「怒れる悪役令嬢」として婚約破棄されました。

パリパリかぷちーの

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「……なんだ、このゴミの山は」

翌朝、公爵邸の玄関ホールは、異様な光景に包まれていた。

リュカが氷点下の声で問いただすと、執事が困った顔で答える。

「は、はい……。今朝一番で届いた、メフィア様への『手紙』と『貢物』の数々でございます」

玄関には、山のように積まれた手紙の束と、リボンでラッピングされた小箱、そしてなぜか大量の「お菓子」や「ぬいぐるみ」が溢れかえっていた。

「ひぃぃ! な、なんですかこれ!? 嫌がらせですか!?」

遅れてやってきたメフィアは、その光景を見て悲鳴を上げた。

「こ、これはきっと『不幸の手紙』とか『呪いの藁人形』が入ってるんだわ! 昨日の学園祭で調子に乗ったから、天罰が下ったのよ!」

メフィアはガタガタと震えながら、リュカの背中に隠れた。

「旦那様! 燃やしましょう! この不吉な物体Xをすべて焼却処分してください!」

「……ああ、そうだな。燃やすか」

リュカの声が、いつも以上に低い。

彼の手には、一通の手紙が握られていた。

勝手に開封されたその手紙には、可愛らしい文字でこう書かれている。

『メフィア様へ。昨日の映像を見て、あなたのファンになりました! 今度、一緒にお茶をしたいです。大好きです! ――王立学園高等部一年より』

「……『大好きです』だと?」

リュカのこめかみに、青筋がピキリと浮かぶ。

「ほう……。どこの馬の骨とも知らん若造が、私のペットに求愛とは。……いい度胸だ」

(えっ? 求愛? 脅迫状じゃなくて?)

