同は不思議そうにリンドを見つめる、確かにと頷くのはレイナウトとカラミッド、その従者の幾人かで、しかし、その者達も特に身構える事は無い、充分に距離をとっていると判断している為である、そしてタロウはまず巨岩に向けて大きく手を翳した、なにやら儀式めいて見えるが、これは三度目という事もあり、前回、前々回の反省から軽い結界魔法を張る為のものである、流石のタロウも学習しているという事なのであろう、初回は致し方ないとしても二回目のそれでも砂を浴びてしまった、三度それを続ければリンドは勿論、クロノスにも馬鹿にされてしまう、タロウにもそれなりにプライドというものもあれば学習能力もあったという証左であった、そして、こんなもんかなとタロウは頷くと巨岩の元に片膝を着き、次の瞬間、
ボフッ
と何とも気の抜けた破裂音が荒野を震わせ、巨岩が砂の柱へと姿を変えた、オオッと一同は驚きの声を上げる、
「なんと・・・」
「これは何度見ても・・・」
「異様・・・ですな」
クンラートは目を丸くするが、レイナウトとカラミッドはまったくと顔を顰める、前回もそうであったがタロウはいとも簡単に難しい事をやってみせている、その様はどうにも遊んでいるようにしか見えない、そしてタロウがゆっくりと腰を上げ、その眼前にそびえる砂の柱が落ち着いた頃合いで、
「もう大丈夫そうですね、皆さん、あちらへ、何の仕掛けも無い事を御確認下さい」
リンドが先に立ってタロウへと歩み寄る、今更仕掛けもクソもあるかとレイナウトとカラミッドは頬を引きつらせた、その仕掛けとやらが何を意味するかは理解できるが、その必要性が理解できない、まったくふざけた話しばかりである、
「さて、では、どうしましょうか」
一行が近づくとタロウは揉み手になって微笑んだ、巨岩の粉砕は思った通りに上手く行った、ここは褒められても不思議では無いが、おっさんどもに褒められても嬉しくはない、故に自分で自分を褒めておこう等と内心で思っていたりする、自分もおっさんだけどな等とも考えているあたり、恐らく徹夜の影響が表れてもいた、
「金塊からだろうな」
レイナウトがニヤリと微笑む、
「はい、では金塊から」
タロウはニヤリと微笑み返し、砂の山となった巨岩に向かった、そして、レイナウトとカラミッドの要求に従ってタロウは砂の山から次々と鉱物を掘り出してはリンドに手渡し、リンドはそれをそのままクンラートに引き渡す、
「・・・信じられん・・・」
クンラートはその一つ一つに目を見開き、従者達もザワザワと落ち着きが無い、クンラートがすぐに持ち切れなくなり次々に従者に手渡す為、従者達も貴重な鉱物を手にしてその質と量に驚くばかりである、
「これはまた、この巨岩は随分と貯め込んでいたようだな」
レイナウトが厭らしく微笑んだ、
「そのようですね、前回の倍は掘り出されております」
カラミッドも呆れている、
「そうなのか?」
クンラートは巨大な宝石の原石を手にして呆然としていた、
「はい、昨晩もお話ししましたが、巨岩によってその内容物は違うだろうとの事です、都合、これで砕かれた巨岩は三つになりますが・・・今後考えていくべきは・・・」
「それは分かっておる、より効率的な採掘・・・採取方法であったな」
「はい、そうなります」
「しかし・・・いや・・・これはあれか先程の転送陣か、あれとは違うのだな?」
「と言いますと?」
「誰にでもできるかどうかだ、あれのように数人しか出来ない使えないでは意味が無い」
「あっ、それは確かに、タロウ殿はある程度魔力のある者であれば、修練次第で砕く事は難しくないと・・・さらに、このように掘り出すのも土魔法に長けた者であれば・・・これも修練次第であると」
「なるほど・・・」
「その上この砂ですね、これもまた良い原材料になります」
「・・・そうか、モルタルにしろコンクリにしろガラスにしろ使えるのか・・・」
「その可能性があります、また、表面は砂ですが中心部はまた違うらしく、それらの研究も必要との事で」
「分かった・・・有用である事は理解した、しかし・・・」
