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プロローグ 次元宇宙

帰途にて 3

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「・・・そうだ、お返しがあったんだ」
これをとアヤコの前に箱を置く、開けてみてと続けた。

「えぇー、何ですかー」

アヤコは一転嬉しそうにそれを手に取る、

「うーーん、お気持ち返し?」

「お洒落なパッケージですね、あの星の人達はパッケージに拘りがあるんでしょうか?中身より凝ってるような気がします」

「そう?」

「えぇ、恐らく未だ現物展示の販売方法であるからかなと邪推しますが、本国では権利を購入してレプリで再生が主流ですし」

「あまり、買い物したことがないからなぁ、大概支給品で間に合うし、書物の類は読み放題だし、種と土壌細菌位かな購入するの」

「種?ですか、あぁお好きでしたね家庭菜園」

「うん、種と苗かなそれと土壌細菌、あそこらへんは生物扱いで再生不可じゃん、プランターと土壌は再生できるけど、なもんで種のパッケージはそこそこ凝ってるよ、専用プランターと推奨関連商品の説明とか書いてるし」

「もしかして、種毎にプランター再生してるんですか?」

「うん、」

「それでプランターばかり山になってるんですね、あの部屋、いつ片付けてあげようかと思ってました、ちゃんと返還しないと損ですよ」

「うん、戻ったらね、多分」
うんうんと親子のような会話になった、どうも最近アヤコとはこんな感じになるなと感じる。

「それより見てみてよ、・・・もしかして、開け方が分からない?」
と促す、箱はアヤコの手の中で所在なげであった。
失礼なとムッとした顔をして、箱を弄る・・・、開かなかった。

「やっぱり、俺も最初開けられなかった」
と笑いつつ箱を受け取り上下にスライドさせて差し出す。

「わ、わ、わぁー」
中を見た瞬間アヤコの顔は喜びと驚きに溢れる、コロコロと変わる表情がとても愛らしく見えた。

「いいんですか?ホントですか?綺麗です、かわいいです」

「お気に入った?」
君の為に探してきたんだよとキメ顔をしてみた、アヤコは見てなかったし聞いていないようで、

「わー、すごいです、これ雑誌に載ってたのです、こんなに小さかったんだ、繊細な細工です、それに輝きが凄いです、あぁーとってもかわいい」
踊りだしそうな勢いであった。

「・・・それは、良かったね」
キーツは紅茶に手を伸ばす、少々寂しい。
暫くの間、アヤコはキラキラと輝く瞳でネックレスを見つめ続け、やっと顔を上げた、口元に微妙な笑みが見える。

「これペアですよね、お揃いですよね」

「・・・?、そういうものではないの?」

アヤコの意図する事が分からずに疑問で答える。

「ペアネックレスですよ、白いのが女性向け、黒いのが男性向けです」
と箱をこちらへ向ける。

「・・・2本で一組かと思った」

「同じネックレスを2本着けるんですか?」

「そういうお洒落かと・・・」

「斬新ですね・・・、あぁ褒めてないですよ」
微笑が若干冷笑に変わっている。

「これは男女別なのです、なので2人で分けるべきです」

「・・・シェアってやつ?」

「・・・違います・・・」
決定的に呆れられた。

何とか格好つけようと話題を探すもこれといって良い言葉が出ずにいると、まぁいいですとアヤコは言い、白いネックレスを取り出すと、着けてくださいと背を向けながら後ろ髪をかき上げる。
キーツはネックレスを受け取りつつ、アヤコの細く白いうなじを見つめる。何度も触れた筈のそれはそれでも尚魅力的であった上に、着衣での無防備な状態に新鮮な興奮を覚えた。

「・・・着け方わかります?」

「多分、大丈夫」
暫く呆っと眺めていたキーツをアヤコが促す、キーツは誤魔化す様にそう言って立ち上がると、ネックレスの留め具を外しアヤコの首元へチェーンを回した、長い黒髪を巻き込みつつ留め具を止める。アヤコはチェーンから長い黒髪を引き抜き、軽く整えつつ向き直る。

