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婚約者として、アンテル様と初めて臨む夜会の日がやってきた。国王陛下主催の、年に一度の大規模なものだ。
用意されたドレスは、ヴァレンティン家の色である深い青。夜空を思わせるそのドレスに袖を通し、鏡の前に立つ。そこに映るのは、ラングハイム伯爵令嬢でも、ただのレノアでもない。「アンテル・ド・ヴァレンティンの婚約者」としての私だった。
会場に到着すると、アンテル様が馬車のドアを開けて、無言で手を差し出してきた。
「ありがとう存じます」
その手を取る。触れた彼の手は、想像していたよりも少しだけ温かかった。
シャンデリアがきらめく広間は、着飾った貴族たちで溢れかえっている。私たちが二人で姿を現した瞬間、会場中の視線が突き刺さるのを感じた。
「ヴァレンティン公爵家のアンテル様だわ」
「隣にいるのが、噂の……ラングハイム伯爵令嬢ね」
「お似合いだわ」「でも、アンテル様はずっと笑わないのね」
好奇と羨望、そして少しの揶揄が混じった囁き声が、波のように押し寄せる。
「私のそばから離れるな」
人混みの中、アンテル様が低い声で言った。そして、私の腰に回された手に、ぐっと力がこもる。それはまるで、所有物だと主張するような仕草だった。
「……分かっております」
私たちは、次から次へと挨拶に来る人々に対応していく。アンテル様は相変わらず口数が少ないが、その立ち居振る舞いは完璧で、公爵家の子息としての威厳に満ちていた。私もその隣で、完璧な淑女の笑みを貼り付け、当たり障りのない会話を繰り返す。
まるで、精巧に作られた一対の人形のようだ、とぼんやり思った。
しばらくして、アンテル様が旧知の騎士団長と話し込んでいる隙に、一人の若い侯爵子息が私に近づいてきた。
「レノア嬢、今宵も一段とお美しい。もしよろしければ、次の一曲、私と踊っていただけませんか?」
「申し訳ありません。ですが、私は……」
断りの言葉を口にしようとした、その時だった。
「失礼だが、彼女は私の婚約者だ」
いつの間にか背後に立っていたアンテル様が、私の肩を抱き寄せ、冷たい声で言った。その声には、普段の無愛想とは違う、明確な拒絶と威圧がこもっている。侯爵子息は一瞬で顔色を変え、慌ててその場を去っていった。
「……ありがとうございます、アンテル様」
「言ったはずだ。私のそばから離れるな、と」
彼の腕の中は、不思議と安心できた。契約上の婚約者。そのはずなのに、彼が他の男から私を遠ざけたという事実が、胸の奥を小さく波立たせた。
これは、彼が「婚約者」という役割を演じているだけ。私のことなど、何とも思っていない。
そう頭では理解しているのに、腰に回された彼の腕の力強さが、妙に頭から離れなかった。
用意されたドレスは、ヴァレンティン家の色である深い青。夜空を思わせるそのドレスに袖を通し、鏡の前に立つ。そこに映るのは、ラングハイム伯爵令嬢でも、ただのレノアでもない。「アンテル・ド・ヴァレンティンの婚約者」としての私だった。
会場に到着すると、アンテル様が馬車のドアを開けて、無言で手を差し出してきた。
「ありがとう存じます」
その手を取る。触れた彼の手は、想像していたよりも少しだけ温かかった。
シャンデリアがきらめく広間は、着飾った貴族たちで溢れかえっている。私たちが二人で姿を現した瞬間、会場中の視線が突き刺さるのを感じた。
「ヴァレンティン公爵家のアンテル様だわ」
「隣にいるのが、噂の……ラングハイム伯爵令嬢ね」
「お似合いだわ」「でも、アンテル様はずっと笑わないのね」
好奇と羨望、そして少しの揶揄が混じった囁き声が、波のように押し寄せる。
「私のそばから離れるな」
人混みの中、アンテル様が低い声で言った。そして、私の腰に回された手に、ぐっと力がこもる。それはまるで、所有物だと主張するような仕草だった。
「……分かっております」
私たちは、次から次へと挨拶に来る人々に対応していく。アンテル様は相変わらず口数が少ないが、その立ち居振る舞いは完璧で、公爵家の子息としての威厳に満ちていた。私もその隣で、完璧な淑女の笑みを貼り付け、当たり障りのない会話を繰り返す。
まるで、精巧に作られた一対の人形のようだ、とぼんやり思った。
しばらくして、アンテル様が旧知の騎士団長と話し込んでいる隙に、一人の若い侯爵子息が私に近づいてきた。
「レノア嬢、今宵も一段とお美しい。もしよろしければ、次の一曲、私と踊っていただけませんか?」
「申し訳ありません。ですが、私は……」
断りの言葉を口にしようとした、その時だった。
「失礼だが、彼女は私の婚約者だ」
いつの間にか背後に立っていたアンテル様が、私の肩を抱き寄せ、冷たい声で言った。その声には、普段の無愛想とは違う、明確な拒絶と威圧がこもっている。侯爵子息は一瞬で顔色を変え、慌ててその場を去っていった。
「……ありがとうございます、アンテル様」
「言ったはずだ。私のそばから離れるな、と」
彼の腕の中は、不思議と安心できた。契約上の婚約者。そのはずなのに、彼が他の男から私を遠ざけたという事実が、胸の奥を小さく波立たせた。
これは、彼が「婚約者」という役割を演じているだけ。私のことなど、何とも思っていない。
そう頭では理解しているのに、腰に回された彼の腕の力強さが、妙に頭から離れなかった。
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