タロウがこんなもんかなと腰を上げた、タロウが見る限りこの巨岩の中にある鉱物は粗方掘り出したようで、これ以上はカラミッドの言葉通り、砂の山であった、しかし、その砂も厳密に言えば中心部と外側では質が大きく異なっており、また、鉱物として固まっていないだけで他の貴重な物質も砂状か小石状でまとまっている様子である、それもまたタロウから見れば貴重な素材であった、そちらの方がタロウの世界では珍重されたであろうものばかりで、それらを有効活用できる程にこちらの世界の科学技術は発達していない、もしかしたらカトカやこちらで言う錬金術師に聞けば垂涎ものの素材かもしれないが、タロウはそちらの知識は薄かった、興味が無い訳ではないが、ゆっくり学ぶ機会が無かったのである、いずれ時間がとれた時にでも色々と弄ってみたいとは考えていたりする、
「最後ですね」
タロウは手にした巨大な無色の魔法石をリンドに手渡す、要望に沿って掘り出していたら最重要な品が最後になってしまった、
「それがそうなのか?」
クンラートがリンドが手にした刺々しい岩塊を見つめた、
「はい、こちらが無色の魔法石と呼んでいる品です、この岩の中心あって、どうやらこの荒野の原因になるのではないかと推察されております」
リンドが注釈をつけてクンラートに手渡した、
「・・・確かに、なるほど、あれか、赤色のあれと似ているが・・・ただの水晶にも見える・・・」
「はい、そこが難しい所です、私共も研究しておりますが、まだまだこれから」
「だろうな・・・いや、これは・・・」
とクンラートは息を呑んだ、目にした光景はあまりにも常識外れであった、ヘルデルの城でモニケンダムから送られた金塊のあまりの巨大さと質の高さに度肝も抜かれ、さらに付された文には先代で実父であるレイナウトの署名がある、レイナウトが何故モニケンダムにいるのかがまず不可解であったが、あの放蕩親父である、どうせお忍びで遊びに行ったのであろうと適当に納得し、問題の金塊とその鉱山に関してはこれは王国に対する武器になると勇んで足を運んだのだ、それだけの価値がある問題である、カラミッドを呼び寄せる事も出来たのであるが、その鉱山を確認するのも必要と判断し、またそうするようにとレイナウトの意見もある、そしてこうして来てみれば昨晩から続けざまに目が回る事態であった、全てを受けいれて理解しろというのがまず難しい、まして、その全てに既に王族が絡んでいる、さらには帝国なる敵国までがその剣を研ぎ澄ましているらしい、混乱するなと言うのが無理な話しであった、
「さて、では、焼け跡の軍団基地へ、クロノス殿下がお待ちです」
リンドがニコリと微笑む、
「・・・うむ・・・いや、待て・・・少し考えさせてくれ、腰を下ろせる場所はあるか・・・」
クンラートは無色の魔法石を従者に手渡す、その目は驚愕のそれを超え、困惑のそれへと変わっていた、どうやらやっとレイナウトとカラミッドからの報告を現実の事として受け止められたらしい、
「はい、では、宿舎の一階へ、食堂室があります、もてなしは難しいですが、お茶を用意させましょうか?」
「あ・・・あぁ、頼む」
クンラートはサッと踵を返し宿舎へ向かった、他一同もそれに倣う、レイナウトとカラミッドはタロウに軽く微笑みかけてその後を追った、礼のつもりなのであろう、タロウも笑顔で小さく会釈で返した、そして、
「・・・こんなもんで良かったかな?」
リンドにソッと確認した、
「そうですね、想像するに・・・私でも・・・ほら、こんなに一度にあれだこれだと言われたら混乱するしかありませんよ」
「だよねー・・・分かる気がするなー」
「まぁ・・・ここは公爵様に合わせましょう、先代公爵様も伯爵様もおります」
「そだね、あっ、クロノスは?」
「軍団基地です」
「そっか、そう言ってたね、他には誰か来てるの?」
「メインデルト軍団長他・・・お歴々です」
「ありゃ・・・じゃ、逃げるか・・・」
