16 / 25
16
「ヒッヒッヒ……見つけたぞ、10億の首だ」
「油断してるぜ。まさか、お茶の時間に襲撃されるとは思うまい」
ガレリア公爵城の裏庭。
茂みの中に、黒装束の男たちが5人、潜んでいた。
彼らは大陸でも名うての暗殺者集団『黒い牙』。
王宮がかけた懸賞金に目が眩み、国境を越えてやってきたのだ。
「いいか、合図と同時に飛び出すぞ。女を生け捕りに……」
リーダー格の男が指示を出そうとした、その時。
「3番テーブル、紅茶のおかわり入ります」
「イエッサー!」
頭上から、妙に明るい声が降ってきた。
「あ?」
男たちが顔を上げると、そこにはティーポットを持ったメイド(元・暗殺者っぽい身のこなし)が立っていた。
「あら、お客様ですか? アポイントメントは?」
「なっ、気づかれた!? 野郎ども、やれぇ!!」
男たちは短剣を抜き、茂みから飛び出した。
狙うは、テラスで優雅にお茶を飲んでいるソフィエだ。
「覚悟ぉぉぉ!」
彼らが空中に躍り出た、次の瞬間。
カシャァァァァァン!!
「!?」
男たちの視界が、真っ白に染まった。
そして、体が動かない。
「……ほう。紅茶の出し殻のような雑魚だな」
テラスの椅子に座ったまま、アレクシス公爵が指先を向けていた。
男たちは空中で氷の彫像となり、地面にゴロゴロと転がった。
「あだだだだ! つ、冷てぇぇぇ!」
「動けねぇ! なんだこの魔法は!」
男たちは顔だけ氷から出た状態で、芋虫のように身悶えする。
ソフィエはカップを置き、眼鏡のブリッジを中指で上げた。
「……本日3組目ですね。ペースが早くなってきました」
「ああ。そろそろ庭が手狭になってきたな」
アレクシス公爵は、さも「ハエが飛んできた」程度の手軽さで魔法を解除した(ただし拘束は解かない)。
「さて」
ソフィエは立ち上がり、転がる暗殺者たちの前に立った。
手には、いつものバインダー(裏紙)を持っている。
「ようこそ、ガレリアへ。歓迎いたしますわ」
「な、なんだ貴様! 俺たちをどうする気だ! 殺すなら殺せ!」
リーダーが喚く。
ソフィエはニッコリと微笑んだ。
「殺す? とんでもない。貴重な『資源』を無駄にはしません」
「し、資源……?」
「はい。面接を始めます」
ソフィエはペンを取り出した。
「お名前と、得意なスキルを教えてください。隠密行動? 鍵開け? それとも体力自慢?」
「はぁ!? 何を言って……」
「答えない場合は、アレクシス様の『絶対零度サウナ』にご招待します」
「答えます!! リーダーのボブです! 得意技は穴掘りと壁登りです!」
「よろしい」
ソフィエはサラサラとメモを取った。
「穴掘りと壁登り……ふむ、適性Aですね」
「て、適性?」
「採用です。おめでとうございます」
「は?」
「貴方達を、我が公爵領直轄『北山鉱山』の採掘スタッフとして採用いたします。主な業務は、魔石の採掘と坑道の補強です」
ソフィエはバインダーから契約書(すでに印刷済み)を取り出し、男たちの顔の前に突きつけた。
「待遇は3食付き、寮完備。ただし、最初の1年は『研修期間(無給)』として、懸賞金分を働いていただきます」
「ふ、ふざけるな! 俺たちは誇り高き暗殺者だぞ! 土木作業なんてできるか!」
「おや、そうですか」
ソフィエは残念そうに首を振った。
「アレクシス様、彼らは不採用だそうです。産業廃棄物として処理をお願いします」
「承知した。粉々にして畑に撒くか」
公爵の手が再び光る。
「やります! やらせてください! 土木大好きです! 前世はモグラでした!」
「契約成立ですね。ここに拇印を」
