婚約破棄されたのですが、甘くない溺愛ルートですか?

パリパリかぷちーの

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「ヒッヒッヒ……見つけたぞ、10億の首だ」

「油断してるぜ。まさか、お茶の時間に襲撃されるとは思うまい」

ガレリア公爵城の裏庭。

茂みの中に、黒装束の男たちが5人、潜んでいた。

彼らは大陸でも名うての暗殺者集団『黒い牙』。

王宮がかけた懸賞金に目が眩み、国境を越えてやってきたのだ。

「いいか、合図と同時に飛び出すぞ。女を生け捕りに……」

リーダー格の男が指示を出そうとした、その時。

「3番テーブル、紅茶のおかわり入ります」

「イエッサー!」

頭上から、妙に明るい声が降ってきた。

「あ?」

男たちが顔を上げると、そこにはティーポットを持ったメイド(元・暗殺者っぽい身のこなし)が立っていた。

「あら、お客様ですか? アポイントメントは?」

「なっ、気づかれた!? 野郎ども、やれぇ!!」

男たちは短剣を抜き、茂みから飛び出した。

狙うは、テラスで優雅にお茶を飲んでいるソフィエだ。

「覚悟ぉぉぉ!」

彼らが空中に躍り出た、次の瞬間。

カシャァァァァァン!!

「!?」

男たちの視界が、真っ白に染まった。

そして、体が動かない。

「……ほう。紅茶の出し殻のような雑魚だな」

テラスの椅子に座ったまま、アレクシス公爵が指先を向けていた。

男たちは空中で氷の彫像となり、地面にゴロゴロと転がった。

「あだだだだ! つ、冷てぇぇぇ!」

「動けねぇ! なんだこの魔法は!」

男たちは顔だけ氷から出た状態で、芋虫のように身悶えする。

ソフィエはカップを置き、眼鏡のブリッジを中指で上げた。

「……本日3組目ですね。ペースが早くなってきました」

「ああ。そろそろ庭が手狭になってきたな」

アレクシス公爵は、さも「ハエが飛んできた」程度の手軽さで魔法を解除した(ただし拘束は解かない)。

「さて」

ソフィエは立ち上がり、転がる暗殺者たちの前に立った。

手には、いつものバインダー(裏紙)を持っている。

「ようこそ、ガレリアへ。歓迎いたしますわ」

「な、なんだ貴様! 俺たちをどうする気だ! 殺すなら殺せ!」

リーダーが喚く。

ソフィエはニッコリと微笑んだ。

「殺す? とんでもない。貴重な『資源』を無駄にはしません」

「し、資源……?」

「はい。面接を始めます」

ソフィエはペンを取り出した。

「お名前と、得意なスキルを教えてください。隠密行動? 鍵開け? それとも体力自慢?」

「はぁ!? 何を言って……」

「答えない場合は、アレクシス様の『絶対零度サウナ』にご招待します」

「答えます!! リーダーのボブです! 得意技は穴掘りと壁登りです!」

「よろしい」

ソフィエはサラサラとメモを取った。

「穴掘りと壁登り……ふむ、適性Aですね」

「て、適性?」

「採用です。おめでとうございます」

「は?」

「貴方達を、我が公爵領直轄『北山鉱山』の採掘スタッフとして採用いたします。主な業務は、魔石の採掘と坑道の補強です」

ソフィエはバインダーから契約書(すでに印刷済み)を取り出し、男たちの顔の前に突きつけた。

「待遇は3食付き、寮完備。ただし、最初の1年は『研修期間(無給)』として、懸賞金分を働いていただきます」

「ふ、ふざけるな! 俺たちは誇り高き暗殺者だぞ! 土木作業なんてできるか!」

「おや、そうですか」

ソフィエは残念そうに首を振った。

「アレクシス様、彼らは不採用だそうです。産業廃棄物として処理をお願いします」

「承知した。粉々にして畑に撒くか」

公爵の手が再び光る。

「やります! やらせてください! 土木大好きです! 前世はモグラでした!」

「契約成立ですね。ここに拇印を」

ソフィエは手際よく5人分の契約書に血判(ちょっと切った)を押させると、控えていた騎士団員を呼んだ。

「バルガス団長、新入りです。現場へ連行……案内してください」

「了解です! おい、お前ら! ツルハシは友達だ! 行くぞ!」

「ひぃぃぃぃ……」

暗殺者たちは涙を流しながら、騎士たちにドナドナされていった。

***

その日の夕方。

捕獲された賞金稼ぎや暗殺者は、総勢50名に達していた。

「……ソフィエ。さすがに多すぎないか?」

アレクシス公爵が、山積みの契約書を見て呆れている。

「いいえ。鉱山開発には最低でも100人は必要です。まだ足りません」

私は電卓(魔道具ではない、ただのそろばん)を弾いた。

「王宮が懸賞金を上げてくれたおかげで、求人広告費がゼロで済みました。向こうから勝手に優秀な(体力のある)人材が来てくれるのですから、感謝状を贈りたいくらいです」

「お前の思考回路は、たまに俺より怖いぞ」

「あら、彼らにとっても悪い話ではありませんよ?」

私は窓の外を見た。

遠くの山の方から、カァン! カァン! と採掘の音が聞こえてくる。

「彼らは裏社会で生きてきた人間です。いつ死ぬかわからない、明日の食事も保証されない生活。それに比べて、ウチは3食昼寝付き(昼寝は15分)、労災完備、定年まで働けます」

「……強制労働だがな」

「『安定した職』とも言います」

その時。

ドタドタとミーナ様が駆け込んできた。

「お姉様! 大変! 今度は『魔法使い』の集団が来たよ!」

「魔法使い? 攻撃魔法が得意な?」

「うん! 『爆裂の魔導師団』だって! お城を爆破するって言ってる!」

「素晴らしい!」

私は立ち上がった。

「ちょうど、新しいトンネルの発破作業員が欲しかったところです! 魔法使いならダイナマイト代が浮きます!」

「……もう、敵が哀れになってきた」

アレクシス公爵が頭を抱える。

「アレクシス様、出番です。彼らの魔法を無効化して、 MP(精神力)が尽きたところをスカウトしますよ!」

「……はいはい。御意」

公爵は諦めたように立ち上がり、マントを翻した。

こうして、ガレリア帝国に集結した悪党たちは、次々と『ソフィエ鉱業』の社員として吸収されていった。

彼らは後にこう語る。

「最初は地獄だと思った。だが、現場監督(ソフィエ様)の差し入れのオニギリが美味すぎて、気づいたら30年勤続していた」と。

北の鉱山は、かつてない活気に包まれようとしていた。

だが、そんな順調な私の前に、ついに「物理攻撃」では解決できない、厄介な敵が現れようとしていた。

それは、アレクシス公爵の『過去の女』を自称する、隣国の王女だった。
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