大歓喜、婚約破棄! 悪役令嬢は自由を満喫したい。

パリパリかぷちーの

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レオンの、あまりにも真摯で、不器用で、そして心からの告白。
月明かりの下、キリアはただ、溢れ出る涙をそのままに、目の前でひざまずく彼を見つめていた。
心の奥底から湧き上がってくる、温かく、そしてくすぐったいような感情。
これが『恋』なのだと、彼女は生まれて初めて、はっきりと理解した。

しばらく、心地よい沈黙が流れた。
自分の答えを待つレオンの表情が、普段の冷静沈着な彼からは想像もつかないほど、緊張で硬くなっているのが分かる。
その生真面目さが、なんだかおかしくて、愛しくて。
キリアは、涙に濡れた頬のまま、ふふっ、と小さく笑い声を漏らした。

「団長」

「…はい」

「わたくし、先日の旅で、一つだけ心残りなことがございますの」

突然の、脈絡のない言葉。
レオンは、困惑したように眉をひそめた。

「心残り、ですか…?」

「ええ。あと少しでたどり着けたはずの、あの『虹色の沼』の大ガラクタ市。結局、行けずじまいでしたわ」

キリアは、わざと少しだけ残念そうな声色で言った。
その言葉に、レオンの顔に、分かりやすく罪悪感と落胆の色が浮かぶ。

「それは…まことに、申し訳ないことを…。俺が、貴女を王都へ連れ戻したばかりに…」

「いいえ、団長。そうではございませんわ」

キリアは、ゆっくりと首を横に振った。
そして、彼の手を優しく引き、その場に立ち上がらせる。
レオンの、戸惑うアイスブルーの瞳を、彼女は紫水晶の瞳で、まっすぐに見つめ返した。

「わたくしが言いたいのは、つまり、こういうことですの」

彼女は、にこり、と。
これ以上ないほどに幸せな、満開の花のような笑顔を浮かべた。

「次の『虹色の沼』の大市には、ぜひ、あなたとご一緒させていただきたいのです。わたくしの、生涯のパートナーとして。よろしいかしら、レオン?」

「―――っ!」

初めて、名前で呼ばれた。
そして、それは紛れもない、彼の告白に対する肯定の答え。
レオンの瞳が、驚きと、そして次の瞬間には、抑えきれないほどの歓喜の色に見開かれた。
いつもは固く結ばれているその口元が、ゆるりと綻んでいく。

「…キリア」

彼もまた、初めて、彼女の名前を呼んだ。
その響きを確かめるように、もう一度。

「キリア…。ああ、もちろん、喜んで」

レオンは、衝動のままに、目の前の愛しい女性を、その腕の中に強く、しかし壊れ物を扱うかのように優しく、抱きしめた。
キリアの華奢な体が、レオンの屈強な胸の中にすっぽりと収まる。
お互いの心臓の音が、まるで一つの音のように重なって、速く、そして力強く響き合った。

「ですが、一つだけ、お約束してくださいましね」

キリアが、レオンの胸に顔をうずめたまま、くぐもった声で言った。

「わたくし、あなたと一緒になっても、このガラクタ集めだけは、決してやめませんから。世界中の果ての果てまで、宝物を探しに行きますわよ?」

その、少しも変わらない彼女らしさに、レオンはたまらず笑い声を上げた。
それは、あの夕暮れの湖畔で見せた、はにかんだような微笑みではない。
心の底から込み上げてくる、幸せに満ちた、朗らかな笑い声だった。

「ああ、もちろんだ。どこへなりとも、お供しよう」

レオンは、腕の中の温もりを、さらに強く抱きしめる。

「君が見つけ出す、どんな奇妙なガラクタも、これからは俺が隣で見ていてやる。…そして、時々は、その価値について、共に頭を悩ませよう」

「うふふ、楽しみですわ」

悪役令嬢として婚約破棄されたあの日から始まった、不思議な旅。
それは、彼女にとって、本当の自由と、そして何よりもかけがえのない『宝物』を見つけるための、壮大な物語の序章に過ぎなかった。

月明かりが、静かに二人を祝福するように、バルコニーを優しく照らし出していた。
遠くで聞こえる宴の喧騒も、もはや二人の世界には届かない。
氷の騎士と、元悪役令嬢。
二つの全く違う魂が、今、確かに一つに結ばれた。
彼らの新しい旅は、まだ始まったばかりだ。
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