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「……皆様、注目してほしい! この美しき学び舎を去る今、僕はついに、真実の愛という名の光を掴み取ったのだ!」
王立学院の大広間。
シャンデリアの輝きさえも、その男の放つ「自称・後光」によって霞んで見える。
リュカ殿下が、中央の壇上でマントをドラマチックに翻した。
その隣には、純白のドレスに身を包んだマリエル様が、まるで魂を異世界に置いてきたかのような虚無の表情で立っている。
会場の視線が、一斉に私へと向けられた。
「リリン・オーブライト公爵令嬢! 君に告げる! 君の嫉妬という名の闇は、僕という太陽を曇らせ、この可憐なマリエルを深く傷つけた! よって今、この場をもって、君との婚約を破棄することを宣言する!」
(……来たわ! 待ちに待った、このセリフ!)
私は周囲が期待するような絶望の叫びを上げる代わりに、そっと扇を閉じた。
そして、事前に練習した「最高に事務的な、心のこもっていない微笑」を浮かべる。
「……承知いたしました、殿下。卒業と同時に婚約破棄、誠におめでたいことでございますわ。つきましては、婚約解消に伴う事務手続き一式、および結納品の返還リストを後ほど公爵家より送付させていただきます。どうぞ、末永くお幸せに」
「……えっ?」
殿下の動きが、ピタリと止まった。
「な、何を言っているんだい、リリン? 泣かないのかい? 『殿下、私の何がいけなかったのですか!』と僕の足に縋り付いて、この床を涙の海に変える予定だっただろう?」
「滅相もございませんわ。殿下の御召し物を汚すなど、公爵令嬢としてあってはならないことです。それに、殿下が『真実の愛』を見つけられたのであれば、それは一国民として、そして一友人として、喜ばしい限りですわ。……ねえ、マリエル様?」
私が視線を送ると、マリエル様がゆっくりと一歩前へ出た。
彼女の目は、完全にハイライトが消えている。
「……ええ。殿下の『真実の愛』、謹んでお受けいたしますわ。これから毎日、朝から晩まで殿下の自叙伝を朗読し、鏡の角度を数ミリ単位で調整する日々……。私、あまりの光栄に、今すぐ感情を封印して石造りになりたい気分です」
「マリエル!? 君、喜びのあまり声のトーンが死んでいるよ! もっとこう、『ああ殿下、私を救い出してくださってありがとう!』という歓喜の旋律を聞かせておくれよ!」
「……歓喜の旋律は、今、私の心の中でポエムとなって消え去りましたわ。さあ殿下、早く断罪を済ませて、あちらのビュッフェにある高級ローストビーフを私に……いえ、私たちに振る舞ってくださいませ」
マリエル様が、殿下の手を冷たい魚のような感触で握り返した。
殿下は、明らかに動揺している。
彼が求めていたのは、二人の令嬢が自分を巡って激しく争い、最終的に自分が「勝利」を宣言するという、最高のエンターテインメントだったのだ。
「ち、違う! こんなはずはない! リリン、君はもっと怒り狂うべきだ! ほら、僕がマリエルの肩を抱いているんだよ? 君の自尊心は、今まさに粉々に砕け散っているはずだろう!?」
「いえ、私の自尊心は、先ほどから公爵家の領地経営に関する収支計算に忙しくて、それどころではありませんわ。……殿下、次の方がお待ちですので、そろそろお話を切り上げてもよろしいかしら?」
私は冷徹な「受付係」のような口調で、殿下を促した。
周囲の生徒たちからは、ひそひそとした囁き声が漏れる。
「リリン様、あんなに冷淡だったかしら?」「なんだか、殿下の方が一人で空回りしているように見えるわね……」
「……くっ、リリン! 君という女は、どこまで僕を翻弄すれば気が済むんだ! その『無関心』という名の武器で、僕のプライドを切り裂こうというのか!」
「……殿下、鏡の中のご自分でも見て、落ち着かれたらよろしいかと思いますわ」
私がそう言った瞬間、会場の端に控えていたエリオットが、片手で顔を覆って震え始めた。
笑いを堪えているのか、それともあまりの茶番に頭を抱えているのか。
「殿下! ご覧ください! エリオットまで、私たちのこの『劇的な別れ』に感極まって震えておりますわ! さあ、このまま握手で別れましょう!」
「握手!? 婚約破棄の最後が、握手だと!? ふざけるな、僕はもっとこう、劇的な……!」
殿下がさらに何かを叫ぼうとしたその時。
「……リュカ。そこまでにしなさい」
会場に響き渡ったのは、国王陛下の重厚な声だった。
「……父上!? いらしていたのですか!」
「当たり前だ。我が息子の卒業パーティー、そして婚約に関する重大な発表があると聞いて、見届けに来た。……だが、リュカ。今の君の姿は、王族としての品格を欠いている。対してリリン嬢の、あの落ち着いた、理知的な対応はどうだ」
「えっ……? あ、いや、これは……」
「リリン嬢は、君の無礼な振る舞いを、その寛大な心で受け流しているのだ。彼女こそが、次期王妃にふさわしい。……リュカ、君との婚約を解消したいと言ったのは、リリン嬢の方からだという話だが?」
「「……えっ!?」」
会場全体が、驚愕に包まれた。
私と殿下の声が、見事に重なる。
ちょっと待って。
私、そんなこと、一言もお父様(公爵)にお願いしたかしら!?