メフィアがおずおずと覗き込む。

「あの、旦那様……? 目が据わってますけど……」

「メフィア。お前は愛されているな」

「えっ、誰にですか? 悪魔にですか?」

「学園の生徒たちだ。……どうやら『メフィア様を守る会』なる組織が結成されたらしいぞ」

「守る会!? なにそれ! 宗教団体!?」

メフィアは混乱した。

昨日の今日で、そんな組織ができるなんて信じられない。

「いいか、メフィア。……お前は誰のものだ?」

リュカが突然、メフィアの肩を掴んで自分の方へ向かせた。

その瞳は、獲物を前にした肉食獣のようにギラついている。

「え、えっと……旦那様……の、愛玩動物……です……」

「そうだ。……なら、他の飼い主など必要ないな?」

「は、はいぃ……! 一匹(一人)で十分ですぅ!」

「よろしい」

リュカは執事に向かって、冷酷に命じた。

「これらをすべて処分しろ。……ただし、菓子類だけはメフィアに食わせてやってもいい(毒味をした上でな)」

「かしこまりました」

こうして、せっかくのファンレターは、嫉妬深い公爵様によって闇に葬られる……はずだった。

「お、お待ちになって!」

玄関の扉がバーン! と開かれ、一人の少女が飛び込んできた。

リリーである。

「リリー様!?」

「セーフ! 間に合いましたわ!」

リリーは肩で息をしながら、山積みのプレゼントの前に立ちはだかった。

「リュカ様! これらを燃やすなんて野蛮ですわ! これは、生徒たちの純粋な『推し活』の結晶なんですのよ!」

「……推し活?」

リュカが眉をひそめる。

「ええ! メフィアお姉様の尊さを世に広め、崇め奉る活動のことです!」

リリーはキラキラした目で宣言した。

「実は私、その『守る会』の会長に就任しましたの!」

「ええええええ!?」

メフィアの絶叫が屋敷に響く。

「な、なんで!? リリー様、セドリック様の婚約者ですよね!? 敵じゃないんですか!?」

「敵だなんて! 昨日の映像を見て、私、確信しましたの。お姉様こそ、私が探し求めていた『理想の姉』だと!」

リリーはメフィアの手をガシッと握りしめた。

「怖がりで、震えていて、でも内面はとっても乙女……! そんなギャップ萌えの塊であるお姉様を、私が守護(プロデュース)させていただきます!」

「い、いらないですぅぅ! 放っておいてくださいぃぃ!」

「……リリー嬢」

リュカが静かに割って入った。

「私の屋敷で、勝手な真似は困るな。……メフィアのプロデュース権は、私が持っている」

「あら、リュカ様。独占はいけませんわ」

リリーは怯むことなく、公爵に立ち向かった。

天然とは恐ろしいものである。

「共有財産(シェア)こそが、推し活の基本。……リュカ様も、お姉様の可愛さを独り占めするより、みんなで『尊い……』と拝む方が幸せじゃありませんこと?」

「……一理あるな(ない)」

リュカは即座に否定したが、リリーは止まらない。

「というわけで! 今日は会員特典として、お姉様を『女子会』にお連れします!」

「女子会!?」

メフィアとリュカの声が重なった。

「はい! 街のカフェで、可愛いケーキを食べて、恋バナをするんです! 女の子の憧れですわ!」

「む、無理です! 私、コミュ障ですよ!? 会話が『あ、はい』と『ごめんなさい』しか言えませんよ!?」

「大丈夫です! 私がマシンガントークしますから!」

リリーは強引にメフィアの腕を引く。

「待て」

リュカがその手を遮った。

「メフィアを連れ出すなら、私の許可が必要だ。……それに、護衛もなしに街へ出すわけにはいかん」

「あら、それならリュカ様も来ればいいじゃありませんか」

「は?」

「『女子会』に、特別ゲストとして!」



数時間後。

王都のオシャレなオープンカフェにて。

そこには、奇妙な三人組の姿があった。

震えるメフィア、ニコニコのリリー、そして……

「……なぜ私がここにいる」

不機嫌オーラ全開で腕を組む、サングラス姿のリュカ。

周囲の客たちは、この異様なグループを遠巻きに見つめている。

「見て、あれ……公爵様よね?」

「なんでカフェでパンケーキ食べてるの……?」

「隣のメフィア様、フォーク持つ手が震えすぎて生クリームが飛び散ってるわよ」

完全に注目の的だ。

「さあお姉様! 『季節のフルーツパンケーキ』ですわ! あーんしてください!」

リリーがフォークを差し出す。

「ひぃっ! じ、自分で食べますぅ……!」

メフィアは真っ赤になって拒否するが、リリーは引かない。

「ダメです! これは『尊い光景』を作るための儀式なんです!」

「意味がわかりません!」

「……おい、リリー嬢」

リュカが低い声で割り込む。

「メフィアに餌付けをするのは私の役目だ」

「あら、リュカ様もやりたいんですか? じゃあ、反対側からどうぞ!」

「……ほう」

リュカは自分の皿からイチゴを摘むと、メフィアの口元へ。

「ほら、食え」

「えっ、えっ!? 左右から!?」

右にはリリーのパンケーキ、左にはリュカのイチゴ。

両手に花ならぬ、両手に猛獣(?)状態だ。

「うぅ……いただきます……」

メフィアは覚悟を決めて、交互に口に入れた。

(美味しい……。味は美味しいけど、胃が痛い……!)

その様子を、リリーがスケッチブックに猛スピードで描いている。

「素晴らしいですわ! 『公爵様と悪役令嬢の禁断の餌付けタイム』……! これは会報誌の表紙になります!」

「会報誌まで作るんですか!?」

「はい! タイトルは『月刊メフィア』です!」

「廃刊にしてください!」

その時、カフェの入り口がざわついた。

「きゃー! セドリック様よ!」

現れたのは、第二王子セドリックだった。

彼はリリーを探して、ここまで追ってきたらしい。

「リリー! こんなところにいたのか! ……って、なんだそのメンバーは!?」

セドリックは、リュカとメフィア、そしてリリーが仲良く(?)お茶をしている光景を見て、目を剥いた。

「き、貴様ら……! まさかリリーまで洗脳したのか!?」

「違いますわ、セドリック様。これは『女子会』です」

「女子会!? リュカもいるじゃないか! あいつは女子か!?」

「心は乙女かもしれませんわ」

「ぶっ!」

リュカがコーヒーを吹き出しそうになった。

「訂正しろ、リリー嬢。私は男だ。……メフィアを喰らう狼だぞ」

リュカがドヤ顔で言うと、セドリックが顔を赤くして叫んだ。

「き、貴様! 昼間から何を破廉恥なことを! 公衆の面前だぞ!」

「事実だ。……な、メフィア?」

リュカがメフィアの腰に手を回す。

「ひゃうっ! 触らないでください! また変な噂が立ちます!」

「もう立っている。……『公爵様は甘えん坊』という噂がな」

「誰のせいですか!」

カオスな状況に、セドリックは頭を抱えた。

「もういい……。リリー、帰るぞ! こんな魔窟にいたら、君まで毒される!」

「えー、まだデザートの『お代わり』が来てませんわ」

「私が買ってやるから! 頼むから帰ってくれ!」

セドリックに引きずられるようにして、リリーは退場していった。

「お姉様ー! またファンレター書きますわねー! 次は『公爵様とのペアルック』を希望しますわー!」

嵐が去った後。

カフェには、疲れ果てたメフィアと、どこか満足げなリュカが残された。

「……疲れた……」

メフィアはテーブルに突っ伏した。

「もうやだ……。ファンクラブとか、月刊誌とか……私の平穏な隠居生活はどこへ……」

「諦めろ」

リュカは残ったイチゴを口に放り込んだ。

「お前が可愛すぎるのが罪だ」

「……っ!」

サラッと言われた言葉に、メフィアの心臓がトクンと跳ねる。

「だ、旦那様、最近……口説き文句が雑になってませんか?」

「本音を言っているだけだ」

リュカはサングラスを少しずらし、青い瞳でメフィアを見つめた。

「ファンクラブができようが、会報誌が出ようが関係ない。……お前の『一番』のファンは、私だ」

「……」

メフィアは顔を真っ赤にして、メニュー表で顔を隠した。

(うぅ……悔しいけど、ちょっとだけ嬉しいと思ってしまった自分が憎い……!)

「さあ、帰るぞ。……屋敷に戻ったら、あのファンレターの山を焼却する儀式が待っている」

「まだ燃やす気だったんですか!?」

「当たり前だ。……お前への愛の言葉など、私以外が紡ぐ必要はない」

独占欲の塊のような公爵様に手を引かれ、メフィアは店を出た。

その背中には、カフェの客たちからの「ごちそうさまでした」という温かい視線が突き刺さっていたのだった。
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