偽りの婚約者に愛を誓いますか?

パリパリかぷちーの

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あの丘での出来事以来、私の世界はすっかり色を変えてしまった。

アンテル様。
その名前を心で呼ぶだけで、胸がきゅっと締め付けられる。彼のことを考えると、頬が熱くなり、指先が冷たくなる。

これが「恋」なのだと、もう認めざるを得なかった。

けれど、私の想いとは裏腹に、彼との関係は少しも進展しない。週に一度のお茶会で顔を合わせても、私たちは当たり障りのない会話を交わすだけ。

「今日の紅茶は、ダージリンですのね。とても良い香りですわ」

「ああ」

「次の夜会では、国王陛下が隣国から賓客を招かれるとか」

「聞いている」

完璧な淑女の仮面を被り、完璧な婚約者を演じる私。本当は、もっと違う話がしたい。あなたの好きな歴史の話や、あの丘の話、そして、あの白猫の話が。

でも、できない。

「好きです」

その一言が、どうしても喉から出てこないのだ。

だって、私たちは「契約」で結ばれた関係。家のための政略結婚。それを一番理解しているはずの私が、私情を挟んで彼を困らせてはいけない。もし、この気持ちを伝えて、彼に迷惑だと思われたら?今の、この穏やかな関係さえも壊れてしまったら?

そう思うと、怖くてたまらなかった。

今日も、沈黙の流れるティータイムが終わる。「では、また」と立ち上がる彼の背中を、私はただ見送ることしかできない。

(アンテル様……)

心の中で、何度彼の名前を呼んだだろう。

自室に戻り、窓辺に立つ。彼がくれたベリーのタルトの包み紙を、私は今も大切に取ってある。甘酸っぱい思い出が、喜びと同時に、切なさとなって胸に広がる。

この想いは、伝えられない。伝えられるはずがない。

私は、この恋心を胸の奥深くに閉じ込めて、完璧な「偽りの婚約者」を演じきるしかないのだ。

そう、自分に何度も言い聞かせる。けれど、一度色づいてしまった心は、もう二度と無色透明には戻れないことを、私は知っていた。
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