いや、確かにお父様には「殿下のナルシシズムに耐えられません」とは手紙で書いたけれど……!
「……お、俺のせいか?」
遠くで、エリオットが「しまった」という顔をして立ち尽くしている。
……まさか、彼が、裏でお父様に何か言ったの!?
「リリン嬢、君がリュカに見切りをつけたという報告は、公爵から受けている。……リュカ、君がどれだけマリエル嬢を想おうと構わんが、リリン嬢の尊厳をこれ以上傷つけることは、私が許さん」
「な……ななな……」
殿下が、泡を食ったように私と陛下を交互に見た。
形勢逆転。
婚約破棄を突きつけるはずだった殿下は、今や「完璧な婚約者に愛想を尽かされた、情けない王子」という役に、強制的に配役されてしまったのだ。
(……計画と違う! でも、これって……最高の展開じゃない!?)
私は、ハイライトの消えたマリエル様と視線を合わせた。
彼女の瞳には、ほんの少しだけ「やったわね」という希望の光が戻っていた。
波乱の卒業パーティー。
私の「断罪劇」は、予期せぬ方向へと爆走を始めた。
王立学院の大広間。
シャンデリアの輝きさえも、その男の放つ「自称・後光」によって霞んで見える。
リュカ殿下が、中央の壇上でマントをドラマチックに翻した。
その隣には、純白のドレスに身を包んだマリエル様が、まるで魂を異世界に置いてきたかのような虚無の表情で立っている。
会場の視線が、一斉に私へと向けられた。
「リリン・オーブライト公爵令嬢! 君に告げる! 君の嫉妬という名の闇は、僕という太陽を曇らせ、この可憐なマリエルを深く傷つけた! よって今、この場をもって、君との婚約を破棄することを宣言する!」
(……来たわ! 待ちに待った、このセリフ!)
私は周囲が期待するような絶望の叫びを上げる代わりに、そっと扇を閉じた。
そして、事前に練習した「最高に事務的な、心のこもっていない微笑」を浮かべる。
「……承知いたしました、殿下。卒業と同時に婚約破棄、誠におめでたいことでございますわ。つきましては、婚約解消に伴う事務手続き一式、および結納品の返還リストを後ほど公爵家より送付させていただきます。どうぞ、末永くお幸せに」
「……えっ?」
殿下の動きが、ピタリと止まった。
「な、何を言っているんだい、リリン? 泣かないのかい? 『殿下、私の何がいけなかったのですか!』と僕の足に縋り付いて、この床を涙の海に変える予定だっただろう?」
「滅相もございませんわ。殿下の御召し物を汚すなど、公爵令嬢としてあってはならないことです。それに、殿下が『真実の愛』を見つけられたのであれば、それは一国民として、そして一友人として、喜ばしい限りですわ。……ねえ、マリエル様?」
私が視線を送ると、マリエル様がゆっくりと一歩前へ出た。
彼女の目は、完全にハイライトが消えている。
「……ええ。殿下の『真実の愛』、謹んでお受けいたしますわ。これから毎日、朝から晩まで殿下の自叙伝を朗読し、鏡の角度を数ミリ単位で調整する日々……。私、あまりの光栄に、今すぐ感情を封印して石造りになりたい気分です」
「マリエル!? 君、喜びのあまり声のトーンが死んでいるよ! もっとこう、『ああ殿下、私を救い出してくださってありがとう!』という歓喜の旋律を聞かせておくれよ!」
「……歓喜の旋律は、今、私の心の中でポエムとなって消え去りましたわ。さあ殿下、早く断罪を済ませて、あちらのビュッフェにある高級ローストビーフを私に……いえ、私たちに振る舞ってくださいませ」
マリエル様が、殿下の手を冷たい魚のような感触で握り返した。
殿下は、明らかに動揺している。