「駄目ですよ、新しい方針が暫定ですが策定されております、目を通して下さい、相談役、それと公爵との会合の席にも立ち会って頂きます、新任の相談役が二人ともいないとなるとそれはそれで問題ですから」
リンドがニヤーと意地悪そうな笑みを浮かべ、アー・・・ルーツは今日まで休みだっけかとタロウは覚悟を決めるしかなかった。
「どういう事だ」
クンラートの驚愕の叫びが荒野に響き、その従者達は言葉も無く固まっている、
「こういうものらしい、いやはや困ったものだよ」
レイナウトが静かに呟く、
「騎士団長、いや、リンド、説明を求める、王族はこんなものを隠していたのか」
クンラートの鋭い視線がリンドに向かった、
「隠していた訳ではありません、しかし、公表はしていない以上そう受け取られても無理はないかと・・・」
リンドが冷静に答えた、その後ろに控えるタロウはまぁそうだよなーと素知らぬ顔である、
「それを隠しているというのだ、するとあれか、クロノスもボニファースもこれを使って行き来していたという事か」
「それはその通りでございます」
「・・・なんと・・・いや・・・」
クンラートがリンドを睨みつけたまま大きく顔を歪ませた、クンラートとその従者、レイナウト、カラミッドの従者達は公務時間開始の鐘と同時にイフナースの屋敷を訪れた、荒野の視察の為である、迎えたのはリンドであった、今日クンラートに対して様々な情報開示をすることは事前に打ち合わせされており、クンラートの理解を待つ為時間をとる事も確約されている、リンドはレイナウトととの関係から分かる通り、先の大戦の経緯もあってクンラートにも覚えはよい、大戦終結時には王国軍内で扱いが悪くなっていたリンドをクンラートは直々に勧誘したほどである、それは丁重に断られているが、後、クロノスの直属になったと聞き、クンラートはボニファースも人を見る目はあるようだと苦々しく微笑んだものである、而してリンドとの邂逅を喜ぶ間もなく、一行は荒野への転送陣を潜った、そしてそのあまりにもな状況にクンラートは叫ばざるを得ず、また、昨晩のカラミッドとレイナウトからの報告を完璧に補完するその魔法技術に歯噛みするしかなかったようだ、
「まぁ・・・リンド殿から聞く限り、あれを扱えるのは数人であるらしい、故に・・・例え公表したとしてもそれほど便利にはならんであろう」
レイナウトがクンラートを諫めた、隣りのカラミッドも難しい顔で頷いている、実際に試しにどうぞと初めて魔法陣を使用した際にリンドから勧められ、その誘いに乗っておそるおそると魔法陣を起動しようと触れたのであるがうんともすんとも言わなかった、これはと思い、従者の中でも魔力に長けた者に代わったがそれでも反応すらしない、そうけしかけたリンドがやり過ぎると倒れますよと涼しい顔で微笑み、なるほど、扱うどころか起動するだけでも人を選ぶ難しい技術である事を身を以て理解させられたのであった、
「そうなのか?」
「はい、先代様のお言葉通りです、さらに言えば例え万人に扱える品であったとしても、経済的な面で大きく世の中を変える品でもあります、扱いはより慎重になったでしょう」
「・・・経済?」
「はい、あらゆる流通を担う商会、さらには各街道の宿場町、その宿場町を主な収益としている領地等々・・・それらは王国の経済の一部となっています、転送陣はそれらを一掃しうる技術ですから」
「確かにな・・・しかし、それ以上に新たな仕組みを構築すれば・・・いやここは経済では無い、あれか、リンド、王族もクロノスもこれを好きに使っているのか?」
「はい、それは否定致しません、故に今回の問題にも対処が早かった、もしこれがなければ未だ伝達文の交換しか出来ておらず、本日この荒野にこうして立つ事も無かったと考えます」
「そうじゃな、すると恐らく来年の早々にはモニケンダムは蹂躙されておった」
「確かに・・・」
レイナウトとカラミッドが苦々しく頷く、
「それは聞いたが、しかし、事実なのであろうな」
「昨晩お伝えした通りであります」
