婚約破棄された悪役令嬢、念願の相談所を始めたら溺愛?

パリパリかぷちーの

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「おいおい、なんだこの貧乏臭い料理は!」

「酒が足りんぞ! 王子の結婚式だろ!?」

「あんな借金まみれの王子、よく人前に出られたものだ。王家の恥さらしだな」

結婚式から続く披露宴会場は、祝福の場というよりは、暴動寸前の酒場のような喧騒に包まれていた。

集まったのは、ジェラルド王子の債権者(商人や裏社会の人間)と、怖いもの見たさで参加した野次馬貴族たち。
彼らは出された料理(コスト削減のため、具の少ないシチューと硬いパン)に文句を垂れ、新郎新婦を嘲笑していた。

高砂席では、ジェラルドが小さくなって震え、ミナだけがマイペースにパンをかじっている。

「……酷い有様だな」

会場の隅で、ラシード公爵がグラス(中身は水)を揺らしながら呟いた。

「これでは披露宴ではない。公開処刑だ」

「ええ。これでは今後の『王子のバイト代』にも影響します。精神的ストレスで倒れられたら、私の債権回収計画が狂いますから」

私はバインダーを閉じた。
そろそろ、この無秩序な動物園を「管理」する必要がある。

「……行きますか」

「止めるか? 衛兵を呼ぶぞ」

「いいえ。私がやります。……ちょうど、新規顧客の開拓(営業)もしようと思っていましたから」

私はドレスの裾を翻し、会場の中央にある演台へと歩み出した。
カツ、カツ、とヒールの音が響く。

演台に立つと、私は手元にあったスプーンで、ワイングラスを強く叩いた。

キンッ!!

鋭い金属音が会場に響き渡る。
ざわめきが一瞬だけ止まり、視線が私に集まった。

「……なんだ、あの女は」
「コンシュ・ワイズマン……元婚約者じゃないか」
「どの面下げて出てきたんだ?」

嘲笑の声が飛ぶ。
私はそれを無視し、魔法拡声器のスイッチを入れた。

「静粛に!!」

凛とした声が、会場の空気をビリビリと震わせた。
予想外の大音声に、野次を飛ばしていた貴族たちが口をつぐむ。

私は会場全体を冷徹な瞳で見回した。
その視線だけで、数人が気まずそうに目を逸らす。

「本日は、ジェラルド殿下とミナ様の披露宴にご出席いただき、誠にありがとうございます。……ですが、先ほどから耳障りな雑音が多すぎますね」

「な、なんだと!?」

太った男爵が立ち上がった。

「雑音とは失礼な! 我々は客だぞ! こんな粗末なもてなしに文句を言って何が悪い!」

「粗末? いいえ、これは『適正価格』です」

私は即答した。

「現在の殿下の資産状況をご存知ですか? マイナスです。本来なら、水一杯すら出せない状況です。それを、私の経営努力とコストカットにより、温かいシチューを提供できている。……感謝こそすれ、文句を言われる筋合いはありません」

「ぐっ……し、しかし、王家の威信というものが……」

「威信で腹は膨れません。見栄で借金は返せません」

私は演台をバンと叩いた。

「いいですか、皆様。ここはただのパーティー会場ではありません。ここは『再生の場』です! 一度は地に落ちた男が、泥にまみれて働き、誠実に借金を返済しようとする、その第一歩なのです!」

私は高砂席のジェラルドを指差した。

「見なさい! あの情けない姿を!」

「ひえっ!?」

ジェラルドがビクッとする。

「彼は王子でありながら、プライドを捨て、私の下でドリル一号のトイレ掃除をしています! 時給銅貨十枚で! その汗と涙の結晶が、今皆様が召し上がっているシチューなのです!」