彼が求めていたのは、二人の令嬢が自分を巡って激しく争い、最終的に自分が「勝利」を宣言するという、最高のエンターテインメントだったのだ。
「ち、違う! こんなはずはない! リリン、君はもっと怒り狂うべきだ! ほら、僕がマリエルの肩を抱いているんだよ? 君の自尊心は、今まさに粉々に砕け散っているはずだろう!?」
「いえ、私の自尊心は、先ほどから公爵家の領地経営に関する収支計算に忙しくて、それどころではありませんわ。……殿下、次の方がお待ちですので、そろそろお話を切り上げてもよろしいかしら?」
私は冷徹な「受付係」のような口調で、殿下を促した。
周囲の生徒たちからは、ひそひそとした囁き声が漏れる。
「リリン様、あんなに冷淡だったかしら?」「なんだか、殿下の方が一人で空回りしているように見えるわね……」
「……くっ、リリン! 君という女は、どこまで僕を翻弄すれば気が済むんだ! その『無関心』という名の武器で、僕のプライドを切り裂こうというのか!」
「……殿下、鏡の中のご自分でも見て、落ち着かれたらよろしいかと思いますわ」
私がそう言った瞬間、会場の端に控えていたエリオットが、片手で顔を覆って震え始めた。
笑いを堪えているのか、それともあまりの茶番に頭を抱えているのか。
「殿下! ご覧ください! エリオットまで、私たちのこの『劇的な別れ』に感極まって震えておりますわ! さあ、このまま握手で別れましょう!」
「握手!? 婚約破棄の最後が、握手だと!? ふざけるな、僕はもっとこう、劇的な……!」
殿下がさらに何かを叫ぼうとしたその時。
「……リュカ。そこまでにしなさい」
会場に響き渡ったのは、国王陛下の重厚な声だった。
「……父上!? いらしていたのですか!」
「当たり前だ。我が息子の卒業パーティー、そして婚約に関する重大な発表があると聞いて、見届けに来た。……だが、リュカ。今の君の姿は、王族としての品格を欠いている。対してリリン嬢の、あの落ち着いた、理知的な対応はどうだ」
「えっ……? あ、いや、これは……」
「リリン嬢は、君の無礼な振る舞いを、その寛大な心で受け流しているのだ。彼女こそが、次期王妃にふさわしい。……リュカ、君との婚約を解消したいと言ったのは、リリン嬢の方からだという話だが?」
「「……えっ!?」」
会場全体が、驚愕に包まれた。
私と殿下の声が、見事に重なる。
ちょっと待って。
私、そんなこと、一言もお父様(公爵)にお願いしたかしら!?
いや、確かにお父様には「殿下のナルシシズムに耐えられません」とは手紙で書いたけれど……!
「……お、俺のせいか?」
遠くで、エリオットが「しまった」という顔をして立ち尽くしている。
……まさか、彼が、裏でお父様に何か言ったの!?
「リリン嬢、君がリュカに見切りをつけたという報告は、公爵から受けている。……リュカ、君がどれだけマリエル嬢を想おうと構わんが、リリン嬢の尊厳をこれ以上傷つけることは、私が許さん」
「な……ななな……」
殿下が、泡を食ったように私と陛下を交互に見た。
形勢逆転。
婚約破棄を突きつけるはずだった殿下は、今や「完璧な婚約者に愛想を尽かされた、情けない王子」という役に、強制的に配役されてしまったのだ。
(……計画と違う! でも、これって……最高の展開じゃない!?)
私は、ハイライトの消えたマリエル様と視線を合わせた。
彼女の瞳には、ほんの少しだけ「やったわね」という希望の光が戻っていた。
波乱の卒業パーティー。
私の「断罪劇」は、予期せぬ方向へと爆走を始めた。
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