「だな、それこそ、こうしてこの地に立っている事、それこそが証左となろう、昨晩は自分で話しておいて信じろというのが無理だなと思えるほどの・・・絵空事であったと思うが・・・あの転送陣があれば難しくはない・・・どころか全ての辻褄が合うというものでな・・・まして陛下やクロノス殿下が遊びに来ていたらしいのだ・・・この問題が起こる前からな・・・まったく、ふざけた話しよ・・・」
「・・・確かにな・・・」
クンラートは大きく顔を歪めたまま振り返り荒野を遠く眺めた、クンラートがこの地を視察するのはこれで二度目である、一度目はまだ十代の頃であったと思う、レイナウトに連れられ旧アイスル王国領内を巡視した折で、その時には若さゆえの感受性もあり、なんと痛々しく不毛な土地であろうかと悲しく感じた記憶がある、それも聞く限り広大であった、荒野の果てとされている巨大な河と湖はヘルデルから王都に向かうよりも遠く、また、その先も荒野であるらしい、どのような経緯でこうなったのかも分からず、人も住めない土地であると聞き、この世の果てとはまさにこのような土地を指すのであろうと圧倒されてしまったものだ、
「・・・フン・・・で、この荒野が鉱山になると・・・いう事であったな?」
クンラートが軽く混乱しつつも取り合えず目の前の問題を提起した、今回わざわざモニケンダムに足を運んだ一つ目の問題である、
「はい、では早速」
リンドが振り返りタロウが小さく頷いた、クンラートの従者とカラミッドの従者達の視線がタロウに集まる、先程からシレっとリンドの背後に控えているいかにも平民風の髭面の男である、妙に体格が良くクンラートを前にしても礼儀はあるがかしずく素振りも見せず、またレイナウトとカラミッドはそれが当たり前かのように特に指摘する事も非難する事も無い、一体この男はなんなのだと訝しく思うのも無理はない状況であった、
「失礼します、まずは・・・」
とタロウはさてどうしようかなと周囲を見渡し、あれが良いかとやや離れた場所にある巨岩を見定めた、
「皆さんはここで、あの巨岩に致します」
ニコリとそう宣告し、タロウはスタスタとその巨岩に歩み寄る、リンドがそのまま見送った為、他の者達も動けなかった、
「・・・リンド、あの男は?」
クンラートも流石に疑問を口にする、リンドの後ろに控えているのを確認し、はてどこかで見た顔だなと感じていた、リンドが特に紹介する事も無く、レイナウトからもカラミッドからも説明する事が無かった為、荒野の施設の管理人かなにかと勝手にそう判断していたのである、
「はい、詳細は後程・・・しかし、恐らくは面会した事があるかと思います」
「・・・そうなのか?」
「はい、その名を聞けば思い出すかと、タロウと申します」
「ムッ・・・タロウ・・・」
奇妙な響きの名前である、少なくともクンラートの周辺にいる者の名前ではなく、恐らく王国でも珍しい部類の名前であろう、クンラートは確かにどこかで聞いたなと眉を顰めた、
「始まりますね」
タロウが一度こちらを振り返り、リンドが大きく手を振った、了解の意である、
「皆さん、少々、騒がしいです、場合によっては酷く汚れますので、御覚悟を」
リンドがニコリと一行を見渡し、ハッ?と一同は不思議そうにリンドを見つめる、確かにと頷くのはレイナウトとカラミッド、その従者の幾人かで、しかし、その者達も特に身構える事は無い、充分に距離をとっていると判断している為である、そしてタロウはまず巨岩に向けて大きく手を翳した、なにやら儀式めいて見えるが、これは三度目という事もあり、前回、前々回の反省から軽い結界魔法を張る為のものである、流石のタロウも学習しているという事なのであろう、初回は致し方ないとしても二回目のそれでも砂を浴びてしまった、三度それを続ければリンドは勿論、クロノスにも馬鹿にされてしまう、タロウにもそれなりにプライドというものもあれば学習能力もあったという証左であった、そして、こんなもんかなとタロウは頷くと巨岩の元に片膝を着き、次の瞬間、
ボフッ
と何とも気の抜けた破裂音が荒野を震わせ、巨岩が砂の柱へと姿を変えた、オオッと一同は驚きの声を上げる、
