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王立アカデミーの卒業記念パーティーは、今年一番の盛り上がりを見せていた。
きらびやかなシャンデリアの下、着飾った貴族の子弟たちが談笑に花を咲かせている。
その輪の中心から少し離れたテラスの近くで、一人の令嬢が静かにグラスを傾けていた。
シュバルツ公爵令嬢、ルーメ・フォン・シュバルツ。
銀灰色の髪を夜会巻きにし、切れ長の紫紺の瞳を持つ彼女は、その冷たい美貌から『氷の令嬢』、あるいは『完璧すぎる悪役令嬢』と密かに噂されていた。
「……退屈ですわ」
誰にともなく呟き、こっそりとテーブルに並んだプチフールに視線を送る。
(あちらのタルト、美味しそうですわね。ですが、王太子妃となる者が軽々しく食い意地を張るわけには……)
そんなことを考えていた、その時だった。
「ルーメ!」
パーティー会場の喧騒を突き破る、ヒステリックな男性の声。
声の主は、この国の第一王子、アラン・フォン・クライネルト。
そして、ルーメの婚約者である。
アランは、肩を震わせる小柄な令嬢を腕に抱き、まっすぐルーメに向かってきた。
ピンクブロンドの髪を持つ、庇護欲をそそる少女。リリア・ベル子爵令嬢だ。
「リリア、もう大丈夫だ。僕が君を守る!」
「うぅ…アラン様ぁ……」
アランの腕の中で、リリアがシクシクと泣き真似、いや、泣いている。
周囲の注目が一気にルーメに集まる。
好奇の視線、非難の視線、面白がる視線。
(……ああ、やっと)
ルーメは内心で、安堵のため息をついた。
(この時を、どれほど待っていたことか!)
「ルーメ・フォン・シュバルツ!」
アランが、まるで舞台役者のように大げさに叫ぶ。
「貴様のような冷酷非情な女を、未来の国母と認めるわけにはいかない!」
(存じておりますわ)
ルーメは、表情筋一つ動かさず、ただ静かにアランを見つめ返す。
その態度が気に食わなかったのか、アランはさらに声を荒げた。
「貴様は! この可憐で心優しいリリアを、事あるごとに虐げてきた!」
「……」
「これ以上、貴様の横暴を許しておくわけにはいかない! よって僕は今この場を借りて宣言する!」
アランは高らかに、リリアを抱きしめながら言い放った。
「ルーメ! 貴様との婚約を、破棄する!」
シン、と会場が静まり返る。
リリアがアランの胸で「ひっく」としゃくりあげる声だけが響いた。
(やっと……!)
ルーメは、込み上げる歓喜を必死に抑え込んだ。
(やっと言いましたわね! この時をどれほど待ったことか!)
王太子妃教育という名の地獄の日々。
カロリー計算された味気ない食事。
王子アランの、頭の悪い機嫌取り。
(それもこれも、今日で終わりですわ!)
「……」
ルーメは、冷ややかに、ただ黙って二人を見つめていた。
きらびやかなシャンデリアの下、着飾った貴族の子弟たちが談笑に花を咲かせている。
その輪の中心から少し離れたテラスの近くで、一人の令嬢が静かにグラスを傾けていた。
シュバルツ公爵令嬢、ルーメ・フォン・シュバルツ。
銀灰色の髪を夜会巻きにし、切れ長の紫紺の瞳を持つ彼女は、その冷たい美貌から『氷の令嬢』、あるいは『完璧すぎる悪役令嬢』と密かに噂されていた。
「……退屈ですわ」
誰にともなく呟き、こっそりとテーブルに並んだプチフールに視線を送る。
(あちらのタルト、美味しそうですわね。ですが、王太子妃となる者が軽々しく食い意地を張るわけには……)
そんなことを考えていた、その時だった。
「ルーメ!」
パーティー会場の喧騒を突き破る、ヒステリックな男性の声。
声の主は、この国の第一王子、アラン・フォン・クライネルト。
そして、ルーメの婚約者である。
アランは、肩を震わせる小柄な令嬢を腕に抱き、まっすぐルーメに向かってきた。
ピンクブロンドの髪を持つ、庇護欲をそそる少女。リリア・ベル子爵令嬢だ。
「リリア、もう大丈夫だ。僕が君を守る!」
「うぅ…アラン様ぁ……」
アランの腕の中で、リリアがシクシクと泣き真似、いや、泣いている。
周囲の注目が一気にルーメに集まる。
好奇の視線、非難の視線、面白がる視線。
(……ああ、やっと)
ルーメは内心で、安堵のため息をついた。
(この時を、どれほど待っていたことか!)
「ルーメ・フォン・シュバルツ!」
アランが、まるで舞台役者のように大げさに叫ぶ。
「貴様のような冷酷非情な女を、未来の国母と認めるわけにはいかない!」
(存じておりますわ)
ルーメは、表情筋一つ動かさず、ただ静かにアランを見つめ返す。
その態度が気に食わなかったのか、アランはさらに声を荒げた。
「貴様は! この可憐で心優しいリリアを、事あるごとに虐げてきた!」
「……」
「これ以上、貴様の横暴を許しておくわけにはいかない! よって僕は今この場を借りて宣言する!」
アランは高らかに、リリアを抱きしめながら言い放った。
「ルーメ! 貴様との婚約を、破棄する!」
シン、と会場が静まり返る。
リリアがアランの胸で「ひっく」としゃくりあげる声だけが響いた。
(やっと……!)
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(やっと言いましたわね! この時をどれほど待ったことか!)
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カロリー計算された味気ない食事。
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(それもこれも、今日で終わりですわ!)
「……」
ルーメは、冷ややかに、ただ黙って二人を見つめていた。
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