ソフィエは手際よく5人分の契約書に血判(ちょっと切った)を押させると、控えていた騎士団員を呼んだ。
「バルガス団長、新入りです。現場へ連行……案内してください」
「了解です! おい、お前ら! ツルハシは友達だ! 行くぞ!」
「ひぃぃぃぃ……」
暗殺者たちは涙を流しながら、騎士たちにドナドナされていった。
***
その日の夕方。
捕獲された賞金稼ぎや暗殺者は、総勢50名に達していた。
「……ソフィエ。さすがに多すぎないか?」
アレクシス公爵が、山積みの契約書を見て呆れている。
「いいえ。鉱山開発には最低でも100人は必要です。まだ足りません」
私は電卓(魔道具ではない、ただのそろばん)を弾いた。
「王宮が懸賞金を上げてくれたおかげで、求人広告費がゼロで済みました。向こうから勝手に優秀な(体力のある)人材が来てくれるのですから、感謝状を贈りたいくらいです」
「お前の思考回路は、たまに俺より怖いぞ」
「あら、彼らにとっても悪い話ではありませんよ?」
私は窓の外を見た。
遠くの山の方から、カァン! カァン! と採掘の音が聞こえてくる。
「彼らは裏社会で生きてきた人間です。いつ死ぬかわからない、明日の食事も保証されない生活。それに比べて、ウチは3食昼寝付き(昼寝は15分)、労災完備、定年まで働けます」
「……強制労働だがな」
「『安定した職』とも言います」
その時。
ドタドタとミーナ様が駆け込んできた。
「お姉様! 大変! 今度は『魔法使い』の集団が来たよ!」
「魔法使い? 攻撃魔法が得意な?」
「うん! 『爆裂の魔導師団』だって! お城を爆破するって言ってる!」
「素晴らしい!」
私は立ち上がった。
「ちょうど、新しいトンネルの発破作業員が欲しかったところです! 魔法使いならダイナマイト代が浮きます!」
「……もう、敵が哀れになってきた」
アレクシス公爵が頭を抱える。
「アレクシス様、出番です。彼らの魔法を無効化して、 MP(精神力)が尽きたところをスカウトしますよ!」
「……はいはい。御意」
公爵は諦めたように立ち上がり、マントを翻した。
こうして、ガレリア帝国に集結した悪党たちは、次々と『ソフィエ鉱業』の社員として吸収されていった。
彼らは後にこう語る。
「最初は地獄だと思った。だが、現場監督(ソフィエ様)の差し入れのオニギリが美味すぎて、気づいたら30年勤続していた」と。
北の鉱山は、かつてない活気に包まれようとしていた。
だが、そんな順調な私の前に、ついに「物理攻撃」では解決できない、厄介な敵が現れようとしていた。
それは、アレクシス公爵の『過去の女』を自称する、隣国の王女だった。
「油断してるぜ。まさか、お茶の時間に襲撃されるとは思うまい」
ガレリア公爵城の裏庭。
茂みの中に、黒装束の男たちが5人、潜んでいた。
彼らは大陸でも名うての暗殺者集団『黒い牙』。
王宮がかけた懸賞金に目が眩み、国境を越えてやってきたのだ。
「いいか、合図と同時に飛び出すぞ。女を生け捕りに……」
リーダー格の男が指示を出そうとした、その時。
「3番テーブル、紅茶のおかわり入ります」
「イエッサー!」
頭上から、妙に明るい声が降ってきた。
「あ?」
男たちが顔を上げると、そこにはティーポットを持ったメイド(元・暗殺者っぽい身のこなし)が立っていた。
「あら、お客様ですか? アポイントメントは?」
「なっ、気づかれた!? 野郎ども、やれぇ!!」
男たちは短剣を抜き、茂みから飛び出した。
狙うは、テラスで優雅にお茶を飲んでいるソフィエだ。
「覚悟ぉぉぉ!」
彼らが空中に躍り出た、次の瞬間。
カシャァァァァァン!!