「なんと・・・」
「これは何度見ても・・・」
「異様・・・ですな」
クンラートは目を丸くするが、レイナウトとカラミッドはまったくと顔を顰める、前回もそうであったがタロウはいとも簡単に難しい事をやってみせている、その様はどうにも遊んでいるようにしか見えない、そしてタロウがゆっくりと腰を上げ、その眼前にそびえる砂の柱が落ち着いた頃合いで、
「もう大丈夫そうですね、皆さん、あちらへ、何の仕掛けも無い事を御確認下さい」
リンドが先に立ってタロウへと歩み寄る、今更仕掛けもクソもあるかとレイナウトとカラミッドは頬を引きつらせた、その仕掛けとやらが何を意味するかは理解できるが、その必要性が理解できない、まったくふざけた話しばかりである、
「さて、では、どうしましょうか」
一行が近づくとタロウは揉み手になって微笑んだ、巨岩の粉砕は思った通りに上手く行った、ここは褒められても不思議では無いが、おっさんどもに褒められても嬉しくはない、故に自分で自分を褒めておこう等と内心で思っていたりする、自分もおっさんだけどな等とも考えているあたり、恐らく徹夜の影響が表れてもいた、
「金塊からだろうな」
レイナウトがニヤリと微笑む、
「はい、では金塊から」
タロウはニヤリと微笑み返し、砂の山となった巨岩に向かった、そして、レイナウトとカラミッドの要求に従ってタロウは砂の山から次々と鉱物を掘り出してはリンドに手渡し、リンドはそれをそのままクンラートに引き渡す、
「・・・信じられん・・・」
クンラートはその一つ一つに目を見開き、従者達もザワザワと落ち着きが無い、クンラートがすぐに持ち切れなくなり次々に従者に手渡す為、従者達も貴重な鉱物を手にしてその質と量に驚くばかりである、
「これはまた、この巨岩は随分と貯め込んでいたようだな」
レイナウトが厭らしく微笑んだ、
「そのようですね、前回の倍は掘り出されております」
カラミッドも呆れている、
「そうなのか?」
クンラートは巨大な宝石の原石を手にして呆然としていた、
「はい、昨晩もお話ししましたが、巨岩によってその内容物は違うだろうとの事です、都合、これで砕かれた巨岩は三つになりますが・・・今後考えていくべきは・・・」
「それは分かっておる、より効率的な採掘・・・採取方法であったな」
「はい、そうなります」
「しかし・・・いや・・・これはあれか先程の転送陣か、あれとは違うのだな?」
「と言いますと?」
「誰にでもできるかどうかだ、あれのように数人しか出来ない使えないでは意味が無い」
「あっ、それは確かに、タロウ殿はある程度魔力のある者であれば、修練次第で砕く事は難しくないと・・・さらに、このように掘り出すのも土魔法に長けた者であれば・・・これも修練次第であると」
「なるほど・・・」
「その上この砂ですね、これもまた良い原材料になります」
「・・・そうか、モルタルにしろコンクリにしろガラスにしろ使えるのか・・・」
「その可能性があります、また、表面は砂ですが中心部はまた違うらしく、それらの研究も必要との事で」
「分かった・・・有用である事は理解した、しかし・・・」
タロウがこんなもんかなと腰を上げた、タロウが見る限りこの巨岩の中にある鉱物は粗方掘り出したようで、これ以上はカラミッドの言葉通り、砂の山であった、しかし、その砂も厳密に言えば中心部と外側では質が大きく異なっており、また、鉱物として固まっていないだけで他の貴重な物質も砂状か小石状でまとまっている様子である、それもまたタロウから見れば貴重な素材であった、そちらの方がタロウの世界では珍重されたであろうものばかりで、それらを有効活用できる程にこちらの世界の科学技術は発達していない、もしかしたらカトカやこちらで言う錬金術師に聞けば垂涎ものの素材かもしれないが、タロウはそちらの知識は薄かった、興味が無い訳ではないが、ゆっくり学ぶ機会が無かったのである、いずれ時間がとれた時にでも色々と弄ってみたいとは考えていたりする、
「最後ですね」
