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結婚式当日の空は、まるで私たちの未来を祝福するかのように、どこまでも青く、そして晴れ渡っていた。
ヴァイス城で最も神聖な大聖堂は、数え切れないほどの白い花々と、柔らかな陽光で満たされている。
父のエスコートで、ゆっくりとバージンロードを歩む私の心は、喜びと、少しの緊張、そして、どうしようもないほどの幸福感で、はちきれそうだった。
純白のシルクで仕立てられたウェディングドレスの裾が、大理石の床を滑る音が、静かな聖堂に優しく響く。
祭壇の前には、レオが立っていた。
昨日までの彼とは違う。
ヴァイス王国の次期国王として、純白の儀礼服に身を包んだ、私の、たった一人の王子様。
彼は、いつもの無表情を保ってはいたが、その青い瞳の奥には、確かな愛情と、優しい光が宿っているのを、私は知っていた。
父の手から、レオの手へと、私の小さな手が渡される。
彼が、力強く、そして優しく、私の手を握り返してくれた瞬間、私の心の中の最後の緊張が、ふっと解けていくのを感じた。
神の御前で、永遠の愛を誓う。
彼の低い、落ち着いた声が、私の名を呼ぶ。
私の震える声が、彼の名を呼ぶ。
指輪の交換。
そして、誓いのキス。
ベール越しに触れた彼の唇は、今までで一番、甘かった。
聖堂は、割れんばかりの拍手と、祝福の声に包まれた。
遠くの席で、母が静かに涙を拭い、兄が、少しだけ寂しそうに、けれど誇らしげに微笑んでいるのが見えた。
厳かな儀式が終わると、場所は城で最も大きな祝宴の間へと移された。
そこには、私たちの結婚を祝うために、シュミット王国、そして世界中から集まった、王侯貴族たちの笑顔が咲き乱れていた。
宴もたけなわとなった頃、ついに、その瞬間がやってきた。
会場の照明が少し落とされ、壮麗な音楽と共に、私たちの愛の結晶が、ゆっくりと運ばれてくる。
「まあ……!」
会場のあちこちから、感嘆のため息が漏れた。
そこに現れたのは、私とレオが、二人で心を込めて設計した、世界でたった一つのウェディングケーキだった。
一番下の土台は、私たちの出会いを象徴する、バタークッキー。
その上には、二つの国が一つになった証である、ピスタチオグリーンのクリームの層。
側面には、思い出の森で採れた、宝石のようなベリーたちが、惜しげもなく飾られている。
そして、一番上には、ヴァイス王国の象徴である、陽光を受けて七色に輝く、大きな氷の結晶の飴細工。
それは、ただのケーキではない。
私たちの、これまでの物語、そして、これからの未来、そのすべてが詰まった、愛の形そのものだった。
レオに手を引かれ、ケーキの前へと進み出る。
二人で、銀のナイフを握りしめ、一番下の、クッキーの土台に、そっと刃を入れた。
再び、会場は祝福の拍手に包まれる。
そして、ファーストバイト。
私が、小さなスプーンで一口分のケーキをすくい、レオの口元へと運ぶ。
彼は、少しだけ照れたように、しかし素直に、その一口をぱくりと頬張った。
その瞬間だった。
レオの、いつもは氷のように静かな青い瞳が、驚いたように、大きく、大きく、見開かれた。
そして、ゆっくりと、その表情が、和らいでいく。
固く結ばれていた口元が、ふわりと、花が綻ぶように、優しく、弧を描いた。
それは、私が今まで見たことのない、彼の笑顔だった。
これまでの、満足げな笑みでも、悪戯っぽい笑みでもない。
心の奥深く、氷に閉ざされていた彼の魂が、完全に溶けて、愛しさと、幸福感だけで満たされたような。
蕩けるように甘くて、優しい、ただ一人の愛する女性にだけ向ける、特別な笑顔。
その、奇跡のような光景に、会場中が、息をのんだ。
国王陛下は、驚きに目を見開いたまま、固まっている。
ジルは、信じられないものを見たという顔で、口をあんぐりと開けている。
そして、私の兄は、その光景を見て、ようやく心の底から安堵したように、静かに、そして深く、頷いていた。
「……美味いか?」
「ええ」
彼は、私の問いに、子供のように素直に頷いた。
「人生で、一番、美味い」
その言葉と共に、彼は、今度は自分のスプーンでケーキをすくい、私の口元へと運んでくれる。
その甘くて、幸せな味を、私も、一生忘れることはないだろう。
宴が終わり、二人きりになった寝室のバルコニーで、私たちは、静かに夜空を眺めていた。
「ねえ、レオ。わたくし、世界で一番、幸せですわ」
私がそう言うと、彼は、私の肩を優しく抱き寄せた。
「俺もだ」
彼は、私の額に、そっとキスを落とす。
「お前という、甘くて、温かい太陽を見つけたのだから」
婚約破棄された、悪役令嬢の物語は、ここで終わり。
これからは、氷の皇太子を、その愛で蕩かした、皇太子妃アメリアの、新しい、そしてどこまでも甘い物語が、始まるのだ。