「・・・如何でしょう?」
俯きペンダントトップを見詰め、はにかみながら聞いてくる。

「似合ってる、とても・・・」

「えへへ、嬉しいです」
だらしない笑みを浮かべつつ、頬を赤く染める。
キーツもその笑みにつられてか気恥ずかしさを感じ頬が熱くなった。

「では、次はこれです。着けてあげます」
すっともう一つのネックレスを取り上げる。

座ってくださいと微笑むアヤコに否を唱える事は出来ず、座りなおして背を向ける。
こう?とアヤコに問いかけると同時に細い腕に包まれいた、離れると首に違和感を感じる。

「こっち向いて下さい」

「・・・なんか、かゆい・・・」
照れ隠しにどうでも良い事を呟きながら向き直る。
良い感じですよとアヤコは言いながらペンダントトップの配置バランスを整えてくれる。

「なんか違和感がね、というかしっくりこない」

「慣れです、お風呂と就寝時は外した方がいいとは思いますよぉ」

「えっそれ以外は着けとくの?」
勿論ですよ、と不思議そうな顔をする。お洒落って大変なのねと溜息を吐いてみせると、

「これはお洒落では無いのです」

「んじゃ、なにさ?」

「・・・絆の約定です」
そう言って抱き着かれた、ぎゅうっと力が込められる、

「照れてるの?」
アヤコのつむじを見ながらそう言ってみた。

「黙って下さい、今、・・・幸せを感じているのです」

「・・・そうか・・・なら」
キーツはアヤコを抱き締め、頭頂部へ口付けをする、アヤコは答えるようにこちらを見上げた。潤んだ瞳を見つめ返し唇を合わせる。

「・・・ホントなら・・・」
アヤコは言いつつ、キーツの肩に顔を預ける。

「・・・指輪の方が良いのですよ・・・」
とアヤコは続けた。

「どういう事?」

「地球での風習です、結婚指輪と言うそうです。婚姻関係を結んだ夫婦は同じ指輪をするそうです」

「・・・あぁ、ブリーフィングて聞いたな、不思議な風習だね、そういえば指輪している人多かったかな」

「駐在員さんも着けてました、社会的信用の為とか言ってましたけど」

「・・・なら、返品して指輪にしてもらうか」
アヤコはきっとキーツを見上げ、

「嫌です、これが良いです、とても気に入りました、返品は却下です」
と早口で捲し立てる、

「なら、嬉しいかな、似合わない買い物が役に立ったようだ」
このネックレスがこの場に来る迄の物語を思い出す、言葉巧みに買わされたものである事を知られたら、この抱擁は無かったかもしれない。

「・・・それに返品は暫く出来ませんよ、もう何マイクロGX離れているか・・・」

「それもそうだ」

「なので、本星に戻ったら、指輪も下さい、勿論ペアですよ、一緒じゃないと嫌です」

「初めてかな、おねだりされたの」

「・・・どういう意味か分ってますか?」
アヤコの瞳を覗き見る、潤んだ瞳の中に不安が感じられた、さすがのキーツも察したようである。

「・・・結婚しようか・・・」
キーツは恐る恐る口にする、ややあって、

「はい」
とアヤコは快活に答える、瞳の中の不安が安堵に変わっていた。
キーツは再びアヤコを強く抱きしめ、アヤコもそれに答える。
二人は暫し抱き合って、名残惜し気に体を離す、両手を緩く繋いだ状態で二人は共に恥ずかし気に俯いていた。

「・・・何か、照れるね・・・」
沈黙に耐え兼ねたようにキーツは顔を上げた、

「・・・そうですね、・・・どうしましょうか?」
アヤコも顔を上げる、目には涙が浮かんでいた、普段のすました美貌が複雑な感情を奥に秘めつつ可愛らしく歪んでいる。

「どうしたの?、らしくない酷い顔」
えっホントですかと顔を隠そうとするアヤコの手を離さずにいると、アヤコは顔と身を捩りつつキーツの視線から逃れようとする。

「・・・やだ、止めてください」

「何をさ?」

「見ないで下さい・・・離して下さい」

「嫌です、見たいです、可愛いですよ、とっても」

「ヤ、嘘です、酷いっていいました」

「うん、えーと、ブサカワってやつ?」

「・・・それ違います、と思います」

「えーー、可愛いのに」
とキーツは手を離す、アヤコは背を向け涙を拭った。

少しばかりからかい過ぎたかなとキーツは反省し、どう声を書けようか思案するも良い言葉が見付からず、何とも居た堪れない空気が二人を包んでいく。アヤコは泣いているのか両手で顔を覆ったまま身じろぎもせず、キーツに背を向けたままであった。
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