タロウは手にした巨大な無色の魔法石をリンドに手渡す、要望に沿って掘り出していたら最重要な品が最後になってしまった、
「それがそうなのか?」
クンラートがリンドが手にした刺々しい岩塊を見つめた、
「はい、こちらが無色の魔法石と呼んでいる品です、この岩の中心あって、どうやらこの荒野の原因になるのではないかと推察されております」
リンドが注釈をつけてクンラートに手渡した、
「・・・確かに、なるほど、あれか、赤色のあれと似ているが・・・ただの水晶にも見える・・・」
「はい、そこが難しい所です、私共も研究しておりますが、まだまだこれから」
「だろうな・・・いや、これは・・・」
とクンラートは息を呑んだ、目にした光景はあまりにも常識外れであった、ヘルデルの城でモニケンダムから送られた金塊のあまりの巨大さと質の高さに度肝も抜かれ、さらに付された文には先代で実父であるレイナウトの署名がある、レイナウトが何故モニケンダムにいるのかがまず不可解であったが、あの放蕩親父である、どうせお忍びで遊びに行ったのであろうと適当に納得し、問題の金塊とその鉱山に関してはこれは王国に対する武器になると勇んで足を運んだのだ、それだけの価値がある問題である、カラミッドを呼び寄せる事も出来たのであるが、その鉱山を確認するのも必要と判断し、またそうするようにとレイナウトの意見もある、そしてこうして来てみれば昨晩から続けざまに目が回る事態であった、全てを受けいれて理解しろというのがまず難しい、まして、その全てに既に王族が絡んでいる、さらには帝国なる敵国までがその剣を研ぎ澄ましているらしい、混乱するなと言うのが無理な話しであった、
「さて、では、焼け跡の軍団基地へ、クロノス殿下がお待ちです」
リンドがニコリと微笑む、
「・・・うむ・・・いや、待て・・・少し考えさせてくれ、腰を下ろせる場所はあるか・・・」
クンラートは無色の魔法石を従者に手渡す、その目は驚愕のそれを超え、困惑のそれへと変わっていた、どうやらやっとレイナウトとカラミッドからの報告を現実の事として受け止められたらしい、
「はい、では、宿舎の一階へ、食堂室があります、もてなしは難しいですが、お茶を用意させましょうか?」
「あ・・・あぁ、頼む」
クンラートはサッと踵を返し宿舎へ向かった、他一同もそれに倣う、レイナウトとカラミッドはタロウに軽く微笑みかけてその後を追った、礼のつもりなのであろう、タロウも笑顔で小さく会釈で返した、そして、
「・・・こんなもんで良かったかな?」
リンドにソッと確認した、
「そうですね、想像するに・・・私でも・・・ほら、こんなに一度にあれだこれだと言われたら混乱するしかありませんよ」
「だよねー・・・分かる気がするなー」
「まぁ・・・ここは公爵様に合わせましょう、先代公爵様も伯爵様もおります」
「そだね、あっ、クロノスは?」
「軍団基地です」
「そっか、そう言ってたね、他には誰か来てるの?」
「メインデルト軍団長他・・・お歴々です」
「ありゃ・・・じゃ、逃げるか・・・」
「駄目ですよ、新しい方針が暫定ですが策定されております、目を通して下さい、相談役、それと公爵との会合の席にも立ち会って頂きます、新任の相談役が二人ともいないとなるとそれはそれで問題ですから」
リンドがニヤーと意地悪そうな笑みを浮かべ、アー・・・ルーツは今日まで休みだっけかとタロウは覚悟を決めるしかなかった。
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オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。
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*カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております
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