私たちは、寄り添いながら、輝く未来へと続く、満天の星空を、いつまでも見上げていた。
ヴァイス城で最も神聖な大聖堂は、数え切れないほどの白い花々と、柔らかな陽光で満たされている。
父のエスコートで、ゆっくりとバージンロードを歩む私の心は、喜びと、少しの緊張、そして、どうしようもないほどの幸福感で、はちきれそうだった。
純白のシルクで仕立てられたウェディングドレスの裾が、大理石の床を滑る音が、静かな聖堂に優しく響く。
祭壇の前には、レオが立っていた。
昨日までの彼とは違う。
ヴァイス王国の次期国王として、純白の儀礼服に身を包んだ、私の、たった一人の王子様。
彼は、いつもの無表情を保ってはいたが、その青い瞳の奥には、確かな愛情と、優しい光が宿っているのを、私は知っていた。
父の手から、レオの手へと、私の小さな手が渡される。
彼が、力強く、そして優しく、私の手を握り返してくれた瞬間、私の心の中の最後の緊張が、ふっと解けていくのを感じた。
神の御前で、永遠の愛を誓う。
彼の低い、落ち着いた声が、私の名を呼ぶ。
私の震える声が、彼の名を呼ぶ。
指輪の交換。
そして、誓いのキス。
ベール越しに触れた彼の唇は、今までで一番、甘かった。
聖堂は、割れんばかりの拍手と、祝福の声に包まれた。
遠くの席で、母が静かに涙を拭い、兄が、少しだけ寂しそうに、けれど誇らしげに微笑んでいるのが見えた。
厳かな儀式が終わると、場所は城で最も大きな祝宴の間へと移された。
そこには、私たちの結婚を祝うために、シュミット王国、そして世界中から集まった、王侯貴族たちの笑顔が咲き乱れていた。
宴もたけなわとなった頃、ついに、その瞬間がやってきた。
会場の照明が少し落とされ、壮麗な音楽と共に、私たちの愛の結晶が、ゆっくりと運ばれてくる。
「まあ……!」
会場のあちこちから、感嘆のため息が漏れた。
そこに現れたのは、私とレオが、二人で心を込めて設計した、世界でたった一つのウェディングケーキだった。
一番下の土台は、私たちの出会いを象徴する、バタークッキー。
その上には、二つの国が一つになった証である、ピスタチオグリーンのクリームの層。
側面には、思い出の森で採れた、宝石のようなベリーたちが、惜しげもなく飾られている。
そして、一番上には、ヴァイス王国の象徴である、陽光を受けて七色に輝く、大きな氷の結晶の飴細工。
それは、ただのケーキではない。
私たちの、これまでの物語、そして、これからの未来、そのすべてが詰まった、愛の形そのものだった。
レオに手を引かれ、ケーキの前へと進み出る。
二人で、銀のナイフを握りしめ、一番下の、クッキーの土台に、そっと刃を入れた。
再び、会場は祝福の拍手に包まれる。
そして、ファーストバイト。
私が、小さなスプーンで一口分のケーキをすくい、レオの口元へと運ぶ。
彼は、少しだけ照れたように、しかし素直に、その一口をぱくりと頬張った。
その瞬間だった。
レオの、いつもは氷のように静かな青い瞳が、驚いたように、大きく、大きく、見開かれた。
そして、ゆっくりと、その表情が、和らいでいく。
固く結ばれていた口元が、ふわりと、花が綻ぶように、優しく、弧を描いた。
それは、私が今まで見たことのない、彼の笑顔だった。
これまでの、満足げな笑みでも、悪戯っぽい笑みでもない。
心の奥深く、氷に閉ざされていた彼の魂が、完全に溶けて、愛しさと、幸福感だけで満たされたような。
蕩けるように甘くて、優しい、ただ一人の愛する女性にだけ向ける、特別な笑顔。
その、奇跡のような光景に、会場中が、息をのんだ。
国王陛下は、驚きに目を見開いたまま、固まっている。
ジルは、信じられないものを見たという顔で、口をあんぐりと開けている。
そして、私の兄は、その光景を見て、ようやく心の底から安堵したように、静かに、そして深く、頷いていた。
「……美味いか?」
「ええ」
彼は、私の問いに、子供のように素直に頷いた。
「人生で、一番、美味い」
その言葉と共に、彼は、今度は自分のスプーンでケーキをすくい、私の口元へと運んでくれる。
その甘くて、幸せな味を、私も、一生忘れることはないだろう。
宴が終わり、二人きりになった寝室のバルコニーで、私たちは、静かに夜空を眺めていた。
「ねえ、レオ。わたくし、世界で一番、幸せですわ」
私がそう言うと、彼は、私の肩を優しく抱き寄せた。
「俺もだ」
彼は、私の額に、そっとキスを落とす。
「お前という、甘くて、温かい太陽を見つけたのだから」
婚約破棄された、悪役令嬢の物語は、ここで終わり。
これからは、氷の皇太子を、その愛で蕩かした、皇太子妃アメリアの、新しい、そしてどこまでも甘い物語が、始まるのだ。
私たちは、寄り添いながら、輝く未来へと続く、満天の星空を、いつまでも見上げていた。
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