「!?」
男たちの視界が、真っ白に染まった。
そして、体が動かない。
「……ほう。紅茶の出し殻のような雑魚だな」
テラスの椅子に座ったまま、アレクシス公爵が指先を向けていた。
男たちは空中で氷の彫像となり、地面にゴロゴロと転がった。
「あだだだだ! つ、冷てぇぇぇ!」
「動けねぇ! なんだこの魔法は!」
男たちは顔だけ氷から出た状態で、芋虫のように身悶えする。
ソフィエはカップを置き、眼鏡のブリッジを中指で上げた。
「……本日3組目ですね。ペースが早くなってきました」
「ああ。そろそろ庭が手狭になってきたな」
アレクシス公爵は、さも「ハエが飛んできた」程度の手軽さで魔法を解除した(ただし拘束は解かない)。
「さて」
ソフィエは立ち上がり、転がる暗殺者たちの前に立った。
手には、いつものバインダー(裏紙)を持っている。
「ようこそ、ガレリアへ。歓迎いたしますわ」
「な、なんだ貴様! 俺たちをどうする気だ! 殺すなら殺せ!」
リーダーが喚く。
ソフィエはニッコリと微笑んだ。
「殺す? とんでもない。貴重な『資源』を無駄にはしません」
「し、資源……?」
「はい。面接を始めます」
ソフィエはペンを取り出した。
「お名前と、得意なスキルを教えてください。隠密行動? 鍵開け? それとも体力自慢?」
「はぁ!? 何を言って……」
「答えない場合は、アレクシス様の『絶対零度サウナ』にご招待します」
「答えます!! リーダーのボブです! 得意技は穴掘りと壁登りです!」
「よろしい」
ソフィエはサラサラとメモを取った。
「穴掘りと壁登り……ふむ、適性Aですね」
「て、適性?」
「採用です。おめでとうございます」
「は?」
「貴方達を、我が公爵領直轄『北山鉱山』の採掘スタッフとして採用いたします。主な業務は、魔石の採掘と坑道の補強です」
ソフィエはバインダーから契約書(すでに印刷済み)を取り出し、男たちの顔の前に突きつけた。
「待遇は3食付き、寮完備。ただし、最初の1年は『研修期間(無給)』として、懸賞金分を働いていただきます」
「ふ、ふざけるな! 俺たちは誇り高き暗殺者だぞ! 土木作業なんてできるか!」
「おや、そうですか」
ソフィエは残念そうに首を振った。
「アレクシス様、彼らは不採用だそうです。産業廃棄物として処理をお願いします」
「承知した。粉々にして畑に撒くか」
公爵の手が再び光る。
「やります! やらせてください! 土木大好きです! 前世はモグラでした!」
「契約成立ですね。ここに拇印を」
ソフィエは手際よく5人分の契約書に血判(ちょっと切った)を押させると、控えていた騎士団員を呼んだ。
「バルガス団長、新入りです。現場へ連行……案内してください」
「了解です! おい、お前ら! ツルハシは友達だ! 行くぞ!」
「ひぃぃぃぃ……」
暗殺者たちは涙を流しながら、騎士たちにドナドナされていった。
***
その日の夕方。
捕獲された賞金稼ぎや暗殺者は、総勢50名に達していた。
「……ソフィエ。さすがに多すぎないか?」
アレクシス公爵が、山積みの契約書を見て呆れている。
「いいえ。鉱山開発には最低でも100人は必要です。まだ足りません」
私は電卓(魔道具ではない、ただのそろばん)を弾いた。
「王宮が懸賞金を上げてくれたおかげで、求人広告費がゼロで済みました。向こうから勝手に優秀な(体力のある)人材が来てくれるのですから、感謝状を贈りたいくらいです」
「お前の思考回路は、たまに俺より怖いぞ」
「あら、彼らにとっても悪い話ではありませんよ?」
私は窓の外を見た。
遠くの山の方から、カァン! カァン! と採掘の音が聞こえてくる。
「彼らは裏社会で生きてきた人間です。いつ死ぬかわからない、明日の食事も保証されない生活。それに比べて、ウチは3食昼寝付き(昼寝は15分)、労災完備、定年まで働けます」
「……強制労働だがな」
「『安定した職』とも言います」
その時。
ドタドタとミーナ様が駆け込んできた。
「お姉様! 大変! 今度は『魔法使い』の集団が来たよ!」
「魔法使い? 攻撃魔法が得意な?」
「うん! 『爆裂の魔導師団』だって! お城を爆破するって言ってる!」
「素晴らしい!」
私は立ち上がった。
「ちょうど、新しいトンネルの発破作業員が欲しかったところです! 魔法使いならダイナマイト代が浮きます!」
「……もう、敵が哀れになってきた」
アレクシス公爵が頭を抱える。
「アレクシス様、出番です。彼らの魔法を無効化して、 MP(精神力)が尽きたところをスカウトしますよ!」
「……はいはい。御意」
公爵は諦めたように立ち上がり、マントを翻した。
こうして、ガレリア帝国に集結した悪党たちは、次々と『ソフィエ鉱業』の社員として吸収されていった。
彼らは後にこう語る。
「最初は地獄だと思った。だが、現場監督(ソフィエ様)の差し入れのオニギリが美味すぎて、気づいたら30年勤続していた」と。
北の鉱山は、かつてない活気に包まれようとしていた。
だが、そんな順調な私の前に、ついに「物理攻撃」では解決できない、厄介な敵が現れようとしていた。
それは、アレクシス公爵の『過去の女』を自称する、隣国の王女だった。
あなたにおすすめの小説
【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。
まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」
そう、第二王子に言われました。
そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…!
でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!?
☆★☆★
全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。
読んでいただけると嬉しいです。
異世界に逃げたシングルマザー経理は、定時退勤だけは譲れない
木風
恋愛
DV夫から一歳の娘を抱えて逃げた鈴木優子は、光に飲まれて異世界の王宮へ転移してしまう。
生きるために差し出した武器は簿記と経理経験――崩壊寸前の王宮会計を『複式簿記』で立て直すことに。
ただし譲れない条件はひとつ、「午後五時の定時退勤」。娘の迎えが最優先だからだ。
その姿勢に、なぜか若き国王ヴィクトルが毎日経理室へ通い始めて――仕事と子育ての先に、家族の形が芽吹いていく。
俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)
南野海風
ファンタジー
気がついたら、俺は乙女ゲーの悪役令嬢になってました。
こいつは悪役令嬢らしく皆に嫌われ、周囲に味方はほぼいません。
完全没落まで一年という短い期間しか残っていません。
この無理ゲーの攻略方法を、誰か教えてください。
ライトオタクを自認する高校生男子・弓原陽が辿る、悪役令嬢としての一年間。
彼は令嬢の身体を得て、この世界で何を考え、何を為すのか……彼の乙女ゲーム攻略が始まる。
※書籍化に伴いダイジェスト化しております。ご了承ください。(旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)
ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?
ねーさん
恋愛
アイリスは十六歳の誕生日の前の日に、姉ヴィクトリアと幼なじみジェイドと共に馬車で王宮に向かう途中、事故に遭い命を落とした───はずだったが、目覚めると何故か事故の日の朝に巻き戻っていた。
何度もその日を繰り返して、その度事故に遭って死んでしまうアイリス。
何度目の「今日」かもわからなくなった頃、目が覚めると、そこにはヴィクトリアの婚約者で第三王子ウォルターがいた。
「明日」が来たんだわ。私、十六歳になれたんだ…
厄災烙印の令嬢は貧乏辺境伯領に嫁がされるようです
あおまる三行
恋愛
王都の洗礼式で「厄災をもたらす」という烙印を持っていることを公表された令嬢・ルーチェ。
社交界では腫れ物扱い、家族からも厄介者として距離を置かれ、心がすり減るような日々を送ってきた彼女は、家の事情で辺境伯ダリウスのもとへ嫁ぐことになる。
辺境伯領は「貧乏」で知られている、魔獣のせいで荒廃しきった領地。
冷たい仕打ちには慣れてしまっていたルーチェは抵抗することなくそこへ向かい、辺境の生活にも身を縮める覚悟をしていた。
けれど、実際に待っていたのは──想像とはまるで違う、温かくて優しい人々と、穏やかで心が満たされていくような暮らし。
そして、誰より誠実なダリウスの隣で、ルーチェは少しずつ自分の居場所を取り戻していく。
静かな辺境から始まる、甘く優しい逆転マリッジラブ物語。
【追記】無事完結できました。ありがとうございました。
虐げられた伯爵令嬢は獅子公爵様に愛される
高福あさひ
恋愛
リリム王国辺境伯エインズワース伯爵家の長女、ユーニス・エインズワース。伯爵令嬢であるはずなのに、生活は使用人以下で、まともに育てられたことはない。それでも心優しく強かに育った彼女は、ある日、隣国との国境である森で二人の怪我をした男性を見つけて……?※不定期更新です。2024/5/14、18話が抜けていたため追加しました。
【2024/9/25 追記】
次回34話以降は10/30より、他サイト様と同時の更新予定です。
全てを奪われてしまいそうなので、ざまぁします!!
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
義母に全てを奪われたジュディ。何とかメイドの仕事を見つけるも義母がお金の無心にやって来ます。
私、もう我慢の限界なんですっ!!