謹んで、婚約破棄をお受けいたします。

パリパリかぷちーの

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クララの断罪が下され、全てが終結した後。
国王は、居合わせた貴族たちを下がらせると、一人、息子であるジュリアンを玉座の前に呼びつけた。
父と子、というよりは、王と罪を犯した臣下。そんな、冷え切った空気が二人の間に流れていた。

「……ジュリアン」

「はい、父上」

「弁解の言葉は、あるか」

国王の問いに、ジュリアンは力なく首を横に振った。
もはや言い訳の言葉など、何一つ思い浮かばなかった。
己の愚かさを、骨の髄まで思い知らされた後だった。

「お前は、一人の女の、浅はかな涙と嘘にいとも簡単に騙された。国の次期国王たる者がだ」

その言葉が、鞭のようにジュリアンの心を打つ。

「お前の軽率な判断が、長年、王家に忠誠を誓ってきたデュクロワ家をそして幼い頃よりお前の婚約者であったマーブル嬢をどれだけ深く傷つけ侮辱したか分かっているのか」

「…………申し訳、ございません」

絞り出すような謝罪の言葉。
だが、国王は容赦をしなかった。

「謝罪で、済む問題ではない。お前は王太子として国を導く者として最も重要な『真実を見抜く目』を持っていないことを自ら証明してしまったのだ」

それは、ジュリアンという人間そのものへの否定だった。

「よって、ここに沙汰を下す」

国王は、冷然と息子に告げた。

「ジュリアン・フォン・エルツドルフ。お前の王位継承権については、一旦、白紙に戻し再検討とする。しばらくは、全ての公務から外れ自室にて己の愚かさを猛省するがよい」

「……っ!」

それは、事実上の王太子からの解任宣言だった。
ジュリアンは、がくりとその場に膝をついた。
全てを、失った。
愛した(と思っていた)女も、国民からの信頼もそして未来の王という己の存在意義さえも。
その全てを、己自身の愚かな行いによって。

「……謹んで、お受けいたします」

ジュリアンは床に額をこすりつけ、そう答えることしかできなかった。

国王に退出を命じられ、ジュリアンはまるで魂が抜け殻になったかのようにふらふらと大広間から続く廊下を歩いていた。
その時だった。
前方から、父であるデュクロワ公爵、そしてアリスティードと共に、マーブルが歩いてくるのが見えたのは。

(……マーブル)

ジュリアンは、吸い寄せられるように彼女の元へと歩み寄っていた。
衛兵が止めようとするのを、手で制して。

そして、彼はマーブルの目の前で、深く深く頭を下げた。
王族が、臣下に対して決して見せることのない謝罪の姿だった。

「マーブル……。……すまなかった」

声が震えていた。

「僕は……。僕は、君に取り返しのつかないことをした。どんな罰でも受けるつもりだ。だから……」

だから、どうか許してくれ。
そう、続けようとしたジュリアンの言葉をマーブルの静かな声が遮った。

「殿下、お顔をお上げください」

その声には、怒りも憎しみもなかった。
ただ、どこまでも穏やかだった。

「……ですが、謝罪はもう必要ございません」

「な……。だが、僕は君をあれほど傷つけた……!」

「いいえ」

マーブルは、静かに首を横に振った。

「なぜなら、わたくしはもうあなたのことなど何とも思っておりませんから」

「え……?」

ジュリアンは、意味が分からず呆然と彼女の顔を見上げた。
マーブルは、そんな彼にほんの少しだけ哀れむような視線を向けた。

「あなたの言葉も、あなたの存在も今のわたくしにとっては道端に転がる石ころと、同じです。石ころに蹴躓いたことを、いちいち気になどいたしませんでしょう?」

それは、どんな罵詈雑言よりも残酷な言葉だった。
憎しみは、まだ感情がある証拠だ。
だが、彼女が向けるのは完全な無関心。

「あなたと過ごした年月も、交わした言葉もわたくしの中ではもう全て過去の埃となりました。ですから、どうぞお気になさらないで」

マーブルは、そう言うと初めて会う貴族にでもするように完璧な淑女の礼をとってみせた。

「それでは、殿下。ごきげんよう」

くるりと、彼女は、背を向けた。
そして、隣で待っていたアリスティードの元へと歩み寄る。
その顔には、一瞬たりと、ジュリアンへの未練など浮かんでいなかった。

アリスティードは、そんなマーブルの肩を優しく抱くといたわるように共に歩き去っていく。
その後ろ姿は、あまりにもお似合いで。

ジュリアンは、一人、その場に立ち尽くした。
振るわれた刃が憎しみであればまだ良かった。
だが、彼女が彼に与えたのは存在そのものを無に帰す『無関心』という、最も残酷な罰だった。

愚かな王子の、長く、惨めな末路はこうして静かに始まったのである。
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