会場がざわめく。
「トイレ掃除……?」「王子が……?」と驚きの声が上がる。

「それを『貧乏臭い』と笑う資格が、あなたたちにあるのですか!?」

私の声が熱を帯びる。

「そこな伯爵! あなたは先月、領地の橋の修繕費をカジノですりましたね? その借金、まだ返していませんよね?」

「な、なぜそれを……!」

「あちらの商会長! あなたは従業員の給料を三ヶ月未払いにしていますね? そのくせ、愛人には宝石を貢いでいる!」

「ひぃっ!」

私は次々と、野次馬たちの「痛い腹」を探り当て、暴露していった。
ラシード公爵の情報網と、私の調査能力があれば、これくらいのネタはいくらでもある。

「誰しも、叩けば埃が出るものです。……ですが、ジェラルド殿下は逃げなかった! 隠さなかった! 公衆の面前で恥を晒し、それでも生きようとしている!」

私は胸を張って宣言した。

「私は、そんな殿下を……『優良な債務者』として評価します!」

シーン……。
会場が静まり返る。
「人間として」ではなく「債務者として」という評価に、皆が呆気にとられたのだ。

だが、私は構わず続けた。

「そして! ここで皆様にご提案です!」

私は満面の笑み(営業スマイル)を浮かべた。

「皆様の中にも、人に言えないトラブル、返せない借金、隠したいスキャンダルをお持ちの方がいらっしゃるでしょう? 後ろめたい気持ちで、この会場にいる方も多いはず」

ギクッ、という音が会場のあちこちから聞こえる。

「ご安心ください! 私、コンシュ・ワイズマンがすべて解決いたします!」

私は懐から、大量の名刺をばら撒いた。
まるで花吹雪のように、名刺が舞う。

「『ワイズマン万事相談所』は、どんなトラブルも解決します! 借金整理、浮気調査、不祥事の隠蔽工作から、魔獣の飼育相談まで! すべて別料金にて承ります!」

「別料金……!」

「そう! 笑っている場合ではありません! 明日は我が身です! 今すぐご相談を! 今なら『披露宴参加者限定割引』を実施中です!」

私の演説は、もはや披露宴のスピーチではなく、テレビショッピングの様相を呈していた。

しかし。
その力強さ、迷いのなさ、そして「自分の弱みを握られているかもしれない」という恐怖が、聴衆の心を動かした。

パチ……パチパチ……。

誰かが拍手をした。
それは、ラシード公爵だった。
彼は壁際で腕を組み、面白そうに笑っていた。

それを合図に、会場中から拍手が巻き起こった。

「す、すげえ……あの女、本物だ……」
「悪役令嬢というか、女帝だな」
「おい、俺も相談してみようかな……実は妻が怖くて……」

割れんばかりの拍手喝采。
嘲笑は消え、そこには奇妙な熱気が生まれていた。

「……コンシュ……」

ジェラルドが涙目で私を見ている。

「君は……僕を庇ってくれたのか……?」

「勘違いしないでください。殿下の『返済能力』を守っただけです。殿下が潰れたら、私が損をしますから」

私は冷たく言い放ち、演台を降りた。
だが、その足取りは軽い。
会場を見渡せば、名刺を拾い集める貴族たちの姿。
これだけで、向こう半年の売上は見込めるだろう。

私が戻ると、ラシード公爵がタオル(汗拭き用)を差し出してくれた。

「……見事な演説だった。独裁者になれるぞ」

「褒め言葉ですね。……喉が渇きました」

「だろうな。……これでも飲め」

公爵は自分のグラスを渡してくれた。
口をつけると、ただの水だが、最高に美味しかった。

「……これで、私の役目は終わりですね」

「ああ。あとは……私と『お前』の話を進めるだけだ」

公爵が意味深に笑う。
そう。
他人の結婚式という前座は終わった。
次はいよいよ、私自身の契約――プロポーズの回答をする番だ。

会場の熱気の中、私は公爵の手を握り返した。
その手は、どんな契約書よりも温かく、私を安心させてくれた。
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